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それ以外にもこの二日ほどでどうにかもうちょいヒューイ達との距離を縮めておきたい。
これが野営の目的だ。
「見張りとか色々しなくちゃいけねぇからな、野営は。…まぁ、俺達の出番なんだろうが。」
「その辺も考えんくちゃいかんな。」
「魔物ならマスターの魔法でどうにかなりますけど、問題は人間ですわね。」
ヒューイが前から言葉を投げてくる。ちゃんと聞いているようで何よりである。
「まぁ、それは後で考えるとして。二つ目に、みんなには魔法を覚えてもらう。」
「まほー?」
「待ってました!」
ルクの食付きが半端ないが落ち着いて欲しい。メルが首を傾げてこちらを見てくる。
「あぁ、ルクとエルには前に言ったように簡単な魔法を。フランはシェリーが教えるとして、ヒューイ達の三人にも覚えてもらう。」
「はっ、…冗談だろ?」
「マジだ。」
前からヒューイがジト目でそう聞いてくるがきっぱりと宣言する。
「えっと…、魔法って特別な才能がないとダメなんじゃないんですか?」
「そんなことはねぇ。そうなってんのは育てるのにも時間と金がかかるからだろう。」
ロイが心配そうな顔でそう聞いてくるがこちらもばっさり切り捨てる。
俺が教えるんだからそりゃ使えるようになるだろう。
「すぐに自在に使えるようにはならんが、日常生活で仕えるようにはするつもりだ。…まぁ、ヒューイ達には実戦で使えるようにしてもらうがな。」
「いつもの顔。」
シェリーが言うように、若干悪い顔になるのが自分でも分かる。
「まほー使えるようになるの?」
「任せとけ。俺は教育のプロだぜ?」
「…僕は?」
「あっ…、すまん。ナチュラルに忘れてた。ハピにも教えるから。」
めっちゃ静かだったので忘れてたが、ハピにも教えよう。
「ひどい!邪魔したらまた閉じ込められると思ったから静かにしてたのに!」
「おぉ…、若干成長しておる。」
「リー君、流石に今のはひどいよ…。」
ハピも学んでたのか。確かに俺が全面的に悪いわ。
「いや、悪かったって。…まぁ、そのお詫びってわけじゃねぇけどさ。…三つ目か。皆の武器を新調してやろう。」
「え?本当に!?やったー!!」
まぁ、元々作ろうと思って鉄の原石をトールから買ったのだ。こうして謝罪のように使えるとは思わなかったが。
「…それは俺達もか?」
「せやで、前に壊しちまったしな。」
「あれは別に安もんだって言っただろ。…まぁ、もらえるもんはもらっとくけどよ。」
「…ちょっと、いや大分思ってた旅とはかけ離れてきたかな。」
ヒューイとやり取りを交わしているとロイがそんなことを呟いた。
まぁ、普通に護衛みたいに使われると思ってたんだろう。いや、俺としてはティスカ公との話もあるしある程度は使える戦力として育てるつもりだ。
「まぁ、そんなもんかな。一つ目と二つ目はあれだが、三つ目は俺の問題だからな。…サクっとやっちまうか。」
とりあえず言うべきことはこれくらいだろう。あとは思い出したら言えばいい。個人的な問題は後回しだ。
「ビガビガビガッ、フラボー。」
効果音を声に出しながらフラボーを宝物庫から取り出す。テーブルがないのでこいつをテーブル替わりに使うことにした。
「…えっと、なんで浮いてるんですか?」
「すごーい…。」
「…これ頂戴?」
適当にフラボーを浮かべるとロイとメルがいいリアクションをしてくれる。ハピに関しては無視だ。ヒューイはもう俺のやることに驚いてたら身が持たないのかノーリアクションだ。
「これが魔法ってやつだよ、チミ達。」
「こんな規格外の魔法使うのマスターくらいですけどね。」
やはりここは自慢げになってしまうのは許して欲しい。
「…こんなもんかな。」
続けて浮かべたフラボーの上に鉄の原石を並べていく、ついでに錬金で精錬するのも忘れずに。
「…見るの二回目だけど、普通はこんなことできないんだよね?」
「あー、まぁ詠唱ないしな。普通にやったらもっと時間かかるな。」
ルクの言葉に前にトールが四苦八苦しながら銀の精錬をしてたのを思い出す。
「ほい、っととりあえず一個完成かなっと。」
「指輪?…ですか?」
「いやこれで完成じゃねぇんだけどな。…まだ形だけだ。」
サッサと鉄の塊から指輪の形に少しだけ加工する。エルが興味深そうに指輪状の鉄の塊を見ている。いや、ヒューイ以外のハピ達も興味津々で覗き込んでるんだけどね。興味なさそうなのはシェリーと銀くらいだ。
「一応実験も兼ねてやってるんだけど、…誰か手を貸してくれね?」
「私でよければ…。」
「…危ないことじゃないでしょうね?」
おずおずと言った感じでエルが手をあげて志願をしてくれるが横でルクが目を光らせてる。
「いや、危なくはないんだけど。…ちょっと血を分けて欲しいなって。」
その発言でちょっと時が止まった気がした。




