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「うーん、人がゴミのようだ…。流石に離れすぎかな?」
中心まで来たのはいいが、離れすぎてて気配がわからない。
特定の人物を探すには離れすぎてる。もうちょっと近くにいかなくては。
空中でフラボーを仕舞うのは無理があるので適当な家の屋根に降りる。
宝物庫に仕舞いつつ気配を探る。
「んー、もうちょい奥か?」
ぴょんぴょんと屋根から屋根をつたいながら奥の方へと向かっていく。
しかし、これ以上いくとスラムの方だが…。
「…、見つけた。」
案の定と言うか、ルクの気配はスラムに近い。
目視でも確認するためその場所に急いで向かうとしよう。
「…厄介だねぇ。」
自分の目で確かめるまでは信じたくなかったがルクが絡まれてるっぽいな。
路地に入り込んだとこでこの状況。
相手は一人だが…、今日は厄介事が多すぎる。とりあえず屋根の上から様子を見よう。
「…やめ…!」
「…そうじゃ…そっ…!」
「…そ…誰か…!」
「…あ…埒…!」
上から近づいていくとルクとその男の争うような声が聞こえる。
まだ何もされてないようだが、…時間の問題か。
男がルクの方に近づいていくのが見える、…気配消して降りるか。
「来るなって言ってるでしょ!」
「だから!そっちは危ないって言ってんだろ!」
「もう少しマシな嘘つきなさいよ!」
「人が折角親切に言ってやってんのにこのガキは…!」
…あれ?なんか思ってたのと違う感じか?まぁ、どっちみちルクを連れて帰らないといけないからな。とっとと帰ろう。
「おい、ルク。帰るぞ!」
「きゃっ!?…リード?」
「はいはい、リードですよ。…あれ?名前で呼んだの初か?」
「なんであんたがここに…?」
「迎えに来たんだよ。もう夜になるのに出歩くなって、こっちの方は案外危ないからな。」
後ろから声をかける。ルクが始めて俺の名前を呼んだ気がするがすぐにいつものに戻った。まぁ、仕方ないね。
話をしながらルクと男の間に入るように移動する。
「…あれ?」
「お前は…、あの時のガキかよ…。」
相手の顔を見てキョトンとする。この男…、確かヒューイだっけか?あのハピのとこの強面の人だな。
「まさかここで会うなんてね…。うちのルクに何か用?」
少し威嚇するように言い放つ。相手は一応盗賊団だしな。
「…、ちげぇよ。そっちの方はスラムに近づくから危ねぇって忠告してただけだ。」
「…あー、あの会話はそう言うことか。なるほどな。」
「聞いてたのかよ…。」
「少しだけね。…ルク、この人の言う通りだ。こっから先は危ないからあんまり近づくなよ。」
「…知らなかっただけよ。それに知らない男にいきなりこっちにこいって言われて素直に行くと思う!?」
「はいはい、わかったからお礼言っておこうな。…すいません、迷惑かけたみたいで。」
一応気にかけてもらったみたいなのでこちらから謝っておくことにした。こういう時に率先して謝れる上司の鏡、俺。
「…ありがとうございます。」
ルクもわかってるみたいでお礼を言う。
「…おう、わかればいいんだがよ…。」
「それにしても親切なんですね。」
「あん?…女が一人でこっちに来るとロクなことにならねぇからな。」
「ふむ。…あぁ、あの時のナイフ。弁償しましょうか?」
「いらねぇよ。…大体、俺はもうお前と関わりたくねぇんだ。早くどっか行ってくれ。」
シッシッと手で追い払うようにヒューイがジェスチャーをする。
「…まぁ、あれだけやるとそうなりますか。…帰るぞ、ルク。」
「え?」
「改めて、ありがとうございました。」
そう言って頭を下げてヒューイの横を通り路地から広場の方に向かう。
後ろで慌ててルクも頭を下げて俺の後ろをついてくる、ついでに何故かコートを手で掴まれる。
「…あんた、あの人に何してのよ。少し怯えてたわよ?」
「まぁ、ちょっとな…。それよりも。」
少し行った所でくるりと向きを変えてルクの方を見る。
「な、なによ。」
「…あんまり心配かけさせるな。」
「え…?」
「メイドが心配してたぞ?まだ仕事し始めたばかりなんだから色々あるだろ。」
「あ、あぁ…、そうね…。」
色々言いたいが、今回ので少しは怖い思いをしただろうからとりあえずは置いておこう。
「あんまり無理して色々しようとするなよ。」
「…うん。」
それだけ言ってまた前を向き城に向かって歩く。
「…ねぇ。」
「なんだ?」
「お姉ちゃんがさ…、あんたと話せって。」
「うん?それで?」
「…なんでまだ私達を傍に置いてるの?」
「はぁ?そりゃ、使用人としてだから当たり前だろ?」
「そうじゃなくて!…色々やったのに、まだ私達を捨てないの?」
そう言ってルクが立ち止まる。…俺としては早く帰りたいんだけど。