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「うわ、すご…。」
「あぁ、そういえばそれも貰ってましたね。」
「ミスリル…、ですか?」
「せやな。今からこれを加工するんだけど、その前に俺らがどんな存在かってことだけ言っておくか。」
エルとルクはミスリルに目が釘付けだったが、シェリーは無関心だ。
「…そうね、今日起こった事だけでも既に意味がわからないんだけど。詩人で?ティスカ公と知り合いで?それに妖精を使役していて、鍛冶も出来るって?」
「…ご主人様は神様なんでしょうか?」
「流石に神じゃねぇけどさ。簡単に言うと、なんでも出来て凄く強いって感じだな。」
「流石にざっくりしすぎじゃないですか…?」
「それ以外どうやって説明しろと。…ちなみにシェリーもティスカ公ボコボコに出来るくらい強いし、銀なんて俺とどっこいどっこいの強さだ。」
「うーん…、いまいちピンとこないわね。…強さの度合いが。」
「銀は単体でドラゴン倒すし、俺は単体で中級魔族倒すくらいって考えてくれればいい。」
「嘘でしょ…。」
ルクが絶句して、エルも目が点になってる。
「まぁ、この辺は後々わかってくるだろうし。置いといて。早速、武器作成に取り掛かりますか。」
「結局武器にするんですね、…主様に鎧は似合わないですし、妥当でしょうか。」
「武器ばっかり作ってる気がしますけどね。」
「俺ってどっちかって言ったらアウトボクサー派だしな。」
「あうとぼくさー?」
「まぁ回避主体の近接系ってことだな。」
銀とシェリーが武器について色々言ってくるが正直防具は後回しでもいいかなって考えてる。
鎧ってガラでもないし、軽い素材でいいのが手に入ったら服くらいは作りたい。
「それで?このミスリルの塊をどうするのよ。」
「まぁ、見てな。…いくぞ!」
ルクが興味津々の様子で聞いてくる。案外性格が似ているのかもしれない。
ミスリルに手を当て、ありったけの魔力を込める。そしてイメージを作り上げる。
頭の中で作り出すのは刀。この時代にはないであろうその形を思い浮かべる。
MMOでよくある、自分が持ってる知識を総動員させて形作る。
イメージが固まったら次は効果を付属、これは前から決めておいた効果にする。
「…出来た。」
「何これ?剣にしては細いような気がするけど…。」
「マスターってやっぱり変なのばっかり作りますよね。」
「握る部分がありませんね。」
「魚を捌く包丁に似てますが…。ちょっと反りがありますね。」
初めて見るであろうその形に皆少し戸惑ってる。ミスリルを三分の二程使い出来上がった刀だ。
「触るなよ、相当切れ味良くしてるから。それにここからまだちょっと加工するからな。…少し休憩だな。」
そう言って宝物庫から木材と布など、柄の部分に必要な素材を取り出す。
そして魔力を使いすぎたので休憩を挟む。
「これだとすぐに折れそうですけど…。」
「まぁ、そうだな。お前たちが知ってる剣とはちょっと利用法が違うからな。こっちの刀は斬る、突き刺すを主に置いてる。一方普通の剣はどっちかって言うと叩き潰すとかに向いてるだろ。」
「ふーん、刀って言うのね。これ。」
「俺オリジナルって事にしとこう。」
「それで今回はどんな変態効果をつけたんです?」
「変態って言うなよ。…魔力の許容範囲の拡大と吸収だな。」
「効果って…、鍛冶の腕も一流なわけ?」
「それはどのような効果なんでしょうか?」
「まぁ、ちょっと待てって。…よし、ひとまずはこれでいいだろう。」
返事をしながら柄の部分を作り上げる。これもちょっと工夫を込めて俺の手にジャストフィットするように作る。鍔もミスリルで作り上げる。これで完成だ。
「よっと、…こうやってだな。色々魔力を込めると…。」
そう言って火魔法で刀身を覆ったり、水魔法で氷の刀を作り出したり、風魔法で光の屈折を利用して刀身を見えなくしたり、土魔法で振るうたびに砂を発生させたりしてみる。
「すご…。」
「あれ?でも木剣でも同じようなことやってましたよね?」
「そういえばそうですね。」
「あれ結構無理やりやってるから魔力の消費が大きいんだよ、それに込めすぎると木剣自体が壊れる可能性あるし。それをなくした版だな。それにな、シェリー。水魔法使ってくれ。」
「いきます!」
間髪いれずにこちらにウォーターボールを放ってくる、容赦がないな。
それを刀で振り払うようにする。
すると刀の周りにウォーターボールの水が纏付き、そのまま刀身の部分を覆っていった。
「と、こんな風に吸収するようにした。」
「主様どうせ無効化するじゃないですか。」
「…シェリー様の魔法を消したのはご主人様の能力でしたか。」
「あれそうだったの?だったらいらないじゃん。」
「…あれ?俺もなんかそう思えてきた。…いや、相手の魔力を吸収するって考えたら遮断よりも使えるからいいんだよ。」
遮断には魔力使うからな。そう考えたらこっちで吸収した方がいい。それにそっちのが絶対かっこいい。椅子に座り、鞘を作る為にまた宝物庫から木材を取り出す。そして内部にミスリルを使い、外見は木材を使う。装飾はほぼなし、この辺は後々たしていけばいいだろう。
「マスター、まだ切れ味を試してませんが。」
「あぁ、そういえばそうだったな。…かなり鋭くしたんだが。」
そう言って刀を床に立てる様に置く。するとそのまま刀の重みで床にどんどん垂直に刺さっていった。
「…触らなくてよかった。」
「試し切りをするまでもないな、これは…。」
そう言って床から刀を抜き取って鞘にしまう。木で出来た床に穴を開けてしまったので木材と錬金で修復。…これでバレない。
「そんなの使う機会あるんですか?」
「そりゃ使うさ。若干今までのより重いからな、慣れる為にも使っていきたいし。…それに刀身を土魔法で覆えば訓練用にも出来るからな。」
「確かにそうですね。流石主様、そこまで考えて効果つけてたんですね。」
「ま、まぁな。」
「あっ、これ絶対今思いつきましたね。」
「今のは私でもわかったわ。」
そうだけどさ。確かに今思いついたんだけどさ。
鞘を腰の当たりにつけて抜けるかどうか試してみる。
…抜けない、刀身が長くて腰につけたまま抜き出すのが無理だ。
「ぷ、なにそれ。」
「マスター、可愛いですね。」
「これは…、ふふふ。」
「笑うんじゃねぇよ!これは盲点だった…。とりあえず抜くときは一旦腰から外して抜こう。」
よっぽどその姿が滑稽だったのか笑われてしまった。しょうがないだろ、大人になっても使うからサイズがデカイんだよ。
左の腰には刀。いや、ここに命名する。名刀、阿修羅丸。これだ、完璧。そして右の腰にはフィンネル。
「阿修羅丸も出来た事だし。残りのミスリルはどうするか。」
「え?今のその剣の名前…?だっさ。」
「流石マスターですね。」
「これが普通なんですか?」
「我はかっこいいと思いますが。」
「うっせ、いいんだよ。阿修羅丸で。」
なんてことだ。俺の最高傑作に向かってそんな。かっこいいだろ、阿修羅丸。
残りのミスリルはもうほとんどない。タバコの箱二つ分くらいだ。