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「貴方にはお城で働いてもらいましょうか。」
「はい…?」
爺がポカンとした顔でこちらを見る。
突拍子もないことを言ったとは思うが、それなりにいい案ではないだろうか。
元々マーカスが人手が足りないとぼやいてたし、ティスカ公も爺の事欲しいとか言ってたしな。
なにより俺との連絡用に一人は誰かを確保したいと思っていたとこだ。
いわゆるスパイってやつか。つっても別にティスカ公を利用しようとかじゃなくて安全の為だな。
「ティスカ公にはこちらから許可は取っておくから。」
「いや、そういう問題では…。」
色々と思うとこがあるんだろう。そりゃ指名手配されてる人が解除された日にお城勤務とかねぇ…、考えただけで色々嫌になるな。
「まぁ、そっちも拒否権はないんですけどね。」
「なっ…、なるほど。…どうにもならないみたいですな。」
ここまでの流れでもう旅にこいつらを連れて行くのは確定してる。
ってことは爺にとっては人質をとられてるようなもんだろう。爺にとってハピ達が大切なのは先ほど子供の体力を心配する発言を最初にした時点でわかってる。
どうやら爺も察してくれたようで力なくうなだれた。
「…まぁ、俺からの招待ってことである程度は融通が利くと思いますがね。」
「…たった一日でここまで攻め落とされたと感じたのは初めてですな。」
いくつもの戦いを渡り歩いてきただろう爺からお褒めの言葉を頂いた。やったぜ。
皮肉にも程があるけどな。
「じゃあ、契約完了ですね。」
お互いざっと契約書のようなものを書きサインを交わす。
終始苦虫を噛んだような顔をしていた爺が重い口を開くが溜息しか出ていなかった。
「そんな顔しないでください。一応今よりいい暮らしが出来るんですよ?」
「…そんなものは望んではいなかったがな。」
「完全に俺が悪者な件。いや、まぁそう振舞ったんだけど。」
脱力した爺を見ながらそう答え、椅子から立ち上がり伸びをする。
ヒューイは納得のいってない顔、ロイは不安そうな顔、メルはまだわかってないようで周りをキョロキョロ見渡している。
「おっし、一仕事終えたし。…早速城に戻りますか。」
「行動がお早いことで…。私達はどうすればいいんで?」
「そりゃついてきてもらうさ。…あぁ、指名手配なら今頃もうなくなってるから。」
「まぁ、そうでしょうね…。」
特にびっくりした様子もない爺。周りは驚いてるが爺は気づいてたか。
「てめぇ…、俺達をハメやがったな?」
「駆け引きってやつだから。…気づいてた時点で意味なかったけどな。」
「くそがっ…。」
「まぁ、そんな不貞腐れてもいい事ねぇぞっと…。準備もあるだろうし、俺は表で待ってますかね。…言わんくても分かると思うけど、逃げれないからな。」
一応釘を刺しておく。ヒューイが苛立たしげに椅子を蹴り奥の部屋へと行った。
「寝首をかかれそうだな。」
「そりゃそうじゃろ。…で、私は城で何をすれば?」
ロイとメルを準備するように促し、部屋から出て行った後爺がそんなことを聞いてきた。
「いや?普通に仕事すればいいよ?一応定期的に連絡はしてもらうけど、探りは別に入れんでいい。」
「はぁ…、わかりました。」
キョトンとした顔をし、あまり納得のいってないような返事が返ってくる。
「別にティスカ公が将来邪魔になりそうだから送り込むんじゃないからな?普通に忙しそうだから仕事出来る奴が欲しかっただけだから。」
「…、なるほど。ううむ…。」
爺が何か考えるような顔をする。まぁ、どうでもいいか。
「まぁ、俺は外に出ておくから。…なるべく早めに頼むね。」
そう言って扉を開けようとして、土の塊を忘れてる事に気がついた。
申し訳ないと思いつつも、邪魔するハピが悪いと思い直し魔法を全部解いてやる。
かなり怒ってたのか、めっちゃ叩かれたが無視して旅の準備してこいと一言言ってサッと外に出て行った。
もう既に日が傾いて夜になろうとしている。それなりに準備に手間がかかった。
「一応もうティスカ公には話を付けてあるから、…そんなにビクビクしなくても大丈夫だから。」
城の門番に挨拶を交わし、門を潜っていく。
流石に居心地が悪いのかハピと爺以外は周りを警戒してるが、滑稽に見える。
城の兵士達も俺がいると分かると全く警戒しなくなるし、逆に普通に話しかけてくる。
適当にあしらいながら城の中に入っていき、適当なメイドを捕まえてティスカ公に話があると告げる。広間がいいだろうと思い、そこで待つからと伝えるように言った。
「手馴れたもんじゃな。」
「まぁ、結構長い間居ますから。こっちです。」
爺達を案内し、広間でティスカ公を待つことにする。
当然普通に入れるとこではないが、扉の前の兵士はリードさんなら全然いいだろ、って感じで普通に開けてくれる。流石だぜ。
「広いな…、流石だな…。」
「そりゃな。…、ふむ。楽にしたまえ。」
ヒューイの言葉を適当に流しつつ、広場の中央の辺で一旦止まらせる。
その間にパパッと走って玉座に座ってみる。ちょっと一回やってみたかった。これ。
相当似合ってないのか広場に控えてる兵士達から失笑が漏れる。いや、わかってたけどね?
「お前、それは流石にまずいだろ…。なんで兵士達も止めねぇんだよ…。」
「そりゃ止めれねぇなからな。…遊びすぎると怒られるけどな。」
そう言いつつも結構ふかふかな感触にお尻が離れようとしてくれない。…おっさんいつもこんなふかふかなのに座ってたのかよ、羨ましいな。
そんなことを考えてたらバンっと横の方にある扉が開いた。
「…、おおーい!!そこ俺の席!!」
「リード殿!!!何やってるんですか!それは流石にダメですよ!」
ティスカ公が威厳たっぷりに入ってこようとして玉座に座る俺を見て一瞬固まるといいツッコミをしてくれる。
マーカスがついてくるのは予想外だったので慌てて玉座から立ち上がる。これは怒られる。
「やんちゃすぎるだろ、リード。」
「いやー、一回座ってみたかったし?いい機会かなって?」
「リード殿…、気持ちはわかりますがやっていい事と…。何故誰も止めなかったんですか。」
一周回って笑えるのかティスカ公が笑いながら玉座の方に来る。マーカスは周りの兵士を見渡しながらこちらに歩いてくるが周りの兵士達は止めれると思ってるんですか?って顔してる。