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「さてと、んじゃ準備しますかね。」
そう言いながら宝物庫からオカリナを取り出し、どの曲にするかちょっと考える。
「リードって楽器も出来るんだ!歌もうまいって話だし、聴いてみたいなー。」
「本業は詩人だもんねー。」
「まぁ、な…。」
もう最近はどれが本業なのやら。そんなことはさておき、自身を強化するために魔力を込めて演奏をする。
某配管工のスターの曲を奏でながら自分は強い、無敵だと暗示を込める。
「陽気な音楽だね!」
「…私でもわかるくらい魔力が篭ってるんだけど。」
「…ふぅ、こんなもんかな。」
今回の演奏は魔力をわざと周辺に洩れさせた。演奏してるので自分を強化してるのはシェリー達にバレてるだろう。なのでちょっと派手にやってみたのだ。ちゃんと周辺しか認知出来ないように魔力の流れは制御したが。
その様子を見て仕事をしていたエルとルクも話しかけてくる。いや、二人共オカリナを出した時点でこっちに来てたから仕事してたわけじゃないか。
「本気でやるつもり?いくらあんたでもティスカ公達相手じゃ分が悪いでしょ。」
「まぁ、これに勝ったら俺の事もう少し見直してくれや。」
「私はご主人様を応援しますね。」
「エルは流石やな。ルクも見習おうぜ。」
「勝てたらね!」
エルが応援してくれるらしいので頑張らねば。ついでにルクも少しは応援してくれると見ていいのか?雷牙と風牙は戦闘の余波を体で止めてくれると言ってくれたので現在はここに待機中だ。ちょっとやそっとじゃ怪我しないので大丈夫だと思う。むしろ兵士達に任せたほうが心配だ。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。」
「怪我させないようにね?」
「わくわくするなー!」
「「ご武運を。」」
しないようにじゃなくて、させないようにと来たか。確かに一理あるのか?模擬戦だから無傷って訳にはいかないが大怪我はしない、させないようにしないとな。
苦笑しつつシェリー達の待つ中央に向かう事にした。
「さて!!長らくお待たせしました!!!両者が揃いましたのでこれより模擬戦を開始します!!!」
「「「わあぁぁぁぁ…!!!」」」
ウォードが両陣営を見て高らかに宣言すると観客から歓声がわきがる。
「先ほど両者とも既に魔法や演奏で自分達を強化しているところを見ると本当に本気のようですね!マーカスさん、どう思いますか?」
「…そうですね。全体的に信じられないような魔力が両者に巡っていたので既に私達の範疇は超えてると思っていいですね。」
若干あきらめが入ってるマーカスがそれでもちゃんとした解説をする。
「確かに私達でもわかるような魔力の余波でしたからね、もう模擬戦は始まってると言っても過言ではありませんね!」
「…そうですね。」
観客はほとんど兵士達なのだが、既に出来上がってる者が大半なので周りがうるさい。そして、そのほとんどがまだ酒を煽り料理を食べているのでメイド達も忙しく動いてる。
といってもメイド達もこの試合が気になるのかほとんどが視線をリード達に向けている。
「では開始の合図はこちらの鐘を鳴らしますのでそれが合図で始まります!よろしいでしょうか!?」
ウォードが手に持った鐘をリード達に見せるように掲げる。それを見た両陣営が了解とばかりに手をあげる。
「準備も出来ているようで許可を得ました!!」
またしても観客から歓声があがる。先ほどからウォード達が場を保っていたがもう限界だろう。既に早くしろなどの声があがってる。
「それでは…!!試合開始!!!」
ウォードがそう宣言して鐘を鳴らす。真横に居たマーカスが耳を塞いでいたので近くでは結構な音になるのだろう。
「さぁ、先に動いたのは銀…、…はぇ?…えーっと、…試合終了…、でしょうか…?」
ウォードが鐘を鳴らした後少しも見逃さずに実況しようと気合をいれ、銀のドンッと音が聞こえてくる初動捉えた刹那。
大地を抉るような轟音が聞こえ、その後砂埃が舞い上がり、地面に叩きつけられるような音が数回聞こえたあとにウォードの間抜けな声が周りに響いた。
観客も何が起こったのかわからず、ウォードの声以外の音が全てなくなっていた。