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「おっしゃいくか!流石に乗ったまま銀に戦えって言うのは酷だから適当に屋根の上にでも置いとけばいいだろ。」
「まぁ、振り落とされてぐちゃぐちゃになるよりはマシだな!」
「流石に初めてですわ、こんな大きな魔物に乗るのは…。」
銀が伏せの格好をして皆を乗せる準備をする。ティスカ公もクラウ夫人も軽々と銀の上に乗っかるので心配はいらなかった。
「いってらっしゃい、やりすぎないようにしてくださいね。」
「お父様、お母様。気をつけて…。」
シェリーが手をふりふりしながら見送る、一方レイは死地に向かう人を見送るかのように神妙な顔をしている。
「…やっぱやめとくか?」
「…流石に大丈夫ですわ。」
「流石に巻き込まないから。あぁ、あんまり動かないほうがいいとだけ言っておくわ。」
そして俺も銀の背中に飛び乗る。銀が立ち上がり、ティスカ公とクラウ夫人が少し身構える。
「主様が風圧とかはなんとかしてくれるので振り落とされないように毛でも掴んでてくださいね。」
「お、おう。」
「では私はこれにつかまりますわ。」
「いちゃつくのやめてくーださい。」
ティスカ公が銀の毛を掴み、そのティスカ公に掴まるクラウ夫人。
「では、行きますね。」
そう言って銀が足に力を込める。そして、いつもの速度で街の中心地点に向かって跳んだ。
「やばっ、これはテンションあがるな!!」
「流石にこれは速いですわね…。」
興奮してるティスカ公とそれにギュッとしがみつくクラウ夫人。
「まぁ、俺が魔法で風とか相殺してるから座ってられるけど、これなくしたら一瞬で吹っ飛ばされるからな。」
「イヤッホォーイ!!!!」
「聞いちゃいねぇな。」
「主様、ここの辺りでいいですか?」
「…まぁ、いいか。そこの屋根に着地してくれ。ゆっくりな。」
銀が建物を脚力で壊しながらジャンプして移動してるので後ろを見るとところどころ粉砕された建物がある。
ちょうど平坦になっている建物の上にストンと銀が着地する。今まで進んできた感じからしてちょうど真ん中辺りだろう。
「さて、ちょっくら呼び出しますか。」
「ねぇ、たまに銀貸してくれない?これやみつきになりそう。」
「…私はもうあまり乗りたくありませんわ。」
「すいません、いつもこのスピードですので…。」
テンションが正反対の二人である。
銀から降りてギターを取り出す。そのあいだに二人にも降りてもらう。
銀が犬のサイズに戻る。
「あれ?戻るのか?」
「流石にあのサイズじゃ街中だと戦いにくいので…。」
「んー。ここら一帯更地にしようとしたんだけど、銀がその姿なら必要ないか。」
銀が戦い易いようにと魔法で整地しようと思ったんだけど、ついでに俺もそのほうが戦い易いし。
「…さらっととんでもねぇこと言ったぞ、あいつ。」
「ちょっと今話しかけないでください。」
「あっ、はい。」
「んじゃ、そこのお二人さんはこの建物から降りたりしないでね。今から呼び出すから。」
「わかってるが、…さっきからその呼び出すってなんだ?」
「俺の本職は詩人だぜ?まぁ、見てな。」
ギターを構えて少しチューニング。魔力を込めつつギターを鳴らす。それを合図に銀が家の下に飛び降りる。
今回は世界一かっこいい下水道のテーマでいこう。
そう、魔物を寄せ付けない演奏が出来るならその逆。魔物を呼び寄せる演奏も可能である。
「なんかかっこいい曲だな。」
「せやろ?俺のお気に入りの一つだからな。」
「んで、その曲になんか意味あるのか?…あぁ、なるほどな。」
「そういうこと。」
だんだんと周りに魔物の気配が集まってきている。音が聞こえる範囲にいるやつはこっちに来てるな。
オーガファイターが家の影からこちらに寄ってくる。
「銀、やっていいぞ。」
「了解です。」
早速銀がそいつを狩る。本当に一瞬だ。銀が走り出しオーガファイターの首を爪で地面に切り落とす。
「…ギリギリだな、おい。」
「乗ってる時より全然速いですわね…。」
上から見ているティスカ公とクラウ夫人が銀の戦いを見て真剣な顔になる。
「あれでフェイントいれてくるからな、たまったもんじゃねぇよ。」
そういいながら飛んできたガーゴイルベビー三匹をまとめて風魔法でぐちゃぐちゃにして地面に落とす。
「…お前も大概だな、おい。」
「演奏して喋りながら魔法って…。」
「まぁ、これは慣れっていうか。シェリーも出来るしな。」
前にマウス二刀流でネトゲしてただけはある。二つ以上の事を別々で進行するのはネトゲ廃人の嗜みだ。
「まぁ、こんなもんでいいか。銀、わらわら集まってくるから存分に暴れていいからなー。」
演奏をやめてショートソードに持ち替える。
「あまり手応えがないですが、それはしょうがないですね。」
そう言いながらも並んできたオークの群れの頭をトントンと地面に落としていく。
「ダメだ、全然参考になんねぇ!」
「そりゃ銀のは参考にならんでしょ。」
「お前のも参考にならんわ!」
「今から下に降りて戦うから、それ見て参考にすればいいんじゃね?なるか知らんけどな。」
そう言いながら建物から飛び降りる。その速度を利用してゴブリンの頭をショートソードでかち割る。
実は、今回ある目的があった。中継があったので断念するしかなかったがないとなれば話は別だ。