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「さて、俺も汗を流しに行くか。」
流石にこのまま朝食を食べに行く気にはなれない。
今度は普通に扉から水場の方に向かう。朝から夢中になって阿修羅丸振るってたから汗が気持ち悪い。
着替えもしたいし、顔も洗ってなかったし。よく考えたらそれなりに酷いことになってるな。…フランが気づいてなくてよかった。
「あれ?あんたも顔洗ってなかったの?」
「あぁ、それにお前達と違って軽く運動してたからな。」
「そういえば起きた時には既にご主人様はいませんでしたね。」
「日課ってやつだな。」
水場に来ると先に来ていたエル達がすっきりした顔で出迎えてくれた。流石に水浴びとかしてなかったのでラッキースケベなんてなかった。別に狙ってたわけじゃない。
「…ふぅ。」
「目が覚めたか?フラン。」
「うん。おはよう、リー君!」
「あぁ、おはよう。」
まだ顔を洗っていたフランに挨拶をする。ちゃんと目は覚めたみたいだな。うん。
「それじゃ、失礼してっと。」
自分を囲うように土の壁を作り上げて簡易のシャワールームを作り出す。流石にみんなの居る前で全裸にはなれない。
「うわぁ、便利ねぇ。」
「凄い事を軽々しくやってませんか?…これだけの魔法を詠唱もなしで。」
「あー、懐かしいね。便利なんだよね。」
「これでどこでも水浴び出来るからな。」
そう言いながら服を脱いで全裸になる。…よく考えたら少し興奮するな。
この壁をとっぱらったら…。いやいや、それじゃただの露出狂じゃねぇか。
こっちにメリットが何もないな。
変な考えを捨てて、水魔法を頭上に降らせてシャワー開始。
「フッフフ~ン~。フフ~ン。」
あぁ、全身を冷たい水が駆け巡って自分の体が綺麗になっていくのがわかる。
最高に気持ちがいいな。宝物庫から布と石鹸を取り出し体を洗おう。
「ご主人様は本当に歌が好きなんですね。」
「ん?あぁ、鼻歌か。…一応詩人だしな。」
「よく狩りに出かける時も歌ってるよね。…それに始めて会った時も歌ってたし。」
「ま、まぁ、あんたの歌だけは認めてあげてもいいわよ。」
「そりゃ、ありがとさんっと。」
壁の向こう側から声が聞こえる。これだけ気持ちがいいと自然と鼻歌も出てしまうってもんだ、仕方がない。
体を洗う作業をしつつフンフンと歌っていく。
しっかりと石鹸を洗い流し、風魔法と火魔法の合わせ技で体を乾かし服を着る。
「よし、着替え完了っと。」
壁に穴を開けてそこから出る。その後に壁を消し去りお片付けも終了。
「呆れるくらい便利ね。」
「俺くらいしか出来んけどな。…水浴びしたいならやるけど?」
「やだ。途中で覗かれたらたまったもんじゃないし。」
「あぁん?てめぇみたいな貧相な体見るくらいだったら自分の能力活かして他の人見るわ。」
「はぁああ!?誰が貧相ですって!!?」
人が折角好意で言ってやってんのに覗き扱いとは。流石に温厚な私でも怒りますよ。
「ほらほら、ルクは落ち着いて…。ご主人様もあんまり喧嘩しないでくださいね。」
「リー君!今サラッと変態発言したんだけど!」
「そうよ!今覗き常習犯ってのがわかったわ!」
「おいおい、待て待て。流石にねぇよ。」
慌てて訂正する。確かに自分で言っちまったけど、死神スキル駆使して覗きとかストーカーとかしてないよ?本当だよ?
「…まぁ、リー君はそんなことしないよね。」
「フランが最初に言った気がするけど、わかってるならいいや。」
「騙されてるかもしれない!」
「お前は許さん。土に埋めて一日放置したろか?あぁん?」
「やってみなさいよ!!シェリーさんとレイさんに言いつけるから!」
「…運がよかったな。今日の俺は寛大な心があるらしい。」
「うわぁ、ちょっとカッコ悪い。」
「もう二人共…。」
「やーいやーい!」
シェリーとレイを出すのは卑怯じゃないっすかね。これには私も遺憾の意を示したい。
でも反撃されそうなので何も言えない。…昨日のうちに仲良くなりすぎだろう。
「さて、ピーピーうるさいのは置いといて朝飯食いにいくか。」
「勝てないからって逃げるんだー?」
「うっさい。」
「…この二人はこれでいいのかも?」
「…案外仲がいいのかもしれないですね。」
「「ないない。」」
「あぁん?ハモんなよ。」
「やめてよ、気持ち悪い。」
「どつくぞ、こら。」
「きゃー、おねえちゃんーあいつがいじめるー。」
つくづくルクとは相性が合わんな。棒読みでエルを盾にするんじゃねぇよ。
そのままルクと言い争い、エルに叱られたり、フランが突っ込んだりとしながら部屋に戻っていった。
「それはマスターが悪いですね。」
「ちくしょう、みんなして俺をいじめやがって…。」
「まぁまぁ…。」
「エルだけだよ、俺の味方は…。」
ルクがシェリーにチクリやがったのでシェリーにも責められた。
「フランも味方だよ?」
「フランさん、毎回ちょっと毒吐く時あるじゃないですかー!やだー!」
「えぇ?私毒なんて使えないけど…。」
「そっちの毒じゃなくてですね…。」
「まぁ、シェリーの方が致死量は少ないけどな。」
「殴りますよ。」
「痛っ、殴ってるじゃないですか!やだー!」
フランの天然は置いといて。さりげなくシェリーディスったら殴られた。
「マスターは無視して食事に行きますか。」
「はい!シェリーさん!」
「ふふふ、ルクは可愛いですねぇ。」
いつの間にかシェリーの舎弟みたいになってるなルクの奴。くっそ、シェリー味方につけるのはずるいぞ。
「いいのですか?」
「いいんですよ。ほら、エルもフランもいきましょう。」
「お腹空いたなー。」
ぞろぞろと皆シェリーについていってしまう。
「…俺の味方はどうやら銀だけみたいだ。」
「え?何してるんですか?早く食堂に行きましょう。」
チラッと銀を見るとその後をスタスタと付いていこうとしてた。
…俺の味方はいないみたいだ。
皆の後をトボトボと付いて行き食堂で朝ごはんをいただくことにする。
食事はもちろん美味しかったのだが、何故かしょっぱいのは気のせいってことにしておこう。
「さて、エルとルクは今日から仕事を手伝うんでしたよね?」
「そうですね。これから仕事内容を訊きに行ってきます。」
「銀ちゃんはどうしますか?私とマスターはちょっと予定がありますけど。」
「主様とですか?…あぁ、あの約束ですか。でしたら我は狩りにでも出かけてますね。」
「銀ちゃんは察しがよくて助かります。フランはどうしますか?」
「んー、一旦帰って無事についたよーって連絡しなきゃ。それにリー君も無事ってこと皆に言わないとね。」
「なるほど、それは助かります。」
「本当はリー君自身もいかなきゃなんだけど…。約束?があるなら仕方ないね?…ちょっと引っかかるけど。」
俺抜きでどんどん話が進んでいく、シェリーさんの進行能力は流石だなぁ…。はぁ。