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「はぁー、やっぱりこの時間が癒しだなー。」
「…。」
人がいつ来るかわからないので土壁を作り中で水浴びをする。
銀をわしゃわしゃと洗いながら鼻息混じりに自分も洗っていく。
銀は無言でわしゃわしゃされてるが単に泡が口とかに入るのが嫌なんだろう、洗われるのが嫌ってわけじゃないしな。
泡を洗い流し、自分の体を布で拭き乾かす。壁の下の方に穴を作り、銀を外に出す。
外で銀が水を飛ばす音が聞こえる、それを聞きながら服を着替えて壁を消し去る。
そして自分の髪を乾かすついでに銀の毛も風魔法で乾かしていく。
もう一連の流れがセットになってきたな…。
「どうしたんですか?ぼーっとして。」
「んー、便利な世の中だなってな。」
「そうですか?主様の実力があってこそだと思うんですけど。」
「努力した分だけ報われるっていい事だよな…。大した努力してねぇけどさ。」
そうつぶやきながら銀の毛並みを整えていく。
「主様は努力してその力が手に入ったんじゃないのですか?」
「まぁそうだけどさ。」
ふと、最近はあまり新しいことに手を出してない事に気がついた。
元からあるスキルを上げてる感じだが、昔は新しいスキルも手探りで手にいれてた気がする。
「…どうしようもないよなぁー。」
「何かいいましたか?」
「なんでもない、飯にいこうぜ。」
昔も考えて取ってたわけじゃないのでこれ以上考えても仕方がない、銀の背中をポンッと叩き食堂へと促す。
銀の足取りがウキウキなのは言うまでもない。
食堂で皆と合流して、いつも通りの食事。今日はティスカ公が普通にいたが、至って普通の食事風景だった。
エルとルクは未だに緊張してたが、あのおっさんはいつも通りだったので終わる頃には慣れてきてた。
ティスカ公にダンの事を確認するとそろそろ来るだろうとのこと、来たらメイドが知らせるので部屋に入ればいいらしい。
「はい、てこと第…、3回?リード家会議を始めました。」
「いつも通り、唐突ですね。」
「始めました?もう始まってるの?」
「私達仕事あるから早く行かなきゃいけないんだけど?」
「まぁ、そんなに時間は取らせねぇよ。」
部屋に戻り、皆がいるうちにさっさと会議を始める。
「とりあえずだ、エルとルクには慣れるまでここの仕事をしてもらう。」
「公爵様のご好意でお仕事させて頂いてるので迷惑にならないように頑張ります。」
「つまりこのまま仕事をしてればいいのね?」
エルとルクには昨日みたいに仕事をしてもらう。これは色々学べて少しだけどティスカ公の役に立てる一石二鳥な案だな。
「そうだな。んで俺らはいつも通り…ってそうか。フランはどうするよ?俺ら一応城の兵士に訓練施したりしてるけどさ。」
「ふぇ?私は…、どうしよう?」
「ていうか、フランはいつまでここにいるんだ?」
「えぇ!?…むー!!」
「えぇ…、なんで叩かれるの…?」
ポカポカとフランが叩いてくる。それを腕で防ぎつつ周りに助けを求める。
「…今のはマスターが悪いですね。」
「右に同じ。」
「流石に私も擁護が出来ないです。」
「何かあったんですか?」
助けはなしっと。それどころか視線が痛い。
「わけわからん…。」
「…とりあえず今日はリー君達の仕事を見る!」
ポカポカをやめてフランが高らかにそう言った。
「そ、そうか…。」
これ以上言うと更に叩かれそうなので追及はしないでおこう…。
「…、気をとりなおしてっと。俺は午前中に予定があるから、午前の訓練は参加出来ないけどシェリー達が適当にやっといてくれ。」
「いいですけど、そろそろ教えることもないですよね?」
「まぁそうなんだよな。でも訓練だからな、積み重ねが大事ってことにしておこうぜ。」
「まぁ、いいですけど。レイさんの訓練もですか?」
「そうだな。そっちも頼んだ。」
「わかりました。」
「今日はこれだけど、いつもは俺もそっちに参加して…。午後に時間が出来たらささっと狩りにでもいくってことで。金策もしなきゃならんしな。まぁ、こんな感じで会議は終了っと、解散!」
「適当すぎない?まぁ、いいなら仕事に行くけど。」
「いつも通りなんで、行っても大丈夫ですよ。」
「…それでは失礼して、行ってきますね。」
「さーって、今日も一日頑張りますかー。」
解散宣言するとエルとルクがさっさと仕事に行った。
さて…、ぷっくりと頬を膨らませてるフランをどうするか…。
そんな事を考えてた矢先に扉をノックする音が聞こえる。
「リード様、お客様がみえました。」
「ナイスタイミング!…じゃっ、行ってくるから。」
「はいはい、いってらっしゃい。」
「…。」
「いってらっしゃい、主様。」
フランが無言なのが辛いが呼ばれてるのでしょうがない。決してどうやって宥めようか浮かばなかったわけじゃない。むしろ何が原因なのかわからないなんてこともない。
逃げるように部屋を出て、メイドについていく。とりあえずは頭を切り替えていかないと。
「…、なんでそんなに緊張してるんですか?」
「は、ははは。そ、そんなことないですよ?」
部屋に扉をノックして中に入るとガチガチに緊張したダンがいた。返事も噛み噛みだったし、なんでこんなことに?
