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「さて、作戦会議といきたいとこだが。…焚きつけておいてなんだが、手はあるのか?」
「急に弱気ですわね。私達に関してはいつも通りで、問題は銀とシェリーですわね。」
ティスカ公が本気の鎧に身を包みながら神妙な顔つきでそう言う。
クラウ婦人は気合が十分なのか軽く体を伸ばしながらシェリーに対して意見を求める。
「そうですね。基本的にマスターは近接は並だと思います。」
「あれで並ならその辺の騎士どもが泣くわ。」
「いえ、動きに関しては並ですよ。ただ、主様は目が異常に良いのか反応がずば抜けて早いんです。」
シェリーと銀はリードの戦い方を近くで見ている分。いや、むしろいつも模擬戦と言う名のじゃれあいをしてるのでリードの動きをよくわかっている。
「そうですね。いつも表情に隠れていますが、目の動きが尋常じゃないです。探知系のスキルもいくつかあるそうで、背後からでもまるで見えてるかのように防いできます。」
「普段はそうでもないんですが、今回は主様自身が本気と言うほどです。まず奇襲の類いは無駄でしょう。」
「…その話を聞いていますと、正面で戦っても無理。背後からも無駄ってもう無敵ですわね。」
シェリーと銀のリードに対する評価を聞いて、レイが深い溜息と共にそう呟いた。
ティスカ公とクラウ婦人もどうにか突破口を開こうと考えてるが顔色が浮かばない。
「…もうこうなったら正面で戦うしかねぇよな。俺達が得意な方がまだいいだろ。」
「もう少し煮詰めた方がいいのでわ?…いい案が浮かぶかは別ですけども。」
「…いいえ、その方がいいのかもしれません。」
ティスカ公がもうどうにでもなれといった感じで発した言葉にシェリーが賛同する。
「…そうですね。主様のスキルを逆手にとりましょう。流石に主様と言えど、これだけの人数の攻撃を見切れるとは思いません…?」
「…疑問形なのですわね。」
「いつも一緒になって戦ってる銀ちゃんでもマスターの実力はわからないってことですわ。」
「…現状で勝率が高そうなのはそれしかないか、…では布陣はこうするか。」
ティスカ公が地面に剣で図を書いていく。
「一番身軽な銀を先頭に置き、そこから少し離して真ん中に俺。その両側にクラウとレイ。俺達の後ろにシェリー。…これでどうだ?」
「…わたくし達はもう少し前にしましょう、銀が止めれるならその援護を出来るようにします。」
「ってなると、…こうだな。」
ティスカ公が図を変更していく。
最終的に先頭に銀、その3m程後ろにレイとクラウ婦人を左右に配置して、その1m程後ろにティスカ公。そしてシェリーは状況を見て援護を飛ばすためにその集団から2m程離れた場所に配置する。
「現状これが最適だな。」
「そうですね。あとはマスターの出方次第ですが…、見てください。」
シェリーが視線をリードに向けたまま、そう皆に言う。リードは模擬戦前なのにオカリナで呑気な音楽を奏でている。
「まずいですね。あれは十中八九自分を強化してます。」
「秘策ってのはあれのことでしたのね。…どうします?」
「それでもこれ以上の布陣はちょっと浮かばないですわね…。」
「…レイの言う通りだな。変更は無しだ。」
「…我が最初に主様に仕掛けてどれほど強化されたのか確認しましょう。牽制だけし元の場所に戻れば大丈夫でしょう。」
「…そうだな。」
「銀ちゃん。いくら牽制でも全力でいかないとマスターにつぶされかねないですよ。」
「大丈夫です。常に全力で動けるようにしておきます。」
そう言って銀は魔力を四肢に流していく。リードの全力にどれだけ対抗出来るかわからないが、いつもの模擬戦では込めない全力で流していく。
「…どうせ防がれますし、私も大部分の魔力は強化に回しましょうか。」
そう言ってシェリーはリードから教わった強化魔法を自身を含めた全員に掛けていく。
「おいおい、流石に強化しすぎじゃねぇのか?つうかどれだけ魔力あるんだよ…。」
「…この状態で迷宮に潜ったら、あの大迷宮もクリア出来そうですわね。」
「大体自分のステータスが2倍ですわ。どうやったらこうなるんですの…。」
「ステータスの方は対して強化してません。前にマスターのやっていたように自身の動きをより力強く、速く動ける方を重点的に強化しました。…ちなみにマスターは私の2倍は魔力があることを前に言ってましたよ。」
「化物すぎだろ…。てことはこれでも詩人での強化に追いついてないわけだな…。」
「マスターがどれだけ強化したのかわからないですけどね…。」
久しぶりに魔力をたっぷりと使ったのでシェリーの消耗が激しい。
この時にシェリーは気がついて忠告しておくべきだった、いや誰か気がつくべきだった。
シェリーが強化魔法を使えるならリードはその倍以上強力な強化魔法を使えることに。
「よっしゃ!じゃあ布陣は先ほどの通りで、銀が牽制を仕掛けた後に布陣に戻り次第リードの動きを見極め臨機応変にいくぞ。」
「お粗末な作戦ですけど、これしかないですわね。レイは無理しないようにしなさい。」
「わかってますわ。この中で一番足でまといわ私ですもの、ちゃんと力量を考えて動きますわ。」
「私も接近戦は苦手なんですけどね…。せいぜいマスターに捕まらないように逃げながら援護することにしましょう。」
こうして対リードの作戦会議は終了し、後は各々がどれだけ持ち場で仕事が出来るかだろう。