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「おう、見せつけてくれるな!坊主はその年でこのお嬢さんをものにしたのか、やるな!」

「そうですね、すっかり縛られてしまいましたね。」

「誤解を招くような…。まぁ、正しいっちゃ正しいんだけどさ。」

マスターに野次られつつも料理に手を伸ばす、豆と肉を交互に食べてその合間にジュース飲むのがやめられんな。

…あぁ、めんどくさいことになりそうだ。

「おぉう?見せつけてくれちゃって…。ネエちゃんこっちにもくれよ。」

後ろから机に突っ伏してた酔っ払いの男がこちらに寄ってくる。

マスターが思いっきり嫌な顔してるし、何よりシェリーが…、いや完全に無視してて無表情だ。

「おい、席に戻ったらどうだ?お嬢さんはお前の相手なんてしねぇとよ。」

「あぁ!?お前は黙って酒もってくりゃいいんだよっ!!」

「…あら、そっちの果物も美味しそうですね。おじさん、それも追加で。」

「…無視してんじゃねぇぞ!どいつもこいつも…、俺を馬鹿にしやがって…。」

酔っ払いはブツブツと独り言を喋りながらまだこちらに寄ってくる。

そのままドカッとシェリーの隣に座る。

「おら、ネエちゃん。さっさと酒でも注いでくれや。」

「いい加減にしろ!…見回りの兵士を呼んできてくれ、なるべく早くな。」

「はっ、はい。」

マスターが酔っぱらいを怒鳴りつけ、店員の一人に兵士を呼ぶように頼んだ。

言われた店員はびっくりしつつも言われたとおりに店の外に出て兵士を呼ぼうとする。

「あぁ?おいおい、待やがれ…。これが見えねえのか?扉の方に近寄ったらどうなるかなー?」

そう言いながら酔っぱらいは懐から杖を取り出す、…なるほど魔法使いなのね。

流石にこうなっては店員も動けない、こちらに怯えた表情を向けぴたりと止まってしまった。

「お前…。」

「はっ、あいつらこの俺を落としやがったからな!!…少しくらいいい思いくらいさせてくれや。」

あー、話が見えてきたな。

どうやらこいつ少し腕に覚えのある魔法使いで魔法団の試験を受けたんだろうな。

その結果惨敗、それで酒に逃げて自暴自棄になってこんなんやってるってことか。

店のマスターもこうなったらどうしようもないし、ましてや店員にもどうすることも出来ないな。それに見回りの兵士も流石にこの状況には気がつかないだろう。

「…料理がまずくなってしまいますね。行きましょうか、マスター。」

「この状況で普通動く?…まぁ、そうだな。おじさん、お勘定と後このボトル2本くらい買いたいんだけどいい?」

シェリーがスっと席を立ち俺に促す。流石に俺も気分が悪くなってきた、こうなってしまったら料理がまずいなんてもんじゃないからな。

「…おいおい、これが見えねえのか?あぁん!?」

「…。」

店のマスター絶句、酔っ払いも大声でこちらを威嚇するように喋り杖を向けてくる。

「どうします?マスター。」

「あんまり目立ちたくないんだけどなぁ。」

「そう思って私もすんなり出ていこうと思ったんですけどね。」

「いやいや、流石に無理でしょ。」

「何ごちゃごちゃ言ってやがる!…数ある火の魂につげる。」

シェリーとどうしようかと相談していたら酔っぱらいが魔法の詠唱を始めた。

「いかん!逃げるんだ!!」

店のマスターがカウンターを乗り越えてこちらにこようとする。俺達の盾になろうとしてるのか…、いい人でいい店だ。でも多分魔力の練り方見るに間に合わないな。

「あー、撃ってきますね。」

「せやな。」

「…【ファイヤーボルト】!!」

「間にあっ…。」

詠唱長いなーって思いながらシェリーと一緒にその光景を見てたら本当に撃ってきた。

店のマスターがこちらに飛び込んでこようとするが逆に危ないな。

流石に理性が残っていたのか俺達を直接狙いはせずに俺達の横にある机を狙って撃ってきたようだ。…いい店を壊されるのも癪だな。

スっと魔法の軌道に入り、腰の阿修羅丸を半分だけ抜きその刃の部分で受ける。

そのまま吸収して発散させる。

「…は?」

酔っぱらいがキョトンとした顔をしてこちらを見ている。

