179
「お待たせ、大体このくらいでいいかな?」
しばらくしてトールが奥から鉄の原石を持って現れる。
「原石のままだけど、僕がやるよりもリード君がそのままやるほうが早いかなって思ってこのまま持ってきたんだけど。」
「十分だな。…、うん。質も十分だし、文句はないわ。」
元々トールが使う予定があったのだから質に関しては問題ないとして。これを加工して、使えるようにするのはこっちでやろう。
「うん、ちょうどだね。」
「あー、やっぱり出費がかさむな。しょうがないことだけど。」
「原石からだから、大分安いんだけどね。」
トールにお金を渡し、こちらも原石を宝物庫に突っ込む。
加工してあったりすると値が張るが原石ならそれ程掛からない、それを見越してトールも持ってきたのだろう。
「さて、そろそろ行くとするよ。このまま頑張って腕を磨いてくれよ。」
「リード君に認められる様に頑張るよ。」
「果てしなく長い道のりだな、それは。」
「お邪魔しました!」
これ以上いると開店の時間になってしまうし、もう話すこともない。
このままトールが腕を磨き続ければそこそこ名が広まるだろう。
フランが大きな声で挨拶をし、俺は後ろを向いて手を振りながら外に出た。銀も一声吠えて、トールを応援?していた。
「色々な武器があったねー。」
「そうだな。元々俺が来る前は剣がしかないような状態だったけど、自信がついたようで色々と作ってたからな。俺も手伝ったりしてたけど。」
アドバイスのおかげっていうよりは俺の口車に乗せられて色々作ってた感はある。後半はトールもノリノリだったが。
流石に俺の作ったものをそのまま店には出せないので手を抜いたり、ちょこちょこと手伝う程度に留めておいた。
「…片隅にあったへんてこなのはやっぱりリー君が原因だったんだね。」
「そんな褒めるなよ。」
「そーゆーと思った!」
俺の趣味で作った物がおいてある一角だろう。大きなハサミ型の武器やギザギザの円盤型の投擲武器、投げる専用のハンマーなどパッと思いついた物ばかりだ。
実際俺は使えるがニッチすぎて他の使い手がいないだろうと言う結論で量産にはいたらず、もの好き用にちょっと置いてあるくらいだ。
傍から見ればイチャイチャ会話だろうが、実際はあれは投げたときに確実に体の一部を吹っ飛ばすようにとか、そこそこ力がある奴が使うと丸太くらいなら平気でぶった切れるよとか物騒な会話をしつつ、次の場所へと向かう。
冒険者ギルドに挨拶をしによりつつ、ついでにミストさんが依頼を受けているか聞いてみた。ダメ元で聞いてみたが案外あっさりと今日は来ていないと言われた。
てことは多分家にいるだろう、と目星をつけ。ミストさんの家に直行する。
「すいませーん。」
扉をノックしながら家にいる人を呼ぶ。気配が三つあるので全員いるだろう。
「はいはーい。あら、リード君ね。今日はどうしたの?」
「ちょっとミストさんに用事がありまして。」
「あら、そうなの?中にいるから皆も上がって行きなさい。」
アンジェが扉から出てくる。そして、中に入るように促されてしまった。まぁ、ちょうどいいか。
アンジェがミストを呼びながら中に入っていく、それに続いて俺らも家にお邪魔させてもらう。
「お、リード君じゃないか。…その子は?」
「は、初めまして!リー君の、幼馴染のフランっていいます!」
「…リード君、女性の知り合い多くないかい?この前も冒険者ギルドで女の子二人といたって話があったぞ。」
「気のせいですよ。」
見られてるのはしょうがないが、ミストさんに伝わってるとは。それとなく俺に関する情報は集めてそうだな。
ミストとアンジェがフランに自己紹介をする。そうしていると奥の部屋からレックスも銀目掛けて飛び込んでくる。
「一気に賑やかになったな。」
「いつものことでしょ?朝食はもう済んだのかしら?簡単な物なら作るわよ?」
「いえ、食べてきたんで大丈夫ですよ。」
アンジェが聞いてくるが今食べたらお昼が食べれなくなる。多分レイが今頃昼に向けて色々やっているだろうからそっちを楽しみたい。
「それで今日はどうしたんだい?その子と一緒にギルドに入るのかい?」
「その話は置いといて。ちょっとこの町を離れようと思うので、お世話になったミストさんに挨拶しに来たんですよ。」
「…そうか。元の村に戻るのか?」
「いえ、旅に出ますよ。気ままに世界でも回ってみようかと。」
「それはまた面白い考えだな。…うん、シェリーさんもいるならある程度は問題ないだろう。」
そう言いながらミストさんが口元を隠しながら考える素振りをする。
魔力に動きがあったので少し警戒しながら見ていると、スーっとミストさんの後ろに精霊の姿が見えた。幽霊みたいに透き通っているので白っぽいシルエットしか見えないが少女の形をした精霊と目があった気がした。
「…。」
「どうしたんだ?リード君。」
「…え?何がですか?」
反射的に目で追ってしまったが、ミストさんにはバレてないと思う。
すると精霊がミストの耳元で何かを喋る素振りをした。
「…もしかして、見えてるのか?」
「何をですか?ミストさんが考えてたみたいなので待っていたんですけど。」
我ながら立派なとぼけ方をしたと思う。フランが頭に?を浮かべている。銀は捕まっているのでこっちの状況はあんまり見えてないだろう。
すると精霊はこちらを見ながら目に見えるように魔力を指先に溜め、そのまま俺の頭に向かって魔法を放ってきた。
「っ…。」
「…、やっぱり見えてるんだね。」
無効化するわけにもいかないので躱す。咄嗟のことだったので体が勝手に避けてしまった。銀がバッとレックスを振りほどき、こちらに注意を向けるのがわかった。フランは突然現れた魔法にびっくりしながらもこちらの反応を伺ってる。
「…危ないじゃないですか。」
「やりすぎだ、とは思うけどね。…レヴが目が合ったって言うからね。」
「それで試すにしては早計すぎると思うんですけど。」