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宝物庫からギターモドキさんを取り出す。
「ちょっとイイもん聞かせてやるからハピはこっち戻ってこい。」
声をかけつつちょっとチューニングを施す。
「ん、なになに!」
地面で好き勝手に振り回してたハピがこちらに走って戻ってくる。
「ちゃんと座っとけよ。」
「うんうん!」
「メルもな。」
「えっ、僕も?」
いそいそと座りなおすハピを尻目に、馬車に座りながら遠くの木を狙ってたメルにも声をかける。
この二人は確定だな、興奮で眠れない奴らだ。
「んじゃいっちょいきますか。眠り姫。」
静かに演奏を始める。この曲だと目覚めそうとかそんなこと考えちゃいけない。
曲が始まるとみんなちゃんと聴いてくれたので安心だ。
そこに魔力を交えて静かに歌っていく。
「…いい曲ですね。」
「なんか悲しい曲。」
「…あれ?ハピ?」
「メルもどうした?」
「見張りのこともあるし、二人程眠らせといた。そっとしといてな。」
途中からハピとメルの体が泳ぎ始め、コロッと眠ってしまった。
フランとロイに寄りかかるように寝ているのでそっとしておくように言っておく。
「…歌声が聴こえたと思ったらこれか。」
「いい歌だっただろ?」
「確かにそうだが…、もうなんでもありだな。」
「詩人として子守唄歌っただけだ。」
魔力全開でやれば一言で眠りそうだが、それだと味気ないし、ウトウトしながらってのがいいだろう。
「部下の体調を一に考える俺。有能。」
「…ないですね。」
「ないない。」
悲しいこと言うなよ。
「…次は?」
「えっ?」
「あー、久しぶりにたくさんリー君の歌声聴きたいな!」
「えぇ…。」
ルクとフランがそんなことを言ってくる。
俺としてはハピとメルを眠らせる為にやっただけなので一曲だけのつもりなんだが。今は別に魔物よけも必要ないしな。
「まぁ、起こさないように静かになら…。」
「起きたらまた眠らせればいいじゃないですか。」
「結構鬼畜な発言しますね、シェリーさん。…まぁ静かな曲で。」
しょうがないので宝物庫にしまおうとしていた手を止めてまた演奏を始める。
みんな静かに聴いてくれるのはいいとして、…まぁいいか。別に皆はやる事がないのだ。
今は訓練とか忘れて休憩タイムだ。
もう一曲終わったとこで宝物庫から紙の束を取り出し、ぺらぺらとめくる。
「それなによ?」
「あぁ、これは俺が演奏してる曲の一覧。歌詞とか色々書いてある。」
「昔から書いてましたよね。」
ルクが紙を覗き込みながら聞いてくる。
「…なんて書いてるかわかんない。」
「盗作されないように暗号化してあるからな!」
まぁ、普通に日本語で書いてあるだけなんだがな。
「あれ?黒い表紙のやつもありませんでしたっけ?」
「あー、あっちはちょっと、な…。」
今取り出した普通の表紙の紙の束。こっちは普通、いや、まぁアニソンとかなんだけど普通っぽい曲集。
黒い方はちょっとアクの強い曲の多くが綴ってある。…黒い方の曲を歌う時は来るんだろうか。
「さっきの曲はどれなの?」
「見てもわからんと思うが…、これだ。」
ぺらぺらと紙を捲りルクに手渡す。
「…、もっかいさっきの歌って。」
「えぇ、マジか。」
「いいでしょ?どうせ暇なんだし。」
「確かにそうなんだが。」
そう言って回りをちょっと見渡すが別に皆異論はないらしい。
ならいいか、ルクが興味もってくれたのはいい事だしな。
と思いつつ歌ったが、結局5回程眠り姫を歌わされた。
ちょくちょくアレンジを加えるのにも限界があるぞ。




