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「いいんですかね?朝食もまだ食べてないのに。」
「あぁ、そういえばそうだったな。いやでもヒューイがこの時間に動いてるってことは早急に準備しないと間に合わないんだろう。」
「なるほど。…我らは食べますよね?」
「そりゃな。…さて、今日はやることいっぱいあるからさっさと食べに行くか。」
あまりのんびりとしてられない。これからどう動くか頭の中でサッと考えながら朝食を食べると聞いて嬉しそうな銀を連れて部屋に戻ることにする。
「おはよー、さっきシェリーさんが出て行ったけど?」
「おはよう。あぁ、ちょっと頼みごとをね。…エル達は仕事か。」
「うん。急だったから色々やることがあるんだってさー。」
部屋に戻ると珍しくフランが起きていた。エル達は仕事のようで既に部屋にいなかったが、考えてみたらこちらから働けるように頼んだのにすぐに出て行く事になってしまったのはかなりの迷惑じゃなかろうか。こちらが望んだことではないと向こうもわかってるとは思うが。
「皆忙しそうだねー。」
「まぁ、急だしな。」
「…リー君も今日は忙しいの?」
「あぁ、結構な。飯食ったら一応挨拶周りにいかなきゃならんし。」
一応世話になった人に挨拶くらいはしときたい。横のつながりを大切にしたい系男子。
そうは言っても行くのはトールとミストさんとこと後は冒険者ギルドくらいか。
そのついでに屋台のおばちゃん達にも挨拶をして…。
「…それ私もついて行っちゃ、ダメ?」
考え事をしていたらフランが上目遣いでこちらを見てくる。迷惑をかけそうで心配そうな顔がまた…、いいですね。
「全然いいけど、フランの知らない人ばっかりだぞ?」
「うん、それでもリー君のお世話になった人達でしょ?話にしか聞いてないから会ってみたいな。」
「多分つまらないと思うけど…。あぁ、それなら朝食は外で食べるか。」
「賛成です。」
それまで俺の足元で待機していた銀がスっと会話に入ってくる。まぁ、挨拶してついでに商品買って、ってなると結構な量買うことになるからな。計算高いな銀。
「一緒に行っていいの?やったー!」
「そこまで喜ぶことか?」
「だって、久しぶりのデートだよ?最近二人で出かける事なかったもん!」
あぁ、そうなるのね。ストレートに言われるとこう銀もいるのに二人になってる感じとか吹っ飛んで照れる。
「まぁ、デートになるんかな。あんまりっぽくないけど…。」
「いいの!ちょっと待ってね、準備するから!」
一緒に行けるとなってからフランのテンションがガン上がりしてる。流石に起きたばっかりの格好で行くわけにもいかず、俺も多少汗をかいたりしているので風呂にはいりたい。フランが着替えてる間にこちらの準備をするため部屋を出て風呂の転送石に銀と共に入る事にした。
「んー、やっぱり大きい町だよねー。」
「あー、俺はもう慣れちゃってるけどフランは来たばっかりだったな。そういえば。」
「うん!…こうやって案内してくれる人もいなかったし?」
フランが伸びをしながらこちらにジト目を向けてくる。
「いや、あれは急だったしな。そんで色々と忙しかったし…。」
「でも、こうしてデートしてくれるから許してあげる!」
もの凄くリア充みたいな会話をしながら町を歩く、足元の銀が喋れるなら何かツッコまれそうな雰囲気だ。
「それはありがたいな。…おばちゃん、いつもの頂戴!」
「あぁ、リード君かい…。あら?また違う女の子なの?またシェリーちゃんが怒るわよ。」
おばちゃんがフランを見ながらそんな事を言う。この頃確かに週替わりくらいの頻度で連れてきてる気がする。
「おはようございます!」
「あらあら、おはよう。元気な子だねぇ。」
フランが挨拶しながら商品を受け取る。笑顔でこうやって出来るのはいいことだろう。素の笑顔で人との関係を築けるフランはこういうとこが俺とは正反対だな。
「…、美味しいです!」
「そうでしょ?ここの辺では一番味に自信があるのよ?」
「おばちゃんとこのは銀が一番気に入ってるしな。…。うん、やっぱこの味だな。」
フランが一口食べて嬉しそうに感想を言う。もちろん俺も気に入ってるのでここに通ってる訳だが。銀にも食べさせるために足元にお皿を置いてそこに串から肉を抜いていれてやる。
「おばちゃん、しばらく俺達旅に出ることになったからさ。たまにしか来れなくなっちゃうや。」
「あら、そうなの?常連さんだっただけに寂しいわね。」
おばちゃんが追加の肉をこちらに渡しながら寂しそうな顔をする。それをもう一回銀に与える。
その後少しサービスしてもらった串を食べながらおばちゃんと別れて次の場所に向かう。
「美味しかったねー。」
「かなり食べ歩きして最終的にあそこの常連になったからな。銀も納得の一品だよ。」
足元の銀の頭を撫でてやる。食に関しては銀も俺も妥協しないとこがあるからな。そういうとこは似てるかもしれない。