211
「うん。やっぱエルの飯は美味いな!」
「…なんでお前はそんなに元気なんだよ。」
「そりゃ、飯は全てにおいて優先されるべきことだからな。」
若干食欲がないのかお椀を片手にヒューイがそんなことを言ってきた。
流石にシェリーが加わった魔法の弾幕は辛かったがいい訓練になったと思われる。
しかし、シェリーには見抜かれてるんだよな。確かに皆が強くなっていくのを見て、俺もテンションをあげてたのはある。
まぁ、なんだ。銀っていうちょうどいい相手がいなくなり、持て余してた所をシェリーの言う通り皆の訓練と言いながら自分の都合のいいようにしてた。これは確定だろう。
気をつけないといけないな。今の目標は俺が強くなることじゃない。まずは皆に色々なことを馴染ませることだ。俺は勝手に自主連でもしとけばいい。優先順位を間違えちゃいけない。
「…考え事ですか?」
「ん。いや、…おかわりしようかなってな。」
「はい!たくさん食べてくださいね!」
空のお椀を持ったまま止まってたのでエルに心配されてしまった。
なんとなく恥ずかしかったのでごまかしておかわりをすることに。
「…うーん。」
「ロイさんもおかわりですか?」
「あっ、いや…、大丈夫だよ。」
ロイも若干上の空である。
いや、能力を分けてないヒューイ、ロイ、メル、ハピの四人が皆上の空だ。
魔法の使いすぎか…。魔力を使い慣れてない状態であれだけ魔法撃ってたらそうなるか。集中力もいるしな。
初日だから探り探りなのは仕方ないが、これは大反省しないとな。
まだこの中で元気なのはフランだろう。シェリーと雷牙と風牙はちょっと別格なので置いとくが。
「…エルも疲れてるだろ?片付けくらいは俺とシェリーがやるぞ?」
「…いえ、これが私の仕事ですので。」
「まぁ、私も手伝うし。大丈夫じゃない?」
「しれっと私も巻き込むのやめてくれませんか?」
食事も終わり、エルが早速といった感じで片付けをしようとするので提案したが却下されてしまった。
笑顔でそんなこと言われたらどうしようもない。ルクも普通に手伝うみたいなので大丈夫だろうが…。
シェリーもなんだかんだ言いながら手伝ってるので俺の出番が全くと言っていいほどなかった。
「雷牙と風牙は大丈夫か?」
「我々は、後半にしか参加していないので。」「皆さん程、疲れてはいません。」
エル達が片付けをしている間、皆に休憩をして頭を休めるように言い、雷牙と風牙の元に。
一応心配になったので声をかけたが大丈夫そうだ。いや、油断はダメだな。慣れない魔法を酷使させるのはやめておこう。雷牙と風牙がこの旅の中核なのだから。
「「何をしているのですか?」」
「ん。ちょっとでも皆の負担を減らしてやろうかなってな。」
馬車をちょっと弄ろうとタイヤの辺りを見ていたら見事なハモリで雷牙と風牙が問いかけてきた。
うん、普通に木の車輪だな。
これをどうするか…。まぁ、普通に考えたらこうなるな。
魔力を込め、車輪に錬金を仕掛けていく。付与させるのは風の魔法。
あまりに露骨すぎると空飛ぶ馬車になってしまうので少し浮かせるくらいがちょうどいい。これだと石とか踏んでしまったら結局馬車が揺れるので意味はないかもしれないが、道中のガタガタが少しでも減ればいいだろう。
これもまた俺の魔力を使ってるのでメンテナンス必須だが、別に俺達以外が使うわけじゃないのでいいだろう。
「…少し、」「浮きましたね。」
「おう、わかったか。ちょっと手を加えてみた。動かしにくかったら言ってくれ、調整するから。」
「なるほど、」「そうやって対処するのですね。」
「んー?これくらいなら結構やってそうだけどな。」
「ここまで大きな馬車の車輪を改良するのは、我々は見たことないですね。」「我々の居た所では、一番高価な馬車が車輪の代わりに板が取り付けてあり、少し浮いていただけでした。」
「あぁ、なるほど。ソリ型か。そっちなら確かに使う魔力とか少なくて済そうだな。」
俺みたいに車輪全体を改良しなくてもよさそうだ。しかし、それだとどっかに滑っていきそうだな。
「んー、そうやってかいぞお、おおっ!」
そっちのプランもありかと思いながら馬車に背中を預けたらスーっと後ろ向きに体が泳いでいった。
「あぁ!」「馬車が!」
ブリッジ寸前になりながら後ろを振り返ると馬車が見事にホバー移動していた。雷牙と風牙が驚いた声をあげたのは初ではなかろうか。
「っと、まずいまずい。」
誰かにぶつかると流石にまずい。すぐに馬車を掴んでその動きを止める。
「…うん。ただ浮かせたらこうなるのね。」
「…流石にあんな風に、」「馬車が動くのは初めてみました。」
確かにあれはちょっとしたホラーだわ。車輪は微動だにしてないのに横にホバー移動してく馬車。
「改良、するしかねぇよな。」
「「そうですね。」」
雷牙と風牙に言うまでもなく改良である。むしろ、このままじゃただの失敗作だ。これ止めるにも動かすにもコツが要りすぎるだろうな。
その後色々と試行錯誤し、車輪を空気で覆うのではなく、車輪にあまり鋭くない棘状の空気の塊をびっしりと付けることにした。
これなら地面に固定されて横にスライドしていくことはない。
だが、試運転して気がついたのだが、これだとあんまり振動が緩和されてない。
更にあれこれと試行錯誤。
結局車輪をどうこうするよりも車輪と馬車を繋いでいるシャフトの部分を改良することに。
ガッチリと車輪をつなぐのではなく間に空気を挟むように。
しかし、これも却下。フワフワするのだ。逆にこっちの方が酔ってしまう。
そして、最終手段。
車輪を水にする。これしかなかった。
こっちの世界にゴムとかあればよかったのだが、今のとこみたことはない。なら代用品でやるしかないだろう。
車軸の部分は木で作り、車輪の部分は水で衝撃を殺すように。更にこの部分は空気中の水分を吸収してメンテナンスフリーに。
仕上げに俺の情報偽装で木の車輪に見えるようにするだけだ。これならもう大丈夫だろう。車輪が通った地面が少し濡れるだけだ、もう知らん。
「…これは本当に先ほどの水の車輪。」「なのですよね?」
「よし、完璧だな!!」
「主様の考える事は、」「常識はずれですね…。」
最初からその作業を見ていた雷牙と風牙が疑心暗鬼になっているのだ。誰にもバレることはない。
若干雷牙と風牙が遠い目をしていた気もするが気にしたら負けだ。




