163
相手が完全に去った事を気配で確認して改めて皆の方を見る。
「…リード、お前大丈夫か?」
ティスカ公が心配して声をかけてくる。その後ろで見ているシェリー達も心配そうだ。
ハピは一人キョトンとした顔をしてるが。
「あぁ、ちょっと予想外すぎて対応が出来なかった。」
「それでも追い返したんだろ?…なら上出来じゃねぇか。」
「…、そうだと思いたいがな。」
ティスカ公もわかってるのか顔が渋いままだ。
「…ちょっと俺はおっさんと話すことが出来たから、シェリー達は部屋に戻ってこれで風呂にでも入っててくれ。」
そう言って転送石をシェリーに渡す。
「…いいですけど、…マスター?」
「あぁ、一人で決めるようなことはしないから安心してくれ。…ただこうなっちゃったらまずはおっさんと話をつけないとな。」
「わかってるならいいですけど…。」
「…まぁ、エルとルクがいないからな。二人が来てから改めてこっちでも話そう。」
「わかりました。…ハピの方はどうしますか?」
「んー、今のやり取り見られちまってるからな。…こいつがわかってないにしろ、外に出すのはまずいだろう。その辺もおっさんと話すから保留ってことで。」
全然わかってないような顔をしているハピ。完全にとばっちりだがしょうがない。
「…何が起きたかわからんが、リードが珍しく焦ってるな。」
「まぁな…。城の主要な人達集めてくれない?…簡単に説明するとさっきの魔族で俺を狙ってきたっぽい。」
「…わかった。」
ざっくり説明したが、珍しく真剣な俺にティスカ公も素早く対応してくれた。
ティスカ公が城に戻り、シェリー達も転送石を持って部屋に戻っていった。ハピもなんにもわかってない顔で連れてかれていく。
「…予定が狂っちまったなぁ。」
過去を悔やんでも仕方ないが、空を見上げて出るため息は止めれなかった。
「…さて、こうして集まってもらったのは少々トラブルが起きてしまったからだ。」
ティスカ公が椅子から立ち上がり、会議がスタートする。
周りを見渡すとここの重鎮達が見える。もちろんレイとクラウ、マーカスと教官の姿もある。
「詳しいことはリードが話す、…まぁ俺もまだ詳しく話は聞いてないんだけどな!」
ティスカ公らしい軽口に周囲の空気が少し和らぐ。ありがてぇ。
「先ほど、城に侵入者が現れました。」
俺がそう話をすると若干のざわめきが起きるが、すぐに静かになる。
「特に問題なく追い返しましたのでこちらに被害は出てないですが…。」
ザッと見渡すが皆。まぁ、そうなるなって顔で話の続きを待っている。
「それだけでしたらここまでの会議を開くことはないでしょう。…問題はその侵入者が魔族だった、そして俺を狙ってきていたってことです。」
またしてもざわめきが起こる。流石に今回は自然に静まることはなかった。
「リード、それは確かな情報か?俺は後半しか聞いていなかったが…。」
「はい。直接侵入者から聞きました。…嘘をつく理由も特にないので十中八九本当のことでしょう。」
あいつが魔族ってのは俺の予想だが、間違っていないと思う。俺が神眼で見れない、そして魔族と向こうから話してきた。むしろ魔族じゃなくても危険度的には変わりないだろう。
ざわめきがまた大きくなる。
「ふむ…。なるほど、それで?」
ティスカ公が俺に話を促す。
「そうですね。相手の狙いは俺、…なので少し計画が早まりますがここを離れようと思います。」
「うーむ…。」
ティスカ公が難しい顔を浮かべる。
「…正直、俺の力があってもここを守れるかどうかはわかりません。」
「そうか…。」
ティスカ公が更に難しい顔を浮かべる。
「…急じゃありませんこと?」
「そんな…、もう数日くらいなら大丈夫なのでは?」
「そうですよ、すぐに魔族が押し寄せてくる訳でもないですし。」
レイや教官達が口々にそう言う。
「しかし、その少しで、もしも魔族が攻めてきたら?」
「流石にここに攻め入ってくるにはそれ相当な準備がいるだろう。」
「いや、現に一人とはいえ侵入されているんだぞ!?」
「それについてはこちらの警備が甘かったとしか…。」
「では警備を強化したとしよう。それによって生じる予算はどうする!?」
「それはこれから煮詰めていくしかないだろ!」
「リードさんでも守れるかどうかわからない相手なのにか!?」
「それは…。」
ガヤガヤと討論が始まる。まぁ、そうなるわな。リスクは少しでも減らしたいし、費用も抑えたいだろう。…それにこちらとしても申し訳ない。
「静かにしろ!!」
難しい顔で考えていたティスカ公が一喝する。喧騒が少しづつ収まっていく。
「ふう…。…わかった、リードにはここを明日にでも出て行ってもらおう。」
顔を手で覆い隠しながらティスカ公がそうはっきりと口にした。
「そんな!お父様、リードはこの城に大きく貢献していましたわ!それを裏切るような形で…!!」
「レイ、それは言いすぎだ。」
レイが激しくティスカ公に抗議するのを遮る。
「…わかっている。俺もリードを意見を認めるような事はしたくない。…しかし、国を預かる身として判断を間違えてはいけない。」
ティスカ公が悔しそうにそう呟いた。うん、俺としてはここまで思ってくれてる事が嬉しい。
「それでも…!リードは…!」
「レイ、…皆わかっていますわ。…それでも、ですわ。」
「ッ…!!」
なおも抗議しようとするレイをクラウが宥めるように説得するがそのままレイは部屋を出て行ってしまった。
「…では俺は今日中に荷物をまとめて出て行くと言うことで。」
飛び出していったレイが気になるが、まずはこちらの問題から解決していかないと。
「…わかった。それで今後どうするかだが…。」
そのままティスカ公達と共に俺が去った後の事を話し合う。
相手の狙いはあくまで俺だろうが、こっちに被害が出ないという確証がない。
出来るだけ対策を練らなければ。