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「…少しは自覚あったのか。」
「当たり前でしょ!…あれだけの事をしたのに。」
「まぁ、色々あげたらキリがないな…。」
そう言ってルクが下を向く。
「それなのになんで?」
「んー、…別にいいんじゃないか?あれが素なんだろ?」
「え?」
ルクが顔を上げてこちらを見る。
「エルはあれが素だろうし、ルクはそれが素なんだろ?ならそれでいいんじゃね?」
「そんな適当な…。」
「俺だって別に自分を殺してまで仕えて欲しくねぇよ。仕事さえしっかりやってもらえればそれくらいは多めに見るさ。…多少は、だけどな。」
「…。」
「それに仕事頑張ってるっぽいしな。それなら俺から言う事はねぇよ。」
「そんなのでいいの…?」
「まぁな。…それにあぁやって口喧嘩なんて普段してないからな。お前はそのままがいいんじゃね。」
「…なにそれ、馬鹿みたい…。」
呆れた顔でルクがこちらを見る、しかし何かつっかえが取れたような感じもする。
いつまでも突っ立ってるわけにはいかないので歩き出す、ルクもちゃんとついてくる。
「…ねぇ。」
「あん?まだなんかあるの?」
「…何か歌ってくれない?」
「いきなりとか…、しかも今、夜だぞ?」
「いいじゃない!今は何か聴きたい気分なの!」
「はいはい…、しょうがねぇな。歌じゃないけど、今日特訓した成果を見せてやるよ。」
そう言いながら宝物庫からオカリナを取り出す。
「…歌…た…。」
「何か言ったか?」
「なんでもない!」
「あんまり大きな音は出せないけど、笛くらいなら大丈夫だろ。」
「…それも作ったの?」
「そうだな。…喜べ、一応本番ではお前が最初の観客だ。」
まぁ、シェリーの時は練習だったからな。吹けるようになってから聴かせるのは初ってことで。
「…ふーん。」
「興味津々なの丸分かりだぜ?」
「いいからさっさとやりなさいよ!」
「へいへいっと…。まぁ、オカリナって言ったらこれか。」
そっとオカリナに口を付け、吹く。
ゼルダの子守唄、これしかないわな。
「…眠くなる曲ね。」
「まぁ、子守唄だしな。」
「あれ?短いわね。」
「ここまでしか知らねぇんだ、しょうがない。」
「知らないって…、自分の曲でしょ?」
「あっ、そうだな。うん、ここまでの曲だ。」
「…変なの。」
そういえばそうなってたな。迂闊だった。
「他にはないの?」
「欲しがりかよ。」
「いいじゃない、減るもんでもないし。」
「まぁ、そうだけどさ。…んじゃ即興でメドレーでもするか。」
夜の街を城に向かって歩きながらオカリナを吹く。
どう考えても近所迷惑です。酒場とかの喧騒よりはマシって思えばいいか。
適当にオカリナ曲を繋げるように吹いていく。
途中でルクが感想を言ってくるのだが、案外的を射ている。
「お前結構感性がいいかもな。」
「何よ、急に…。」
「いや、そう思っただけ。…なんか楽器やってみるか?」
「え?私詩人じゃないけど…。確かに面白そうではあるけど…。」
「別に詩人だけが楽器演奏する訳じゃないだろ。俺なんか本来詩人なのに魔法とかぶっぱなしてんぞ?」
「それはあんたが特別なだけでしょ!」
「それを言われるとちょっと…。俺でよかったら教えれるけど?」
「…考えとくわ。それよりも次の曲は?」
「欲しがりすぎだろ…。まぁ、いいけどさ。」
結局城に戻るまでほぼオカリナ吹いてた。
ルクが楽器やりたいって言ったら何か作ってあげよう。
話らしい話はしてなかったが、これでいいんだろうか?心なしかルクの態度が少し大人しくなったのでいいと思いたい。
城に着き、ルクにはメイドに謝りにいかせる為に先に行かせた。結局目的の品は買えてないしな。
夕飯がまだなので腹が減ったが、とりあえずは自分の部屋に戻ることにした。
「遅いよ!リー君!」
「はい、ただいまっと。」
「結構掛かりましたね。何かあったんですか?」
「いんや?すぐ見つけてのんびり戻ってきただけだ。」
「…まぁ、そうだろうとは思いましたけどね。」
「主様、お帰りなさい。ご飯に行きましょうか。」
「この時間の銀は腹ペコキャラだな。…エルは?」
「あぁ、マスターは訊いてなかったですね。夕食はエルが作るそうですよ?」
「ほう、腕前拝見ってとこか。…いいね。」
エルの料理が食べれるのか、これは期待だな。
「それよりもリー君!シェリーさんと村に行ってたんだって?なんで言ってくれないの?」
「あー、あれは成り行きでな…。別に内緒にしてた訳じゃないんだ。」
「むー。見張りの人もどこ行ったのかわからないって言ってたし…。」
「ま、いいじゃないか。」
「ついでに家に寄っていけばよかったのに…。でも、皆一緒の時のがいいかも?」
「それはまた今度ってことでな。」
最後の方が尻すぼみになるフラン。
フラン的には皆で帰った時に姉ちゃんの合格を知らせて俺達びっくり、ってパターンを作りたいんだろうな。…うん、ごめん。もう知ってるんだ。
「さ、あんまりエルを待たせるのも悪いし。食堂に行きますか。ルクもそっちで待ってるだろうし。」
「待ってました、主様!」
「そうですね。」
「結局、リー君は何処行ってのか教えてくれない…。シェリーさんも…。」
「いいじゃないですか。マスターが何やってるかわからないなんていつもの事でしょう。」
「そうじゃなくて!…シェリーさんと一緒ってのが。」
「ふふふ…。」
「さりげなく俺が貶されてるような気がするんですが、それは。」
ガヤガヤと食堂に向かって集団行動。
ルクのセリフでリードが聞き取れてないとこがありますが、あれは
「…歌がよかったのに。」です。