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「これすっげぇな。…これ一つ売るだけで当分暮らせるぞ?」
「まぁ、金に困ったら量産して売るのも手だな…。すぐ作れるし。」
「…案外無欲なのか?」
「いや、そんなことはないと思うぜ?」
ヒューイから桶の転送石を返してもらい、一言二言交わす。
最初だったので時間がかかったが同じのコピーするだけならそんなに時間はかからんだろう。
しかし、俺の手でメンテしないといけない部分もあるので売るのは当分先になりそうだ。改良を加えてからだな。
「ほら、次はお前達だ。」
「ちょっと待って、今いい所だから!」
「別にいつでも好きに訓練出来るんだからいいだろ。…風呂ん中で魔法使うのはやめてくれよ?」
「あ!…わかったわよ。」
切り替えは大事だ。それに次には俺が入る予定なのだ。ルクの魔法を途中で消して風呂へと促す。
「マスターはいいんですか?」
「俺はまだやることがあるからな。」
「…この頃頑張りすぎじゃないですか?」
「ん?そうか?…いや、この雰囲気嫌いじゃないからな。」
そう、最近ちょっと慌ただしいが嫌いじゃない。
ネトゲ時代のイベント前の慌ただしさのような、そんな慌ただしさ。懐かしく感じるし、ワクワクしてる自分がいるのもわかる。
「それならいいんですけど…。」
「俺は楽しんでるから大丈夫。ほら、シェリーがいかないと皆入れないんだから。ついでにエル達にも【トラベルワープ】教えといてくれ、便利だからな。」
「…わかりました。」
さっさと入るようにシェリーも促す。入口が転送石なのでシェリーがいないと入れないだろう。いや、ハピも使えたっけな?それにフランも使えると思うけど…、ちょっと把握できてないな。まぁ、いいだろう。
シェリー達を見送って雷牙と風牙の方を見る。…角は安定してんだけどなー、体の大きさがなー。とりあえずは角なしで居てくれればいいか。
「んで、見張りだけどどうするよ?」
「あぁ、そうだな…。魔物は大丈夫だが、人間の方がな。…近くにはいないと思うが。」
ヒューイの問に答えながら辺の気配を探る。森の方はともかくこちら側は静かなもんだ。
ここについたときに【フィールドサンクチュアリ】はやってあるので魔物はこないだろう。そうなると後は…。
「うーむ、こうしようか。二人一組の三組での見張り。まずフランとハピがひと組。これは最初にやってもらおう。」
ちょっと手が足りないと思われるが現状これが一番最適だろう。フランも働くと言っていたのでこれくらいはさせてあげよう。ペアがハピなのは仲良さげだし、女の子同士なので二人共気兼ねなく見張りが出来そうだからだ。
「…そう分けるのか。んで?」
「次の…、いやここはローテーションなんだが。俺とヒューイとロイとメル。この4人を二人一組で組ませる。」
「なるほどな。…いいんじゃねぇか?」
「まぁ、俺が立案したんだからな。」
苦笑してるヒューイを尻目にちょっと頭の中で整理する。
一日目は俺とヒューイ、ロイとメル。二日目は俺とロイ、ヒューイとメル。三日目は俺とメル、ヒューイとロイ。これだ。見張りの順番は別にどこでもいい。
これちょっと自分で考えて完璧なんじゃないかと、そう思える。
見張りもしつつ、一人一人に話が聞ける。そんな完璧な布陣。自分の才能が怖いな…。
問題は雷牙と風牙のペースが早いので三日持たずに村についてしまうこと。…ペース落としてもらおう。ついでに昼間は森から魔物呼んで戦ってれば時間はすぎるだろう。
エルとルクはぐっすり寝てもらうことになるが、これは慣れない旅と魔法の酷使で精神的に疲れそうなのでその配慮だ。
問題はシェリー、そんで雷牙と風牙なんだが。
雷牙と風牙はぐっすり寝てもらいたいが、同時に警戒もしてほしいジレンマ。銀ならいけたんだが。まぁ、これは寝るほう優先で構わない。見張りはいるのだから。
シェリーには仕事してもらいたい。むしろ夜通し見張ってて欲しいが絶対断られるだろう。しかし見張りの中に参加させるとバランスが崩れる…、シェリーも警戒してもらって普通に寝てもらえばいいか。多分出来るだろ。
「うん、完璧だな。」
「あん?何がだよ。」
「いや、こっちの話。初日は俺とヒューイって組み合わせで行くからよろしく。順番は二番目な。」
「あぁ、わかった。…色々考えてんだな。」
「そりゃ一家の大黒柱みたいなもんですから。」
笑いながらヒューイにそう言う。そう、こうやって色々考えてる時が一番楽しいのだ。まさにネトゲのイベント前のギルドしかり、クランしかり、パーティーしかり。それをまとめる時はこんな感じだろう。わくわくしないわけがない。




