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「最後は僕だよね、ねっ?」
「あぁ、そうだな。」
「これだよねっ?ねっ?」
「お前メルよりはしゃいでんじゃねぇか。」
ずっとそわそわしてたのでわかってたが、もう我慢できなかったらしい。
俺の阿修羅丸より小さい、日本刀風の刀をハピが手に取る。
「これリードとお揃い?だよね?」
「いや、まぁ、似てるっちゃ似てるけども。」
そりゃ俺の阿修羅丸をガン見してた時点で欲しいんだろうなってわかったが、ここまでテンションあがるとは思わなかった。
正確には脇差くらいの大きさの日本刀だ。俺のより小さいので扱いやすいと思うし、何より鞘から抜けないなんてないはずだ…。
ハピが早速鞘から刀を抜こうとする。
「説明聞けよ?」
「ぐっ、ぬぬぬ…。ぬ、抜けない…。ふりょうひんだー!!」
「俺が止めてるだけだから、落ち着け。」
俺の魔法で抜けなくなった脇差を抜こうと頑張るのはいいが、マジで落ち着け。
「はい、没収。」
「あぁっ!」
サッと脇差をハピの手から奪い、尚もこちらに手を伸ばすハピの頭を押さえつける。
「ちょっとハピ、落ち着こ?」
「う、うぅぅ…。」
「抑えてたやつが一気に出た感じだな、おい。」
フランに宥められ、若干落ち着きを取り戻すハピ。
これまでのが抑えてたうざいのが一気に出ましたね、はい。
「…。」
「…説明してからな?」
上目遣いでこちらを見てくるハピから視線をそらしながらそう呟く。
「こいつは俺のと同じ様だが、若干違う。本来はメインに据える武器じゃねぇんだ。」
「えっ?」
「俺のとセットで使うのが一般的だが、…まぁこの辺は言ってもしょうがねぇか。ハピの体格や女ってことを考えてだからこいつは十分実用的だ。」
「…どっちなの?」
不満そうな顔をこちらに向けるハピ。
「ハピ専用として作ってるから問題ない。」
「ん、えへへ…。」
にへらっとした顔に途端に変わる。…専用ってのが効いてるな。
「効果としては…、俺の阿修羅丸の超絶劣化だ。」
「へ?」
にへらっとした顔のまま固まる。
「さっきシェリーが言ってただろ?あれを考慮しての効果だ。」
「じゃ、じゃあ…さっきのリードみたいに…。」
「数発でぶっ壊れるな。」
サッとハピの顔色が悪くなっていく。そりゃあんなんしてたら当たり前だろ。どれだけ魔法消してると思ってんだ。
「とはいえ、一般的な魔法なら十分対応出来るだろ。シェリーが妥協出来る範囲でやったんだ、これが限界だ。」
「まぁ、そうですね。これでもギリギリですよ?」
作ってる時にシェリーの顔色伺いながらだったから結構緊張したんだぞ。
「うーん、それじゃあ仕方ないかなぁ…。」
作ってもらってるのにこの態度である。
「まぁ、もう一つ効果あるんだけどな。」
「えっ!!?本当っ!?」
「近い近い、座れ。」
態度を一変させてずいっと体を乗り出してくる。現金なやつめ。
「こいつを握って意識を集中させるとだな。…。」
そう言って集中し、少し横にずれる。
「んん、何も変わってないけど?…あれ?ちょっと移動した?」
「それだ。」
「えっ、移動なんてしてた?」
「私にはそうは見えませんでしたけど。」
「エルとルクはあんまり集中してみてなかっただろ?集中して見てたハピは気がついたわけだ。」
ぼんやりと見てる程度だと気がつかないだろう。
「えっと、つまり…。」
「気配が薄くなるんだ。つってもあんまり強力には出来無いからそこにいたのにいなかった程度だけどな。」
「それだと強力すぎるでしょう。…そうですね、普通の人には集中しないと目に入らない程度でしょうか。」
「道行く人が全員歩きスマホしてる感じだな。」
「あるきすまほ…?」
「いやこっちの話だ。まぁ1対1じゃ意味ねぇけど、多数や潜入の時に使えるだろ。」
わざと曖昧にして説明しておく。使い方は教えたが使いどころまで教えてたら意味ないしな。
「ほい、上手に使ってくれな。」
「ん、ありがとっ!」
受け取ると同時にハピが抱きついてくる。
「いや、させねぇけど。」
「っと…、今のは受け止めるとこでしょ!」
ハピのおでこを抑えて抱きつこうとする腕を空振りさせる。
お前こんな馬車の上で抱きつこうとすんなよ。狭いんだから、迷惑だろ。
「まぁ、マスターはこうですよね。」
「いや、狭いしな。バタバタしたくないし。」
「…地面の上でも拒否されそう。」
ハピが露骨に残念そうな顔をするが皆の迷惑にならないなら別にハグくらい余裕よ、多分。




