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「…まず、自分が作る迷宮の入口…。これは最初小さく作っておいてそこから広げるのがいいと思います。」
「ふむふむ。んで、実際どうやんの?」
「イメージしながら…。僕がいたあらゆる場所…、【ダンジョンクリエイト】」
ダンが手のひらに魔力を込めながら詠唱を始める。
机の上に小さな転送石が一つ出来上がる。
「…こんな感じでまずは入口を作るんですけど、ここまでは大丈夫ですか?」
「こんな小さな転送石があるなんてな、初めて見たかも。」
転送石を手に取って色々な角度から見てみる。
一般的な転送石は台座のような物の上に乗っかってる水晶って感じだけどこれだとただのビー玉っぽいな。
「転送石の形状は後から変える事が出来ますので、試しに作る程度ならこのくらいで十分だと思います。」
「操作でやるってことか。まぁ、これだと無くしそうだしな。」
「訓練で作るならちょうどいいですけどね。それでここまでは大丈夫ですか?」
「あぁ、続けてくれ。」
とりあえず作り方はわかったから次は操作の方を知ることにしよう。
「そうですね…。次は実際に中に入り込んでやったほうがいいでしょう。…いいですか?」
「頼んだ。」
ダンが転送石を触りながらこちらに手を差し出す、その手を取って先ほど出来たばかりの迷宮の中にトラベルワープで移動する。
「…?…あぁ、モデルはさっきの部屋か。」
「イメージしやすい物がいいですからね。」
移動したと思ったら元の部屋だった、何を言ってるか…。いやすぐにわかったけど。
「…よく見ると雑だな。」
「そのあたりはしょうがないですよ…。」
ザッと眺めてみるとところどころ変なとこがある。額縁だけの絵やら、取っ手のないタンス、そしてこの部屋に入るドアがない。
「それで操作の仕方ですが…。」
そう言いながらダンが壁の方に歩いていく、そして壁を触りながら。
「全ては僕の手の中で動く…、【ダンジョンコントロール】」
ダンがそう言った途端壁がぐにゃぐにゃと変化していき、一つの扉になった。
「内装に関してはこんな感じで変えていきますね。」
「なるほど、大体わかったな。それで魔物はどうするんだ?」
「ちょっと待ってくださいね…。」
そう言いながらダンが扉に手を当てながらゴニョゴニョと操作していく。
扉の向こうに部屋を作ってるらしい、そこで魔物を呼び出すってことだな。
「…はい、では向こうの部屋にいきましょうか。」
ダンが扉を開ける。その向こうは何も置いてないただの部屋だ。
ダンがさっさと向こうに行ってしまったので追いかける。
「基本的には作る事になるので作成の方ですね。」
そう言いながらしゃがんでさっさと詠唱を始めるダン。
足元の床が盛り上がり徐々に形を変えていく、…しばらくするとそこにはゴブリンが立っていた。
「…動かないけど襲ってこないの?」
「今はただ作っただけですからね。操作で役割を与えればその通りに動きますよ。」
「ふーん、強さはどうなの?」
「基本的にどれだけ魔力を込めているかで変わりますが…、今作ったのだと一般的なゴブリンよりも数段弱いです。…動かしますね。」
そう言いながらダンがゴブリンに手をかけて操作する。
するとゴブリンは部屋をキョロキョロと見回しながら歩き回った。
「…大体わかった。」
「迷宮に関してはこうやって作ってますね。まずは舞台を作り、役者を作り、台本を与えてやる。…こうやって人が作る迷宮は出来てます。」
ダンが歩き回るゴブリンに手をかけてその存在を消す、自分が作り出したんだから消すのも容易か。
「理解してらっしゃるみたいなのでかなり早足で説明しましたが大丈夫でしたか?」
「余裕、余裕。盗み見して覚えるより大分楽だわ。」
「そんなこともしてたんですね…。戻りましょうか。」
最初の部屋に戻り、迷宮から出る。
迷宮職人の仕事っぷりを始めてみたが、ダンはやはり優秀らしく魔力に迷いがなくすんなりと色々やってのけていた。
やることが簡単だったのもあるだろうが、流石おっさんに選ばれただけはある。
「…こんな感じか?」
「本当に詠唱なしでやれるのですね…。入口としては出来ていますが…、最初から作りすぎといいますか…。」
「あれ?かっこよくない?」
「ドラゴンに転送石を担がせる台座はよく見ますが…、狼に転送石を守らせるのは始めてみましたね。…いえ、別に使えればいいんですけどね。」
「ディテールにもこだわるタイプだからさ…。次は内装だな。」
「これはこれで、色々な方に需要がありそうですけどね。」
「…内装のには拘ってないんですね。」
「中で作ればいいやって思って何も作りませんでした!」
「迷宮としてはどうかと思いますが、始めてでこれだけ広い…、いや、ちょっと広すぎないですか?」
「力加減がわからなくて…、適当に魔力こめたらこうなった。」
「灯りが転送石しかないので奥が全くわからないですが…。」
「多分あの時の迷宮くらいあるんじゃないかな…?始めて入ったからイメージしやすかったってのもあるし。」
「だから地面がこうなって…、え?あの広さの迷宮作るのに一ヶ月くらい掛かってるんですけど…、それを一瞬で?」
「完全にいらんかったけどな、この広さ。」
「…これなんですか?」
「え?机だけど?」
「巨人が使う用のですか?」
「確かにデカすぎた感はある。」
「いやもうそんな次元じゃ…。もうちょっと魔力を抑えて作らないと…。所々細かいとこにも力入ってますし、無駄にテーブルクロスもありますし。」
「始めてだから仕方ないじゃない!」
「それにしても雑って言いますか…、魔力がありすぎるとこうなるんですね。」
「ちょ、ちょっと!」
「おぉ、銀そっくりに作れたな。」
「なんで初めてでウルフなんて作ってるんですか!それにこの大きさだともっと…。」
「出会ったときの銀をイメージして作ってるからバトルウルフだな。」
「なんで最初から迷宮の主にふさわしい魔物作ってるんですか!」
「え、だってさっきゴブリン作ってたし、被らない方がいいかなって…。」
「被ってもいいんですよ!早く消してくださいよ!襲ってこないとは言え凄く怖いんですから!」
「えー、…大量に銀のコピー作ってもふもふ大作戦とかいいかもしれんな。」
「まぁ、こんなもんだろ。」
「…凄く疲れました。」
部屋に戻り、邪魔だったので転送石を消そうとして最初に作った物だし、折角だからと宝物庫に仕舞い込む。
「…失礼します。」
扉をトントンとノックする音が聴こえる。どうぞ、と声をかけると静かに扉が開けられた。




