その足取りは、
「【森の調査】…?なんで今更こんなのが?って大体予想はつくが…。」
「はい、ここ三ヶ月程前から森の中の魔物が不自然に暴れてるとの話が多数あがっておりまして。その原因を調査、あるいは解明して欲しいのです。」
「とは言っても俺らはBランクになったばっかりだぞ?いくらなんでも森の奥地までは無理だろう。」
「いえ、森の周辺、それから貴方達がいける場所まで、その辺の調査で構いません。奥地にはAランクの冒険者を派遣予定ですので。」
「Aランクとはまた思い切ってんな…。」
ここはアトラスの冒険者ギルドの一角。王国お抱えの冒険者ギルド、その規模は当然大きい。拠点にしている冒険者もピンからキリまで、国からの依頼を受ける冒険者もいれば、まだ駆け出しの冒険者も多い。
そんな中、普段は使われることのない一室に通されたホルトはそこで仕事の内容を聞いて頭を悩ませた。
アトラス王国から東、大陸の真ん中を分けるように形成されている森。その大きさは大陸一であり、森に沿って歩くなら2週間はかかる程だ。そこは魔物が多く存在しているが、魔物も資源の一種。魔物も体内に宿している魔石もそうだが、魔物の皮や牙なども当然のように使えるのだ。森の近くに村や街が多いのもそのせいだ、危険もあるがその分利益もある。
正式名はなく、ただ単に【森】や【魔物の森】等と呼ばれるその森をホルトは思い出す。
(確かに、魔物が移動、或いは凶暴化している節はあるが…。大げさすぎやしないか?)
ホルトが思うように最近の森は少しおかしい、基本的に少数で行動するはずのコボルトが大部隊を作っていたり、オークにしても群れが多かったりする。しかし、それは珍しい事でもない。たまたまそんなのが重なっただけだろう。
「…もしかして新たな派閥でも出来たか?」
「…その可能性もあるでしょう。」
「なるほどな、それなら俺らのパーティーはうってつけってことか。」
ひとつの可能性、それを口にすると冒険者ギルドの職員も頷き、そう答えた。
ゆえに情報収集に長けた。いや、生存率が高く、堅実に依頼をこなすホルトのパーティーにこの依頼を持ってきたのであろう。
「…わかった、依頼を受けよう。わざわざ冒険者ギルドからの依頼だ、無碍には出来無いからな。」
「助かります。その分報酬の方はそこに書いてある通りなので。」
少し迷ったがホルトはこの依頼を受けることにした。報酬が魅力的なのもあったが、つい一週間前もあの森に入っているのだ。あの時は討伐の依頼だったので目標の魔石を手に入れたてさっさと帰ったが別に普段通りだった。今回は調査が目的なので戦闘を押さえればもう少し奥地までいけるだろう。
依頼を受ける手続きをし、ホルトは席を立ち自分の仲間、パーティーでありギルドの仲間の元に戻っていった。
「はー、暇だなー。」
「私達が暇なのはいい事でしょうが、それだと資金が底を尽きますね。」
「そんな暇ならハク草でも取りに森にでも行くか?」
「やるならユニとチリだけで行きなさい、私は当分いいわ。」
「まだ蜘蛛の巣に絡まったこと気にしてるの?すぐに解けたんだからいいじゃん、ねークロ。」
街の酒場の一角。男女4人の冒険者が一つのテーブルを独占し、のんびりと食事を取っていた。正確には4人と二匹、魔物使いと思われる少女の傍らには犬と言うには大きすぎる黒色の狼が、そしてその頭上には灰色の鳥が羽を広げて毛づくろいをしている。少女の問いかけにクロと呼ばれた狼が困ったように鳴き声をあげた。
「なら次は貴女が先に行きなさい。」
「アクが行ってくれるから別にいいよ?」
アクと呼ばれた灰色の鳥が俺っすか?と少女に抗議の眼差しを向ける。
「アクを便利に使いすぎな。いつか愛想つかれっぞ。」
「そんなことないよねー。はい、皮が剥けたよ。」
そういいながら少女はアクの目の前に手ひらを差し出す。
そんな中店の入口の扉が開く。使い古された大盾を背に、腰にはこれまた使い古されたメイスを携え、その男はテーブルに向かっていく。
「おかえりー、どうだった?」
「あぁ、冒険者ギルドから直々に依頼が入った。」
その男は依頼書をテーブルに置き、店員にスカの実のジュースを頼む。
「相変わらず甘党だな。」
「仕事前に一杯って訳にもいかねえだろ?」
「お酒飲めない癖によくいいますね。」
この店でしか販売されていないジュースなのでそれ目当ての客が多いのだろう、店員は慣れたように店の主人の元に注文を言いに行く。
これでギルドであり、パーティーでもある【雷の光】のメンバが揃った。
リーダーでるホルト、彼は前衛でその大盾を操りながら聖魔法も使いこなす熟練の戦士である。彼曰く自分の傷を治そうと思って身につけたと言うが、魔物の攻撃を受け流しながら詠唱を行うのがどれだけ難しいか。それもリーダーとして指示を飛ばしながらなので誰にでも出来る芸当ではない。
斥候、遊撃担当でこのパーティーの要であるチリ。中距離、主に投擲を主に戦う男、この男の存在でパーティーが安全に動けている。単なる斥候の役割だけではなく、基本的になんでもする。パーティー内のなんでも屋のポジションだ。
魔法使いであるバラン。杖を膝に置き、皆の話を聞きつつ豆を口に頬張る。寡黙な彼だが、魔力は高い。初期の魔法であるなら詠唱破棄ができ、ホルトが安心して前衛で耐えれるのは彼のおかげであろう。風と水の中級の魔法を操り、少しではあるが聖魔法も使える。その辺の魔法使いに比べて優秀である。
ホルトと同じく前衛を、しかしこちらは攻撃面の前衛を担当するケイ。腕にはバックラーを、右手にはロングソードを携えて我流の剣術で魔物を圧倒する。彼女はその前衛のせいで蜘蛛の巣にもかかってしまうのだが、後衛が罠にかかるよりは前衛がかかったほうがまだいいだろう。
そして、魔物使いであるユニ。このパーティー最年少であり、パーティーに入ってまだ日が浅い。それでも馴染んでるのは彼女の性格が良いからであろう。【ブラックウルフ】のクロ、【ソルジャーホーク】のアクを従いパーティーの斥候を補佐する。彼女自身も初級の火魔法が使えるので後衛としても先頭に参加している。
ホルト、チリ、バラン、ケイ、ユニ。この5人が【雷の光】のメンバーである。ギルドもパーティーも【雷の光】で通しているのでこの5人以外にはいない。しかし、お互いに信頼し、ギルドとパーティーを結成しているのでBランクとはいえどもその実力は冒険者ギルドでも話に上がるほどだ。
今回は説明回です。
普通の冒険者がどんな実力か、どんなことしてんのかってのです。
補足で説明すると
森=リードがよく暴れる森、今回の原因は大体リードのせい
ハク草=ヒールポーションになる草、本編に未登場
スカの実のジュースとお酒=シェリーとリードが気に入ったあれ。
初級の魔法なら詠唱破棄=リードみたいなスキル持ってなくても自力で破棄も無詠唱も出来る、しかし魔法の種類にもよるし消費魔力も桁違い。
初級とか中級とかの魔法=どんな魔法かによって本当は区別されてる。ウォーターボールを複数個なら厳密に言ったら【ウォーターボール・フォール】。リードがやってたのは全部一個のウォーターボールの魔法、普通の人が複数個のウォーターボール出すならウォーターボール・フォールを使う。