店のマスターもカウンターに乗ってこちらに飛び込む姿勢のまま止まってる。

「うわ、思ったよりも弱いな。全然反動もねぇし。」

「あら、随分とかっこいいやり方で解決しましたね。」

「いやー、折角だから使いたいじゃん?」

「わからなくもないですけどね。」

阿修羅丸を仕舞い、シェリーの元に戻る。

「…。はっ!お、お前、何しやがった!!」

「それよりもいきなり店の中で魔法使うとかお前アホすぎ、火事とかになったらどうすんだ?」

「なっ!!数ある水の魂に…。」

呆けた顔をしてた酔っぱらいがこちらに怒鳴りつけてくる。質問に質問で返すのはタブーだが煽るのにはちょうどいいだろう。

案の定また魔法の詠唱を始める酔っ払い。

「はいはい。」

流石に大人しく待ってる程俺もお人好しではない。

足に強化魔法をかけ、床を踏み抜かないように気をつけてダッシュ。

一瞬で酔っ払いの懐に飛び込む。

「その清きぶへらっ!!」

そのまま酔っ払いの顎に阿修羅丸の柄を突き出しぶつける。そのまま酔っぱらいは数センチ上に飛び上がり、その場に崩れ落ちた。

「この距離でのんきに詠唱なんてすんなよ。舌噛むぞ。」

「普通は一瞬で間合いなんて詰めないですけどね。」

シェリーがこちらに寄ってくる。

店のマスターがカウンターの乗りあがったままこちらを見ている。

「今のは…、何が起きたんだ…?」

「あー、悪い酔っ払いは退治出来たって事でいいじゃないですか。ほら、兵士さんを呼びに行っておいで。こいつ引き渡さんといかんだろうし。」

宝物庫からロープを取り出して腕と足、それと魔法の詠唱が出来ないように口を塞ぐように縛り付ける。

マスターと同じように眺めていた店員を促し、呼びに行かせる。

「坊主…。」

「あんまり詳しい事聞かないで。後まだお勘定払ってないけどいくら?ボトルって買えるの?」

店のマスターがカウンターから降りながらこちらに話しかけてくるがそれを遮るように捲し立てる。

すると最初は訝しげな顔をしていたが状況が飲み込めてきたのか笑い声を上げるマスター。

「はっはっは!!こりゃ笑うしかねぇな!!!お勘定?そんなもん取れるわけねぇだろ!!」

「いやいや、食うもの食ってるし迷惑かけたわけだからちゃんと払いますよ。」

「何言ってんだ!!迷惑かけたのはこっちの方だろ?ほら、もってけ!」

お金を払おうと財布を取り出すが逆にボトルを5本程こちらに渡してくるマスター。

シェリーの飲んでたお酒も入ってるようだ。

「いや、流石に悪いっすよ。」

「何言ってんだ!受け取っとけって!」

「いやいや、これからも利用したいですし…。」

とりあえずボトルを受け取り、いくらかわからないので金貨一枚をマスターに渡す。

「おいおい…、これは流石に多すぎるぞ?」

「…口止め料も含めてって事で。」

「口止め料って坊主…。」

「兵士さん達が来る前に失礼したいんでね。」

「…訳ありか?」

「…まぁ、そんなとこです。」

「そうか…、なら深くは聞けねぇな。」

「大丈夫ですかね、当事者がいなくても?」

「酒場でこんなのは日常さ、この店も信用があるからな。心配しなくてもちゃんとわかってくれるさ。」

色々と事情を訊かれる前にトンズラしたかった。ここで騒ぎを起こしてると姉ちゃんに迷惑かかりそうだしな。

理解のあるおっさんで助かった。こういう店をやってると色々あるんだろう。

「それなら安心っすわ。…それじゃ、また今度はゆっくり食べにくるんで。料理最高でした。」

「料理とお酒、とても美味しかったです。」

「おう、また来てくれ!その時にでもサービスするからよ!」

「次はもっと大勢で来るかもしれないですけどね。」

シェリーと共にマスターにお別れを言って店を後にする。

ちらりと気絶して縛られてる酔っ払いに視線を向ける、あれじゃ起きてもどうしようもないだろうしどうせ兵士達が起こすまでは起きないだろう。

それに向こうの方から兵士達が来るのが見える。…さっさと逃げたほうがいいな。

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