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さんぼんめっ!
「本来はお見せするつもりではなかったのですが…。」
「何か事情がおありで?」
「えーっとですね、あの者は前のご主人に捨てられてしまってですね。それ以来あまり愛想がなくまりましてね。それに…。」
「それに?」
「実はあの者一人ではないのです。双子でして、共々捨てられてしまって。はい。」
「つまり二人分の料金と言うことですか?」
「単純に足し算って訳でもないんですが。…なんといいますか、もう一人が給仕には向いていないと申しますか…。」
「あぁ、なるほど。」
「そして、二人離れ離れになるのは嫌だといいますので。今回のお話には向いてないと思いまして。」
そこまで話していてやっとこさこちらに瞳を向ける女の子。
「そう言う事情が、なるほどね。…あの子とお話しても大丈夫ですか?」
「…本気ですか?いえ、いいのですが…。こちらにきなさい。」
そう言ってゴルスクが女の子をこちらに呼ぶ。呼びかけには答えて従うので聞いてはいるようだ。
「あっ、いえ。二人きりで話をしたいのですが。」
「…正気ですか?一応躾は出来ているとはいえ、我々にも責任は取れませんよ?」
まぁ、お客様に奴隷が手を出したら問題だろうしな。でもこの中じゃ一番マシだしな。
「大丈夫ですよ、これでも腕には少々自信がありますので。」
「そうおっしゃるのなら…。では私どもは部屋を出ますので…。」
「お願いします。」
メイドが奴隷達を下がらせてからゴルスクも一言言ってから部屋を出て行く。
「くれぐれも失礼のないようにな。」
「さて、そこに座ってくれるかな?」
「はい。」
油断していると聞こえないくらいの声の大きさだ。
水色のセミロングの髪を後ろでくくってる、ショートポニーだっけ?そんな髪型だ。
少し痩せ気味だとは思うが女の子ならこんな感じか、胸はシェリー以下、レイよりも少し小さいくらいか?
いかんいかん、おっぱい星人が顔を出してる。自重せねば。
その子が席に座る。さぁ、お話の開始だ。
「…どう?最近は?」
「…はい?」
いかん、年頃の女の子とふたりっきりって状況だとコミュ症が出てきてしまう。
「いや、間違えた。…前のご主人に捨てられたって聞いたけど?」
「はい。」
「なんでまた?」
「財政危機だそうです。」
「なるほど、メイドの仕事は長いの?」
「はい。」
「…料理は得意?」
「はい。」
あかん。会話が続かない。この子無口すぎ、あぁそういえば。
「俺はリードって言うんだけど。君の名前は?」
「エルです。」
「それじゃあ、エルさん。単刀直入に聞きたいんだけど、俺に雇われたい?」
「…条件を飲んで買っていただけるなら。」
ここにきてエルの瞳に少し光が入った気がした。
「条件ってもう一人も買うってことだよね?」
「はい。」
「よし、値段によるけどおっけー。じゃあ早速買いますか。」
「え?」
ここでエルは驚いた顔をして、こちらに目を向けた。初めて目があった気がする。
席を立ち扉の方に向かう。
「メイドの仕事も出来て料理も出来る、十分だな。すいませーん、決めましたー。」
「そ、そんなすぐに決めていいのですか?」
流石にエルが困惑したように言ってくる。メイドにゴルスクを呼ぶように頼む。
「大丈夫大丈夫、こういうのはフィーリングで決めたほうがいいしな。…シェリーがなんて言うか知らんけど大丈夫だろ。」
「せめて、私の妹とも話したほうがいいのでは!?」
「あぁ、妹なんだ。エルの妹なら問題ないだろ。料理とかも覚えてもらえばいいしな。」
「そ、そんな簡単に…。」
思い立ったがなんとやら。決定したからな、もう。
しばらくするとゴルスクが部屋の扉をノックして入ってきた。
「まさかとは思いますが…。本当によろしいので?」
「決めました。して、値段の方は?」
「せめて、妹も見てからでも遅くはないかと…。」
「大丈夫でしょう。」
「…わかりました。双子の二人合わせて金貨36枚となっております。」
シェリーの髪飾りより高い、いや比較するのは失礼だな。
宝物庫を開いてお金を取り出そうとする。
「こちらの鉱物の方はどういたしますか?」
ゴルスクが俺より速く宝物庫から鉱物をひょいひょいと机に並べていく。おー、結構あるな…、これなんかよさげ?
「これは?」
「おぉ、お目が高いです、はい。こちら、ルビーの原石となっております。…いかがでしょうか?」
赤い石ころを手に取って光にすかしてみる、宝石の事は全くわからないが神眼でちゃんと本物なのは確認っと。
綺麗な燃えるような紅だ、これはレイに合いそうだな。…外見だけじゃなくて中身もそれっぽいし。
「これもついでにお願いします。」
「えーっとそれですと…、そうですね。合わせて金貨40枚でいかがでしょうか?」
いかがでしょうかって言われても相場がわからんしな。ルビーって高いよな。シェリーの髪飾りがエメラルドだったから…、うんわからん。
「わかりました。…これで。」
宝物庫から金貨をせっせと取り出していく。10枚の山が4つ出来上がる。
「確かに。…もし何かありましてもこれで我々に責任はなくなりますが、よろしいでしょうか?」
それの数をきっちり数えてゴルスクがそう言う。
「はぁ、大丈夫ですよ。」
まぁ、大事なことだし。そのへんは確認しておかないとな。
「では…。すいません、私はこのあと用事がありますので…。」
「わざわざお忙しい中時間を割いてもらってありがとうございます。」
「本当なら出口までお見送りするのですが…。」
「お気持ちだけで結構ですので。」
ゴルスクが金貨を宝物庫に入れて、簡単な書類をこちらに渡す。
それをザッと見てサインを交わす。これでいいはずだ。原石を宝物庫にしまう。
「アトラス…、これは失敗しましたかね…。」
「どうかいたしましたか?」
「いえいえ、こちらの話です。…それでは。今後共ご贔屓に。」
ゴルスクが何やら呟いてからお決まりのようなセリフを言って部屋を出て行った。
「それではこちらです。」
「よし、いこうか。」
「はい…。」
未だ困惑しているエルを連れて部屋を出る。メイドにつれられてきた道を戻るとしよう。