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「折角いい雰囲気でしたのにね。」
「まぁ店の雰囲気は最高だったな。いいおっさんだったしな。」
「最近何かとトラブルが多いですよね。マスター呪われてませんか?」
「縁起でもないこと言うなよ…。」
すたこらとシェリーと逃げ出し、また歩きながら店を探す。
「…そういえばまだ鉄の残りがあったな。下手に高価なやつ探すよりもそっちのがいいか。」
「そういえばそうですね。」
「あっさりと目的がなくなったな。」
「そうですね…。どうしましょうか?」
完全に存在を忘れてたがまだ鉄の残りがあったわ。変な素材使うよりもそっちのがいいだろう。
何より自分で取ったものだからな、その方が作り甲斐がある。…銀が取ったやつかもしれんけど。
「んー…。そうだ!あるかどうか知らんけど、楽器屋見に行ってもいいか?そろそろ新しいのが欲しい。」
「あぁ、そういえばマスター一応詩人でしたね。」
「最近俺も忘れてんだけどな。見るだけで自分で作るんだけどな。」
「まぁ、買うより絶対安く済みますからね。」
「それもあるけど、やっぱり自分で作らないとな。」
「変な物ばっかり作ってますけど、あのギターはいいですよね。」
「いやいや、全部いいだろうに…。」
なんてことだ。シェリーには俺の装備の良さがわかってなかった。
確かにピーキーな物ばっかり作ってるが最高級品だぞ。一品ものだぞ。
やるせないな。
こればっかりは自分で探せないので兵士に訊くしかない。
広場に戻り兵士を探す。…なんか人数が少なくなってるな、俺のせいじゃないな。
目的の場所はどうやら工業地の方にあるらしい、作ったやつをそこで売ってるんだろう。そんなに売れなさそうだしな。
「逆方向だってさ。」
「あら、そうなんですか。どうせ時間はまだまだありますからね、行きましょうか。」
「そうだな。…なんか俺の用事ばっかりしてないか?シェリーはどこか行きたいとことかないのか?」
「別にないですよ?」
「そっか…。行きたいとこあれば言えよ、そっち優先するから。」
「はいはい。」
いつもならこっち行きたいとかあれ見たいとこ言うんだが、今日は俺の用事ばっかりだな。
んーむ、何か考えとかなきゃな。
流石職人達の地域、なんていうか商業地の方とは別の活気がある。
例えるなら政治家達の討論みたいだな、…イマイチ例えが悪いな、46点。
「こっちの方にはあまり買い物客は来てないですね。」
「どっちかって言ったら店側の人がいる気がするな。買い付けとかそんな感じか。」
「確かに、さっきから馬車が行ったり来たりと忙しいですね。」
「服作ってる所とか色んなのがあるな、…あれだな。」
「あー、確かにそれっぽいですね。」
看板がギターの形してる。十中八九ここだろう。
「ごめんくださーい。」
「…いらっしゃい。」
扉を開けて中にはいるとカビの匂いが鼻に入ってくる。まぁ、あんまり人がこなさそうだしな。おじいさんが一人でやってるらしく、店の中に他に人影はない。
ざっと中を見渡すが色々な楽器が置いてある、笛やら太鼓やらギターなどなど。
おじいさんは楽器の修理をしてるらしく、こちらを一瞥しまた作業へと戻っていった。勝手に見て行けってことだろう。
「あー、色々な種類がありますね。」
「そうだな、んー。」
「何にするか決めてないんですか?」
「見てから決めようと思ってな。」
実際どれにするか全然決めてなかった。
こうやって色々な種類があると逆に悩むな…。どうするか…。
「笛なんてどうですか?」
「あー、そうだな。歌えないのはどうなの?」
「別にマスターが歌わなくてもいいじゃないですか。」
「…それもそうだな。それにこれなら木片だけでいけるし、作るの楽そうだな。」
一通り、笛の種類を眺めたり手にとったりして調べる。全然作れるな。
「これなんていいんじゃないか?」
「まぁ、私は楽器の事はわかりませんのでマスターの好きにしたらいいんじゃないですか?」
「俺もわかんねぇんだけどな…。」
オカリナっぽいものがあったのでそれを選んでみる。…っぽいってかそのものだな、あんまり詳しくないけど。
「とりあえず、これ買ってくるわ。安そうだし、作るときの見本にする。」
シェリーに一言言っておじいさんのとこに品物を持って行く。
予想通りあまり高くなかった。初心者用なんだろう、もしくは子供向けか。銀貨数枚で買える。
「よし、それじゃ行きますか。」
「そうですね、それで次はどこに行くんですか?」
「そうだな…。俺にいい考えがある。」
「あら、考えてたんですね。」
店から出て、次に行く場所をシェリーと話し合う。
と見せかけて実はもう考えてある。…実際これはまずいと思い、ずっと考えていて最後に行く場所は決めていた。
「まぁ、笛も作らないといけないし。プレゼントも作らないといけないですからね。」
「そんな時間かからんけどなー、こんなんちょちょいのちょいよ。」
「マスターだからですけどね。こっちですか?」
「うん、一旦広場に戻るから。」
「ふーん。」
来た道を戻りながらシェリーと一緒に雑談を交わす、流石にあの場所ならシェリーも納得だろう。