147
「もちろん俺が教えるからにはある程度になってもらわんと困るけどな。」
「…例えば?」
「並の魔法使いは越す。むしろ越してもらわないと困る。」
「それ無理じゃないですか…。普通の人達はもう魔法使ってる時期でしょうし…。」
「それを帳消し、むしろ追い抜く力をあげたんだから大丈夫だって。それに偉い人は最初の一歩を進めば後は転げ落ちるだけだって言ってたし。」
「それって絶対嘘ですよね…?」
まぁ、転げ落ちたら何処かに激突するだけだが概ね間違ってないだろう。
だが、基礎が出来てない分好きに詰め込めるし。大体基本が違うのだ。
最初から詠唱破棄して唱えれる分断然有利だし、ブーストもあるし、俺が教えるんだ。
すぐにでもなってもらおう。普通くらいの魔法使いに。どれくらいが普通かわからんけど、今日会った酔っ払いくらいにはすぐなるだろ。多分。
「すぐにシェリーさんみたいに使いこなせるようになるかな?」
「そりゃ流石に無理だが…。日常で使うくらいならすぐだな。」
「んー、そうだよねぇ。」
「魔法使ってる年季が違うしな、それに俺達は無詠唱だし。」
「…その無詠唱ってのはダメなの?」
「詠唱破棄よりもそっちが欲しいってか?うん、最初から詠唱なくしちゃうと色々とめんどいことになるからな。…前例があるからな。」
そういえばフランにその辺りのスキルあげてないな…。後であげなきゃな。
レイの時はいきなりぶっぱされたし、その後も使いこなせてないっぽいんだよな。
戦闘中に魔法使うのあんまりしてないし。いや、手甲の効果で十分ってのがあるけど。
まずは基本的な事出来てからパワーアップさせればいいだろう。
「確かに無詠唱はメリットばっかりだけどな。ちょっとデメリットもあるんだよ。」
二人共どういうことかわかってない顔をする。
「まぁ、二人にはわからんと思うが。味方が何をするのかわからないってのはかなりのデメリットだ。…例えば戦闘中に俺が無詠唱で魔法を打ったとする。その射線上にシェリーが移動したらまずいだろ?」
「あぁ、確かに…。」
「…でも私達戦わないですよね?」
「例えばの話だからな。実際長い付き合いだからシェリーがどう動くのか俺はわかってるし、シェリーも俺がどう動くかわかってるからこんなことにはならん。」
「ふーん…。」
迷宮の時にシェリーに魔法名を言わせてたのもこれがあったからだ。
いくらティスカ公達でも後ろからいきなり魔法飛んできたら気が気でないからな、援護のみでさせてたがそれでも意味はあっただろう。
「まぁ、魔法云々の事はまた次の日な。」
「早く魔法使ってみたいなー。」
「…。」
「…エルはあんまり乗り気じゃないみたいだな。」
「え、えぇ…。…魔法ってどうしても戦うってイメージが強くてどうにも。」
「そう?昔っから俺の母さん日常的に魔法使ってたけどなぁ。」
主に俺のおしり洗うのとかね。
「…それは少し特殊かと。」
「まぁそうなんだろうなぁ。…でもさ。」
そういいながら回復してきた魔力を練る。
「わぁ…、綺麗ですね…。」
「こうやって人を笑顔にすることも出来るからな。」
机の上に土の塊を出し、そこに妖精魔法で花を咲かせる。
我ながらキザったらしいと思うがこれくらいロマンチックにしたほうが女の子にはいいだろう。
「うわぁ…、流石にこれはくさいんだけど。」
「お前はロマンもへったくれもねぇな。」
「う、うっさい!」
「ようは使う人次第だな。エルが使うならそれは素敵な魔法になるさ。」
「そうでしょうか…。」
「俺が使ってこれだからな。」
「…なんか説得力あるわね。」
「はい、これ以上なんかすると喧嘩になりそうだからやめておきます。」
出来る男なのでこの辺りでやめときます。
「ふふ…、ご主人様もわかってきましたね。」
「まぁな。」
「なんか負けたみたいじゃない!」
「はいはい、部屋に戻るぞ。そろそろ寝る時間だしな。」
皆を立たせて後始末をする。
「あっ…。」
「…まぁ、作り物だからな。こればっかりはしょうがないさ。」
消えていった花にエルが少し悲しそうな顔をする。俺の魔法は大雑把だからな、それだけ残すなんて器用な真似が出来ない。
「そうですよね…。」
「ずっと残るものなんかないからな。…心の中に残ってればそれでいいだろ。」
「…そうですね。」
「…なんかお姉ちゃんにだけ優しくない?」
「そうか?こんなもんだろ。」
「…ずるい。」
「はっ!?」
「お姉ちゃんだけずるい、私にも何かしてよ!」
なんだこいつ…、今までと態度が違いすぎるだろ…。
ちらりとエルの方を見るとくすくすと笑ってるみたいだ。
「いきなりそんなこと言われてもなぁ…。」
「…じゃあ何か歌ってよ。それでチャラにしてあげるわ。」
「はぁん?…まぁ別にいいけどよ。」
チャラって…。似合わんことするもんじゃないな。ツケがもう帰ってきたわ。
宝物庫からギターを取り出す、オカリナだと歌えないから今回はお休みです。
「もう夜だし、静かな曲な。」
「うん。」
椅子仕舞うんじゃなかった。しょうがないので地べたに座ってギターを触る。
同じように二人共地べたに座って俺が歌うのを待ってる、なんか緊張するな。
「んじゃ、一曲だけ。トエト。」
ギターを鳴らしながらアレンジをした曲を歌う。
スローテンポな曲なので今の雰囲気に合うだろう。
日本語だから歌詞とかわからないだろうし、問題ないな。
「…ふぅ。…あぶなっ!」
「…なんか叩かないといけない気がした!」
歌い終わったら何故か拳を振り上げるルクが、なんでだよ。
「今のはどんな曲なんですか?」
「どうどう…。あぁ、素直になれない人の事を歌った曲だな。」
「なるほど…。ふふっ。」
「んー!!」
スローな曲を選んだだけなのになんだよ。
おかしそうに笑うエルと顔が真っ赤になってるルク、しんみりしたかったのに。
「ほら、一曲やったし。帰るぞ。」
「いい曲だったけど!納得いかないって言うか…。」
ルクがゴチャゴチャと何か言ってるがそれをスルーして、部屋に戻ろうと立ち上がる。
「いい曲でした、とてもよかったですよ。」
「なんでエルはそんな笑顔なんだよ…。」
「いい曲だったからです。」
「…ありがと。」
他に意味がありそうだけど、とりあえず礼を言っとく。
後ろでまだボソボソと言ってるルクを引き連れて部屋に戻るとしますか。