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「あの…、本当によろしかったんでしょうか?」

「え?なんだって?」

初めてエルの方から話しかけてきた。

ロビーみたいなとこでメイドさんが妹を連れてくるのを待っているところだが相変わらず周りの音が大きいし、エルの声が小さいしで聞こえづらい。

「よろしかったんでしょうか?私達で…。」

「あぁ、問題ないだろ。料理も出来るし、それに旅に出ることになっても大丈夫そうだしな。」

「いえ、…私は問題ないのですが。」

「…妹が?」

「はい、少し問題が…。」

ふむ、なんかゴルスクも心配そうにしてたし何か問題があるのか。

まぁ多分大丈夫だろ、エルの双子ってことは体が弱いとかそんな感じか、だから奉仕には向いてないと。

「お前かー!!!お姉ちゃんを買った不届きものは!!!」

ゴスンと後ろから頭を叩かれた。

完全に考え事してて油断してたので見事な不意打ちだ。

「痛っ!!なんだこいつ!」

「ルク!?ご主人様になんてことを…!!」

「お姉ちゃん、よく聞いて。絶対騙されてるから。」

ご主人様って呼んでもらえた。いや、今はそんなことは重要なことじゃない。

こいつか、妹ってのは。…確かに、少しじゃなくて凄く問題ありだ。

「そんなことないから…。」

「今までもそう言って色々な人に雇ってもらったけど結局ダメだったでしょ!?」

「それはルクが…。」

「おいてけぼりはやめてくーださい。」

「あんたは黙って!!」

ご主人様そっちのけで二人で喧嘩のような話し合いをする。

全然違うやんけ、見た目は確かに似てる。性格はまるで反対だ。

水色の髪をショートにしててボーイッシュって感じか。

エルの時に少し珍しいと思ったがオッドアイだな、右が水色で左が赤か。エルとは逆なんだな。

胸はっと…。ふん、戦闘力3か。ゴミめ。

「おいおい、仮にも一応雇い主なんだけど?」

「ふん、どうせ前の奴らみたいにすぐに捨てるんでしょ?わかってるんだから!」

「だからそれはルクが…。」

「はいはい、ここじゃちょっと迷惑だから出ましょうねー。」

「…!!触らないでよ!変態!!」

周りは何事かとこちらに視線を向けてくるので正直居づらい。

ギャーギャー喚くルクの背中を押しつつ商会から出ようとする。後から凄く申し訳なさそうな顔のエルがついてくる。うん、前途多難。


「はい、まずは自己紹介しようか。俺はリード。」

「はぁ?なんであんたに名乗らなきゃいけないのよ。」

商会から出て門番に軽く挨拶をして広場でやっとこさ話をしようと振ってみたがどうにもこうにも。

ここまでくるのに何回か引っ掻かれたりして傷が出来て痛かった。すぐに治癒魔法で治してたけど。

「ルク…。すいません、この子はルクって言います。」

「お姉ちゃん!」

「ルク!こっちは選んでもらった立場なんだから!」

「お、おう。あんまり姉妹で喧嘩は、な?」

ここに来てエルが初めて大きな声を出したのでびっくりした。

まぁ一応自己紹介は出来たと見ていいかな。エルとルクね。リード、覚えた。

「…それで?あんたは何者なの?」

「ルク…。」

「…。俺は普通の冒険者で詩人やってる。」

不機嫌そうな顔でルクが聞いてくる。もちろん、俺は普通の詩人だ。

「詩人?ただの詩人が奴隷買える程のお金もってるわけないでしょ!」

「持ってたんだからしょうがなくね?あと言葉遣いちょっとおかしくね?」

「へー、さぞかし凄い詩人さんなんでしょうね!」

「ほー、直さないと来たか。いや、直してるけど全然気持ちこもってねぇな。」

「はいはい、物凄い詩人のご主人様!これでいいんでしょ!?」

「あー、そうくるのね。はいはい、わかったわかった。…ちょっと待っとけ。」

「…何?こんなとこで。」

こいつ完全に馬鹿にしてんな。いいぜ、そこまで言うならその物凄い詩人様の実力みせてやんよ。

宝物庫からギターを取り出してチューニング。…うん、よし。

「すー、はー。…俺の歌をきけええええええええ!!!」

深呼吸してから大声でそう叫ぶ。周りの人は何事かとこちらを一斉に振り向く。元からなんかの痴話喧嘩かとこちらを向いていた人もいたが。

エルとルクは目を見開いてこちらを見ている。

「…それでは聞いてください。」

この状況で歌うのはあの曲しかねぇよな。What 'bout my star?これだ。歌詞があれとか関係なし、どうせ日本語だからわかんねぇだろ。英語も混ざってるけど。

気持ちってのはこう込めるもんだと教えてやれればいいのさ、全力で込めてやんよ。

アカペラで始まりギターを交えての弾き語り。久しぶりに大きな声で歌ってるので凄く気持ちがいい。

突然始まった路上ライブにも関わらず周りの人も手拍子をしてくれたりノってくれてるので更に気分がいい。

「…気持ちってのはこう込めるんだよ。わかったか?」

「…え?なに?」

「お前聴いてなかったのかよ…。」

「いやっちがくて、ちょっと…。なんでもない!!」

「素晴らしいです!!今の曲はなんて言うんですか!?」

周りから大歓声、エルも目に光が差してていい感じ。ルクがあんまり聴いてなかったぽいのがちょっと予定違いだったが。まぁ、いいだろう。

「にいちゃーん!もっかいやってくれー!」

「すてきー!」

「アンコール!アンコール!」

「お?今日は気分がいいからもうちょっとやっちゃうか?」

「「「おぉー!!」」」

そこからはメドレーですよ。特盛の方ね、もちろん。

だんだん人が集まってきて見てくれる人も増えて俺大満足。エルもいい感じにこっちに耳を傾けてくれてる。ルクは全然違う方向いてて表情が見えないからどうなのかわからんけどジッとしてるってことは聞いてるってことでいいんだろう。

「はい、お粗末さまでしたー!」

「えー!もうおわりー!?」

「にいちゃん、どこで歌ってんだ!?場所教えてくれたら聴きにいくぜ!?」

「…うちの専属になりませんか?」

周りから一斉に声が掛かる。気がつくと周りが人で溢れていた。

「…ちょっとはしゃぎすぎた。…逃げるか。ついてきてくれ。」

「はい!」

「ちょっ!」

エルとルクの手を取って転送石に走る。人ごみをかき分けてすぐ近くにある転送石へと急ぐ。

「いつまで手を握ってんのよ!」

「ちょっと待っとけ!トラベルワープ!」

転送石に駆け寄りすぐさま呪文を唱えてティスカ公国の冒険者ギルドに飛ぶ。

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