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「そろそろ帰りましょうか。」
「あー、そうだな。もう日が暮れそうってことは随分長いことここにいたんだな。」
「楽しい時間はあっという間に終わりますからね。」
「…シェリーがそう感じたなら今日のデートは成功だな。」
「そうですね…。後半だけですけどね。」
「…次はもうちょい頑張るよ。」
「ふふふ…、では次を期待します。」
岩から腰を浮かせる、練習はたっぷり出来たので笛の扱いも上手くなった。
人前で披露出来るくらいにはなっただろう。
シェリーと一緒に村に戻るとしよう、もちろん手は繋いで。
「おっ、随分長いことこっちにいたんだな。…入れ違いになったけどフランは帰ったぞ?」
「気づいたらこの時間で…、そういえばフランも帰ってきてたんだったな。」
「そういえばそうでしたね。」
「ついでに家族に会っていかないのか?」
「あー…。まぁ、近いうちにまた来るからその時でいいかな?」
「そうか…。まっ、皆元気だからよ。またお土産でも持ってきてくれや。」
「そうします。ではまた。」
転送石に戻ると見張りの人がまだいたので軽く会話をする。
フランとは入れ違いになったらしい。まぁ、別にいいか。
家族とも次来たときでいいだろう。
シェリーと一緒に城に戻るとしよう。
城の転送石に戻り、見張りの兵士に挨拶をして部屋の外に出る。
今日は結構歩いたし、それなりに気を使って疲れたな。
「…あれ?あれはルクですかね?」
「ん?そうだな。…仕事ちゃんと出来てるのかねぇ。」
「いい子ですし、ちゃんとやってると思いますよ。」
「何処が!?俺にはめっちゃ当たってくるぞ。」
「まぁ、それはマスターですからね。…揉め事ですかね?」
「まぁ、あれじゃ揉め事もあるだろうな。」
外に出て城の部屋に戻ろうとしたところ、城のメイドとルクが何か話してるのが見えた。
流石に会話は聞こえないが、ルクが怒られてるのか少ししょんぼりしてる。
やがてルクが意を決したように何かを言ってメイドから何かを受け取って城の外に走っていった。メイドが慌てて追うような仕草をするが流石に追いつけないようだ。
ちょうどこっちに走ってきたので思わずシェリーと一緒に隠れてしまったが、別に隠れんでもよかったな。
「…気になるな。」
「そうですか?」
「まぁな、エルにも少し気遣ってくれって言われたしな。」
「なるほど。」
シェリーと一緒にメイドの方に向かう。
「ルクが何かやらかした?」
「あっ、リード様。こんばんわ。…いえ、そうではないのですが…。」
「何かやったっぽいな。」
「まぁ、初日ですし。失敗は誰にでもありますからね。」
「そうなんです。…あのリード様。」
「ん?また何か修理いるもんとかあるの?」
余談だが、ここで世話になってる間は何かと便利屋みたいなことをしてる。
メイド達の壊れた物を錬金で修理したり、兵士達の装備を見直したりと。
これで滞在費用の足しにしてる感じだな。
「それもありますが…。」
「まぁ、そっちはまた部屋に置いといてくれればいいとして。…ルクの事か?」
「…はい。私が買い出しを頼まれたんですが、それをルクが行くと言いまして…。」
「あー、失敗をそれで取り戻そうとしたのか。」
「そのようです。まだここに来て時間が経ってないですし、無理だと言ったんですが…。」
「あいつここの街全然知らないだろうに…、無茶しやがって。」
「それで…。」
「なるほどな、大体わかった。ルクを捕まえてこればいいんだな?」
「はい…。リード様にこのような事を頼むのは気が引けますが…。」
「まぁ、ルクが何処いったのかわからんからな。探しに行って会えないなんてなったら面倒だしな。…俺なら大体どこにいるかわかるしな。」
気配を探ればどうとでもなるだろう。若干暗くなってるし、コート羽織って気配消しながら屋根をつたって跳んで行けばすぐだろう。
そう考えても俺が適任だな。伊達に便利屋なんてしてないしな。
「助かります。そろそろ暗くなってきますので…。」
「そうだな。あんまり出歩く時間でもないしな、危ないし。」
「買い出しは明日でも大丈夫なので。」
「了解。…さて、俺はルクを捕まえにいくけどシェリーはどうする?」
「…私は部屋にでも戻ります。探すだけならマスターだけのが早いでしょう?」
「そっか。」
「では先に戻りますね。」
シェリーがそう言うと城の方に戻っていった。
確かにあの姿のシェリーだと俺の移動速度についてこれないだろうな。色々駆使すればいけるけど目立つだろうしな…、蔦に乗っかって移動とか出来るし。
「買い出しは商店街の方なので、そちらだとは思いますが…。」
「…奥に行き過ぎると危ないな。」
「はい…。」
あまり奥に行き過ぎるとスラムが待っている。あっちの方は軽く迷路なので迷ったらやばいな。
「全く、面倒がかかる奴だな。」
「いい子なのですが…、一生懸命過ぎるのが少し…。」
「え?いい子なの?」
「え?…仕事も一生懸命しますし、素直ですし、いい子ですよ?」
「マジで…?」
あれ?俺の知ってるルクじゃないぞ?
「でも言葉遣いとかダメじゃない?」
「え?言葉遣いも普通ですけど?」
「…。」
やっぱり俺の知ってるルクじゃないな、うん。
仕事はちゃんとしてるってことか…?
「はっ!あんまり呆けてる場合じゃなかった。」
「…?」
「とにかく探してくるから、自分の仕事を済ませといて。」
「はい…。よろしくお願いします。」
メイドに別れを告げて宝物庫からコートとフラボーを取り出す。
少しぶかぶかのコートを羽織り、フラボーに乗る。
まさか、初の使い道が人探しになるとはな。気配を消して魔力を込めて浮かばせる。
そのまま高度を上げて、地上から見えないようにする。辺りが暗くなってきたとは言え、用心に越したことはない。
流石にここからでは気配がわからないのでそのまま街の中心まで移動していくとしよう。