「えーっと…。ティスカ公から何か言われましたか?」
「い、いえ…、そんなことは、ないのですが…。」
うーむ、違うのか。別にこのままでも支障がないって言ったらないんだが…、見に覚えのないことでこうなってるのは何か申し訳ない。
机を挟んでダンの目の前に座り、目を見る。すると明らかにダンが怖がっているのがわかった。
「ひぅ…。」
「ちょっと待ってください。流石に様子がおかしすぎます、何か訳があるならいってください。」
「え、えっと…、今日呼び出したのは…、私を…。」
ぼそぼそとダンが言うが、挙動不審すぎて逆に怖い。
「迷宮について、教えて欲しいんですが…。」
「そ、その様に訊いていますが…、あ、あの…、本当は私を…消すつもりでは?」
「ふぁっ!?」
「ひっ…。」
ゴクリとダンが唾を飲み込んでそう答えた。流石に面食らった、なんでそんな事になるんだ。
「いやいや、なんでそうなるんですか?私はただの子供で単純に迷宮に興味があったから話を聞きたいだけであって…。」
「だ、だって私が作った迷宮で…。」
「それについてはティスカ公が仰ったようにあなたは関係のないはずです。ましてや、私一人であなたをどうこう出来るはずがないですよ。」
迷宮の中に魔族が紛れ込んだのはダンのせいじゃない。それは俺もわかってる。
「そ、そうですか…、でもあなたなら、人一人消すくらいなら、すぐに、で、出来ますよね…?」
「…、どういうことですか?」
「え、えっと迷宮内でのこと、なんですけど…。」
「…どこまで知ってますか?」
ちょっと待った、怪しいと思っていたがこれは…。
「ひっ…、あ、あの、迷宮でやったこと、ほとんど全部…。」
「ふー、なるほど…。」
はいはい、俺が色々やってるのバレてるわけね。だからあんなこと言ったのか、納得。
「ちなみになんでバレてるの?」
「え、えっと…。広間に流す映像を、一旦チェックしてから、流してるんですけど…。」
「あのおっさん…!!」
絶対ティスカ公知ってただろ、これ。
「…ちなみにこのことを誰かに喋ってたりは?」
「してません!マーカスさんに釘をさされましたので!」
「流石マーカス。…まぁ、バレてるならいいや。」
「え?」
「多分忘れてただろう、おっさんには腹が立つが。バレてるならそっちのが好都合かな?色々考えながら喋るのめんどくさいし…。」
「えっと…?」
「いや、こっちの話。まぁ、映像見てるならわかるだろうけど俺はちょっと普通じゃなくてね。ちょっと迷宮職人にも手を出そうかと思ってるんで今回ダンさんに色々教えてもらおうかなってね。」
ストレートに全部話す、色々ごまかさない分こっちのが楽だ。
「は、はぁ…。」
「とにかく、俺はダンさんに話を訊いて、それで自分で迷宮作る、それでダンさんのお仕事は終わり。それだけだから。」
「じゃ、じゃあ、私をどうこうしたりは?」
「最初からそんな気は全くないです。」
手をふりふりと振って無害アピール。そこまでやってやっとダンの緊張がほぐれてきたみたいだった。