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「やっぱりこいつら無茶苦茶だわ…。」
ティスカ公が椅子に項垂れるように座り込んでそう呟く。
「いやー、いい運動になった。やっぱり技術的にはティスカ公には遠く及ばないな。」
「何度も受け流されると逆にムキになってしまって、個人的にはそこを直したいですね。」
俺と銀は先ほどの準備運動について話し合う。反省して次に活かすのが大事。
「もう、年甲斐もなくはしゃいじゃって。しょうがない人ですわね。」
「かなり本気だったけどな!」
「マスターが馬鹿なせいですいません、少し休憩してから進みましょうか。」
「馬鹿じゃねぇよ!」
「これから敵と戦う人とやる行為じゃないですよ、完全に実戦じゃないですか。」
「…確かに。」
グウの音も出ないほどの正論。
朝食がまだだったので食べながら休憩。
「まぁ、今日も昨日と同じでまずは次の階クリアが目的だ。」
ティスカ公が装備をつけながらそう言う。
「俺たちはいつも通り遊びながらついていくと。」
「…まぁ、そうだな。」
「やることないもんな。大丈夫、ちゃんと治癒魔法くらいは飛ばすから。」
「それはありがたいんだけどなー、あれ見ちゃったらやっぱりもったいないと言うかなんと言うか。」
「まぁ、それもバレないためだからな。仕方ない。」
「あぁ、そうだったな…。」
どこか遠くを見つめるティスカ公。
「【フィンネル】の訓練も出来ないからなぁ、やっぱ暇になるな。」
「…それってあの兵器の名前ですの?変な名前。」
「あぁん!?俺のネーミングセンスが悪いと!?」
「…まぁ、マスターってちょっと…。」
「あれ?マジで?【フルンネル】ってのも候補にあったんだけど…。」
「そっちも…。」
「マジかよ…。」
結構いいセンスしてると思ってた。【ドラゴンツイスト】とか【メテオシャワー】とかも駄目なのかな?
いや厨二センスに溢れるいい名前だよな、うん。自信を持て、俺。
ちょっと精神削られた。
「よし、じゃあここからは広場に映すからな。気をつけてくれ。」
そういって指を頭上でパチンと鳴らすティスカ公。
ゆっくりと目玉が開いていく。あぁ、こっちである程度操作出来るのね。
「…マスター、別に変なとこないですよね?鏡がないのでわからないんです。」
珍しく、シェリーが服装について気にしてる。…高そうだけど手鏡くらい買ってやるか。部屋にはあるんだけどな、ティスカ公の城のだけど。
「別にねぇな、…強いていえばちょっと髪飾りがズレてるくらいだな。」
「直してくださいな。」
「はいはい。」
シェリーが俺の前で後ろ向きに座り込む。ちょいちょいと髪飾りを動かして位置を正す。…これでいいのかしらんけど、さっきよりかは見た目がよくなったはず。
「うー。」
「何唸ってんだよ、レイ。」
「なんでもないですわ!」
「ふふふ…。」
「いいですわ!これが終わったら…。」
勝ち誇った顔のシェリーと気合を入れるレイ。
…そういえばなんか作ってやるって言っちゃったな。まぁ、作ってやるか。頑張ってるしな。
「やっぱり何かありますわね。」
「大方リードに何かさせるんだろ。」
「まぁ、間違いないですわね。」
ティスカ公とクラウ夫人がこそこそと何か話してる。
「さて、銀。今日は何しようか?」
「しりとりって遊びもかなりやりましたからね…。」
「あんまりやれることないんだよなー。んー、思いつかないな。」
「ティスカ公達の戦い見てるだけでも参考になるので我は別にいいですけどね。」
確かに。
シェリーも交えての連携はかなり取れてきてると思う。
元々ティスカ公達の連携が取れていたのでシェリーをフォローしつつ動いていたが後半にはそんなことやってなくても合ってた。
しかし、これを俺らでやろうとすると。
シェリーの牽制=敵がぐちゃぐちゃ。
俺の本命=敵がぐちゃぐちゃ。
銀の牽制=敵がぐちゃぐちゃ。
…まぁ、強敵が来た時に役に立つから…。
今度わざと手加減して連携取るために戦おう。そうしよう。
「さて、そろそろ次の階にいくぞ!」
そういってティスカ公が転送石を触り、クラウ夫人に手を差し出す。
それぞれ手を握っていき、準備完了。
「じゃあいくぞ。【トラベルワープ】」
ティスカ公がそう唱えると世界が一瞬暗転する。
次に目の前に現れたのは大きな火の玉と暗い町並みだった。