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なんとこの迷宮ゴーレムが出るのだ。
それもアイアンゴーレム。
出会ったときは少し興奮したが、動きが鈍くてシェリーの魔法ですぐに消え去った。
レイに聞いてみたところ、個人の作った迷宮では魔石は出ないがその魔物特有のアイテムは落ちることがあるとの証言を得た。
となればやることは一つである。
鉄を集める。
鉄さえあればなんでも出来る。最近弓を使っていなかったがその矢尻も鉄に出来る。
鎖帷子なんかも作れるかもしれない。旅人の服からようやく脱出できる可能性がある。
投擲用のナイフも作りたかったところである。
つまり鉄さえあればその辺りが一斉に解決する。
お金があったときに買えばよかったのだが鉄の仕入れなんか知らないし、トールの仕事を邪魔するみたいで少し申し訳なかった。
「とりあえずは見える範囲にはいねぇな。」
目の前のゴブリンの腕を切り落としながら周りを見渡す。
あれだけ罠でおびき寄せたのに出なかったしな。道中で出会ったのはたった二匹だけだった。
両方共ドロップはなし。ならば数を狩るしかないだろう。
しばらく辺りの魔物の腕を切り落としたり頭を切り落としたりと縦横無尽に駆け回ってたのだがおびき寄せられたゴーレムは一匹。
そしてドロップはなしである。
「…こりゃ相当骨が折れるな。どうすっかなー。」
ティスカ公達のいる建物の屋根に戻る。銀も少し暴れられて満足したのか一緒に戻ってくる。
「終わりだけど、なんか参考になったか?」
「ならんって言うか、お前案外接近戦はそんなに慣れてないんだな。」
「まぁ、近づかれる前にケリがつくからなぁ。それに全力でやってたら疲れるし、この剣折れそうだし。」
ただの初心者用のショートソードだから折れそうで怖い。頑丈に作ってあると言っても俺の力だとどうなるやら。
「無茶苦茶すぎるな、やっぱり。」
「それでどうする?このまま見てもしょうがないだろ、一回戻るか?」
「一回戻るって…、まだ戦うつもりか?かなり暴れてただろ今。」
「まぁ、ちょっとした事情があってね。それで戻るならまた銀が乗せていくけど。」
「戻りましょうか、あなた。」
「…そうだな、これならリードの心配はいらんし。俺らにメリットもないからな。」
それがいい、正直俺の戦い方は誰にも参考に出来んと思うし、何より接近戦の技術ならティスカ公とクラウ夫人のが上だろう。
「てことで一旦戻るか、銀。」
「了解です、主様。」
そう言って銀がまた大きな姿に戻る。
来たときと同じようにテンションが上がったティスカ公と下がったクラウ夫人を乗せて転送石まで戻る。
「あれ?案外早かったですね。」
「リードの事だからてっきり迷宮内の魔物全滅させてくるのかと思いましたわ。」
帰ってきたらシェリーとレイが椅子に座ってお茶会っぽいことをしていた。
「公爵様方を置きに来ただけ、またちょっと行ってくるわ。」
「お荷物感覚!まぁ、俺は飯でも準備するか。」
「ティスカ公作れんの!?おっさんやるじゃん。」
「あん?飯を食べる準備をするってことだ。」
「見直したと思ったらこれだ。…あれ?料理出来る人いなくね?」
そう言って周りを見渡すが誰ひとりとして出来そうな人がいない件について。
「そりゃお前、携帯食料に決まってんだろ。」
そういいながら宝物庫を開いて中から食料と水筒を取り出すティスカ公。
「女子力足りてなさすぎだな、このパーティー。」
「…女子力?」
「まぁ、夫人と姫に料理ってのもおかしい話だけど。シェリーは覚えるくらいしたらいいんじゃね?」
「私が食べないのに作れと、おかしなマスターですね。」
あぁ、そうだよな。お前はそういうやつだった。…深刻な問題だな。旅をしていく中で料理する人がいないのは致命的だ。
「…まぁそれは後で考えるとして。」
もう既にティスカ公達は飲み物を飲んだりして休憩モードに入ってる。
「よし、んじゃまた行ってくるから。」
「おう、行ってこい。」
「私はまたここで待ってますのでどうぞご自由に。」
シェリーが宝物庫から果物を出してその皮を風魔法で剥きながらそう言った。シェリーに宝物庫を教えたのはいいけど、何が入ってるか知らんかったが果物いれてたとはな。まぁ、その辺しかないか。
「よし、銀。ここからは二手に別れよう。別々に回ったほうが効率がいい。見つけ次第倒せ。」
「はい、主様。…何か目的があるんですか?」
「あっ、そうか言ってなかったな。ゴーレムいただろ?あいつからどうやら鉄が取れるらしいんだ。それが欲しい。」
「なるほど…、それで何か探しながら戦ってたんですね。」
銀に作戦を伝える。どうやら俺が何か探してたのは気がついてたらしい。
「てことで、ゴーレムが鉄を落としたらここに持ってきておいてくれ。」
「了解です、それだけですか?」
「あぁ、それだけだ。それと別に建物壊しても後で直るから別にぶっ壊していいからな。じゃあ、いってこい。」
「なら、元の姿で駆け回ったほうがいいですね。」
銀が元の姿のまま跳んでいく、そして着地で盛大に建物をぶっ壊す音と体当たりでどんどん建物が崩れていく音が迷宮内に響いていく。
うん、邪魔な物もなくなるし音で魔物寄ってくるしで一石二鳥だな。
「…酒持ってきて飲みながら見たかったなこの光景。」
「シラフだときついものがありますわよね、あれが敵になったと考えると…。」
「リードに限ってはそんなことありませんから大丈夫ですわ。」
「マスター気分屋ですからねぇ、そっちから敵対するような行動を取らなければ大丈夫ですけど。」
確かに銀が暴れる様はさながら特撮映画だしな。観戦するならすごく盛り上がるだろう。
「よし、俺も行くかな。」
銀がそうやっていくなら俺はスマートに行こう。
そう思いながら気配を消して銀とは別の方向に走った。