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「…この辺りでやめておくか。」
「…そうですね。」
何度か吹っ飛ばしたり、吹っ飛ばしたりを繰り返してちょうど二人の動きが止まった時にそう提案してみる。
やっぱり五分には届かないか、かなり必死になってたけど銀は普通に切り返してきてたし。
「うーん、厳しいなぁ。」
「そうですか?結構見切られてるのでこちらも手を出しにくいんですが…。」
「流石に銀くらいのスピードになると体がついていかないんだよな。」
「普通はついていけないと思いますけど…、軽々受け流してるようにも見えますが?」
「そのへんは、ポーカーフェイス保っとかないと。表情に出したら負けってとこあるしな。」
「はぁ…、そうなんですか?」
「そのへんの駆け引きも重要になる時があるからな、…銀にはあんまり関係ないか。」
「まぁ、そうですねぇ。」
犬の表情読めとか結構難易度が高い。
「フェイントと一緒だな、何か手があるってのを隠すのが重要なんだ。」
「あぁ…、それならわかります。」
銀が少し遠い目をする。最近使った感じか。
「逆に手のうちを明かすのもありなんだけどな、そのへんは臨機応変にいかなきゃな。」
「やることが多すぎるのも大変ですね。特に主様の場合は。」
「そこなんだよなぁ、考えうる最善の策を考えてやらないとな。」
「例えば、我相手に魔法使うならどうしますか?」
「ん?そうだなぁ、動き殺す為にとりあえず水被せて凍らすとかかなぁ…。」
「…その一手で詰んでる気がするんですが。」
銀と一緒に色々話をしながら部屋に戻る。
こういう話が出来るのはありがたい。戦術について練れるし、ぽろっと有効札が出てくる時もある。
「後は…、とりあえず炎の壁作って閉じ込めるとか?」
「それなら風魔法で一部に穴開けて突破ですかね…?」
「あー、そうなるか。…ただいま。」
「でもそうなると距離置かれてしまいそうですね。」
「銀のスピードなら捕まえれるんじゃね?…誰もいないってことは顔でも洗いにいってんのか。」
「そのようですね。…こう考えると突破口がいくつかありますね。」
「それだな。その状況でどれを使ったら一番効果的かを考えて動けるのは強いな。」
「それは確かに駆け引きになってきますね…。」
しばらく銀とあーだ、こーだ、いいながら喋ってるとシェリー達が帰ってきた。
「ただいまー。…リー君帰ってたんだね。」
「ほい、おかえり。」
「ただいま。…昨日はいい夢みれましたか?」
「そうだな…。巨人に握りつぶされる夢を見たかな?」
「ふーん、…。」
「無言で水魔法連射やめてもらえませんか?」
パッパと打ち消しながらシェリーに懇願する。…これも一応魔法の訓練になってんのかなぁ。
「…あぁ!そうだ!フランに色々しなきゃいけないことあったんだわ。」
「え!?…何かな?」
「その前に何故か更に強くなってる魔法やめーや。」
「ふぅ、これくらいで勘弁しておきましょうか。」
「魔力半分くらい使ってるんですけど、それは。」
「それで何かな?私にしなきゃいけないことって…。」
何故か凄く期待した目で見られる。普通にスキルあげるだけなんだけど…。
「いや、フランにスキルをいくつか渡してなかったからあげようかと思ってるんだけど…。」
「…なぁんだ、そっちかー。」
「えぇ、他に何があるのさ…。」
「えー、…例えばー、…シェリーさんがつけてる髪留めみたいなの?」
ちらりとシェリーを見る、すまし顔をしてやがるがあいつ自慢しやがったな。
「あー、…うん。今度一緒に買いにいくか?あんな感じのアクセサリー。」
「いいの!!?」
「…まぁ、そうなりますよね。」
「シェリーだけってのもあれだしな。…そういえばレイにも作らなきゃいけなかったな、材料はもうあるんだろうか…。」
「レイさんにもあげるんだ…。」
「まぁ約束してるしなぁ。…それよりも、ほら。」
なんか話が脱線していきそうなので強引に切ってスキルを渡す。
ボーナスが10減って残り341。…模擬戦で詩人のレベルあがったのか。
「これって…。」
「俺達みたいに詠唱しないで魔法が使えるようになったから。…まぁ、最初は使いこなすのに時間かかるから実戦ではあんまり使わないように。」
「…昔からだけどリー君のやることってとんでもないよね。」
「マスターですからね。」
「はいはい、テンプレテンプレっと。」
フランにはエル達に魔法教えるついでに色々と教えればいいだろう。
慣れるまではとりあえず詠唱だけ破棄してもらってやってもらえばいいしな、…近いうちにその連携もかねて久しぶりに狩りにでも行きますか。
エル達も連れて行ってピクニック気分で行こう、これから旅するんだし慣れなきゃね。
「それじゃちょっとシャワーとかしてくるわ、それから朝食だな。多分、エル達も帰ってくるから皆で行こうか。よし、銀いくぞ。」
「我は別に大丈夫なんですけど…。」
「そうですね、いってらっしゃい。」
「んー、狩りでもあんまり使ってないから魔法はあんまり自信ないなぁ…。」
「私が色々教えますよ?マスターだけだと大変でしょうし。」
「本当!?シェリーさんに教えてもらえるなら大丈夫かなぁ。」
渋る銀を連れて部屋から出る。
後ろから不安そうなフランの声と優しげなシェリーの声が聞こえる。
…あの二人結構仲いいけど結託してこられたら色々とやばいな。今のうちに対策練りつつ臨機応変に動けるようにしておかないとな…。