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朝方比較的ゆっくりと寝れた俺は結局抱きついてきてるシェリーを剥がして日課の体操を銀と一緒に。
今日は早めに切り上げて城を見て回ることにした。俺に出来ることがあれば今のうちにやっておこうって魂胆だ。
劣化している壁を修理したり、掃除道具を修理したり、見張り台を全体的に見直したりと、いつもやってる雑用の拡大版というべきか。
噂は既に城の全域に届いてるようで会う人々皆に話しかけられる。
「本当に旅に出るんですか?」
「そうだな。まぁ、長く居すぎたしな。」
「これで地獄の訓練も終わりですか?」
「いや、既にお前達普通の訓練じゃ訓練になんねーから。教官に出来る限りきついのお願いしときました。」
「確かにそうですが…。教官の訓練って精神的にきついんですよね…。」
「精神鍛えるのも重要だぜ?パニクったらいつもやってる事すら出来ねぇから。」
見張り台の床を修理しながら兵士に割と真剣に話してやる。
「俺からしたらそこが狙い目なんだけどな。」
「あー、確かに。先生の戦い方って突拍子もないことをしてから畳み掛けるって感じですよね。」
「まぁ、大抵遠距離から魔法か弓矢で仕留めるからあんまりやってないんだけどな。」
「主様には割と毎回突拍子もないことされてる気がするんですが。」
「そりゃ銀くらいの相手だとその辺織り交ぜていかないとな。終わりっと。」
銀相手だとこっちもそれなりの戦法を取らないと負けるしな。
パパッと床の亀裂などを直して見張り台を後にする。これもそれなりに鍛錬にはなるのでいいかもしれない。修理屋とかで金稼げそうだな。
城の中に戻ろうとするとちょうどヒューイがこちらに向かってきた。
「こんなとこにいたのか、探したぞ。旅の事でちょっと提案があるんだが、今いいか?」
「お、なんだ?ちゃんと考えたんだな。」
「そりゃ俺らに関わることだからな。人数の都合上、馬車を買おうと思うんだが、大丈夫か?」
「あぁ、確かにそうだな。うん、了解した。…なんなら銀に引かせようか?」
「えぇ…。」
「いや、どう考えてもダメだろ…。」
露骨に銀が嫌そうな顔をする。冗談で言ったのにマジにとられても…。大体銀が本気で馬車引いたら一瞬で分解されてしまう。
「いや、冗談だけどさ。なるべく広めのやつで、…あと屋根がないやつがいいかな。周りの景色を見たい。」
「…いいけどよ、雨はどうするんだ?」
「消すから大丈夫。」
「全然意味がわからんが…。了解した。それじゃ、今からちょっと出てくる。」
全然納得してない顔のヒューイ。無魔法で屋根作ってもいいし、真上の雲自体風魔法でどっかに動かしてもいいし。いくらでも方法があるんだな、これが。
「あぁ、んじゃ金渡しとくわ。買って少しの間城に置かせてもらおう。」
そう言って宝物庫から金貨を取り出す。…相場がわからないので10枚程をヒューイに手渡す。
「…あー、いいのか?少し多いが…。」
「今更逃げねぇだろ?ついでに旅に使いそうなのをお前の方で選んで買っておいてくれ。」
うん、馬車の値段より少し多かったらしい。てことは金貨8枚くらいで買えるんだろう。
ちょっと相場を覚えてきたぞ。
「まぁ、そうだが。…信用するのが早くねぇか?」
「相手に信用されたいならこっちから、ってな。」
「…今までにやったこと思い出した上でそれ言えるか?」
「それはそれ。これはこれ。」
ヒューイが苦笑する。その場その場で都合のいいことを言ってるとこんなツッコミが帰ってくるがいつものことだ。受け流すのにも慣れてきた。
「あぁ、大体お前の事がわかってきた気がする。」
「早めに慣れておいた方がいいですよ。主様のやり方には。」
「あ、あぁ。…どうにも慣れんな。」
「我にはあまり気を使わなくても大丈夫ですよ。」
やはり若干ギクシャクしてるな。…一応上司にあたる人が犬の姿してたらそうなるか。しかもかなりの常識犬?いや常識狼か。
「まぁ、別にそんないいものじゃなくても…。いや、シェリーがその辺拘りそうだな。…シェリー連れてって一緒に選んだ方がいいかもしれんな。」
「冗談だろ…?」
「シェリーに聞いてみるわ。」
なにげに女子力が高いシェリーさんのことなのでシェリーさんに選んでもらったほうがいいかもしれん。まぁ、本命はそっちじゃなく。早いうちにヒューイにはシェリーには慣れてもらったほうがいいだろう。少しでも会話が出来るようになれば、そこから自然に他の奴らも混ざれるようになると思う。現状内部分裂してるようなもんだしな。
念喋でシェリーを呼び出すと若干機嫌が悪くなったが、理解してくれたようで了解してくれた。
(…マスターは私が他の男と買い物に行ってもなんとも思わないんですね。)
(待て待て。これはその、あれだから。必要な事だから!)
(まぁ、わかってますけどね。)
これはまたデリカシーがないとか煽られますわ。
「シェリーが来るってさ。」
「…、どうしろってんだよ。」
「普通に馬車とか買ってこればいいだけだから。」
「…。」
「あれ?緊張してんの?笑える。」
「くっ!…お前本当にいい性格してるよな。」
ヒューイを指差して笑ってやる。まぁ、確かにシェリーは美人さんだし。意識するなって方が無理だよな。
程なくしてシェリーが到着する。もう説明は済んでるのでそのまま馬車を買いに行ってもらった。表面上は機嫌が治ってたので大丈夫だと思いたい。