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朝に目が覚める。
昨日結局シェリーはまだ何か言いたそうにしていたが、無視して普通に寝た。
なんたって今日は初迷宮だからな。別に俺の出番はないんだろうけど、銀ほどじゃないが俺もワクワクはしてる。
「おはようございます、主様。朝の準備運動しますか?」
銀はもう起きてて俺が起きる気配を感じたのか話しかけてきた。
シェリーも起きてこっちを無言で睨んでる。
「おはよう、銀。…それにシェリーもおはよう。」
「…おはようございますー。」
「まぁいい加減機嫌を直せって、そんな顔してると美人が台無しだぜ?」
「誰のせいだと思ってるんですか、誰の。」
「まぁ十中八九主様ですよね。」
「あれは俺の性分だからしょうがない、女がいたのはたまたまだし。」
「そのたまたまがいっぱいあるんだからタチが悪いんですよ。」
「希によくあるって言うしな。しょうがない。」
シェリーをなだめつつベッドから起き上がり軽く体操をする。
その後機嫌が若干よくなったシェリーを尻目に銀と一緒に窓から外に出る。外で一通りの準備運動。
よし、今日も調子がいい。ついでに塀の補強も忘れないうちにやっておこう。
塀の傍に行き見える塀の下側の土を石のように固くする。
それを銀と一緒に散歩しながら全ての箇所に施していく、途中昨日の門番にあったので今補強している最中だと言うことを伝える。ちょうど夜勤の交代かな。
魔法も体も調子がいいな、うん。
部屋に戻りシェリーも連れて朝食にいく。いつも通りの食事に満足しつつ、そういえばこれからどうするか聞いてなかったな。午前からいきなり迷宮いくんだろうか。
メイドにティスカ公…、いやレイのがいいか。レイを呼んで欲しいと頼んで食堂で暇を潰す。
「そういえば朝はどこにいったんです?窓から姿がみえなかったんですけど。」
「あぁ、昨日の侵入者がさ。塀の下の土掘り起こして、穴作り上げて侵入してたんだよね。それの対策してた。」
「へー、考えますね。」
「まぁ、技術はあるんだろうなぁ、いくら兵士が少ないっていっても城の中入り込んでたし。」
「マスターがいたのが運の尽きでしたね。」
「そもそも銀を狙ってたんだから俺がいなかったらこなかっただろうけどな。」
「主様、それ初耳なんですけど…。」
「あれ?言ってなかったか。その侵入者がさ…。」
「おまたせしましたわ。…なんのお話ですの?」
ちょうどいいタイミングなのかレイが扉を開けて中に入ってきた。ついでにレイにも報告しておくか。
「いいとこに来た。まぁ聞け。」
「何をですの?…朝食をお願いしますわ。」
レイが席に座りメイドに朝食の準備を頼む。
「昨日城に忍び込んでる奴がいたんだけどさ。塀の下に穴掘って。」
「えぇ!?…まぁリードがいるから問題はありませんわね。」
「まぁそうだったんだけどさ。その侵入経路は塞いでおいて対策もしたんだけど。その侵入者の目的が銀だったんだよ。」
銀の頭を撫でながらそう言う。お前も狙われる立場になったんやで。
「…あー、確かに銀ちゃんをその手に収めようって考えるのが沢山いそうですね。」
「ちなみにお父様も各方面から質問攻めでしたわ、どこでバトルウルフを手に入れた、と。まぁうまく躱しているみたいですが。」
「そういえばそう言う類の話を聞かないと思ってたらティスカ公が止めてたんか。…感謝したいとこだけど、手放したくないってのも大きそうだしなぁ。」
複雑である。まぁ一応感謝しておこう。
「我よりも主様の方が圧倒的に価値があると思いますが…。」
「そりゃ俺は一応隠してるからな。こんなガキに価値があるなんて思わないわな。」
「マスターをどうこうしようなんて無理な話ですけどね。…色仕掛けなら可能でしょうが、まぁ私が許しませんしね。」
「…何故か背筋がゾクゾクしますわ。」
不敵に笑うシェリーに身震いをするレイ。
「まぁ、話を戻すんだが。そいつらフイ盗賊団とか言ってたけど。レイ知ってるか?」
「…前に聞いたことありますわ。有名な義賊だと聞きましたが、首領が死刑にされてそのまま散り散りになったとかなんとか。」
うん、嘘は言ってなかったみたいだな。…殺されたとか聞いたけど死刑になったのか。まぁ同じことか。
「それそれ、その首領の娘が今回の侵入者でな。銀の力でフイ盗賊団をまた復活させたかったんだとさ。」
「なるほど、…随分詳しいですね、マスター。」
「言っただろ、そいつすっげー馬鹿なんだって。別に訊いてもないのに喋ってくれたんだぜ?」
「それは確かに…。」
納得してくれて何より。
「それでリードはどうしたんですの?そのまま帰ってきたんですの?」
「なんか勝手に仲間にされそうになったから帰ってきた。…あっ、そういえば居場所覚えてねぇな。暗かったし、話聞きながらだったから道覚えてねぇや。…まぁ気にする程じゃないだろ。」
「…一応お父様に報告はしますわよ?」
「そりゃそうだな。門番にも言ってあるから伝わってると思うけどな。」
まぁ城に侵入されたってのは結構なことだしな。そこはちゃんとしとかないと。
「まっ、そんなことがありましたよっと。…そんなことよりも今日のことだ。いつから迷宮に行くんだ?」
「マスターにとっては取るに足らないことですね。」
「朝から行きますわよ?そろそろお父様達も朝食にくると思いますが…。」
「なら来てから話せばよかったな。二度手間やん。」
そんなことをわいわいと話していると。
「おー、リード。昨日は世話をかけたみたいだな。これを機にレイと結婚しない?」
「おっさん、そろそろ怒るぞ。」
「また、お父様ったら…。」
「マスター、魔法の許可を。」
ほら、シェリーが魔力貯めてる。扉を開けてティスカ公とクラウ夫人が入ってきた。メイドが瞬時に朝食の準備をしに部屋を出て行く。出来る。
「まぁ、話聞いてんならいいや。そういうことだから。」
「シェリーさんを止めて!」
「大丈夫大丈夫、流石に死にはしないから。」
「見慣れた光景ですわね、それでその侵入者はどんな奴でしたの?」
クラウ夫人が落ち着いた様子で眺めながら席に座る。確かにいつもの光景だ。