マキツキ街道
ロユラスはフローイ国各地の鉱山を訪れて、奴隷たちに母の故郷の情報を求めるつもりで、ここへやって来た。しかし、そのとたん、ルージとフローイが戦火を交えたという噂に出くわした。戦争が始まったとなれば、たとえルージ出身者だと言うことを隠していても、鉱山の管理者たちは他国の者に警戒するだろう。
代わって、ロユラスが目を付けたのが、各地の鉱山から逃れて山賊化している元奴隷たちだった。ただ、何処にいるのか分からない彼らと会うのは難しい。
「さっさと姿を現せば、銀細工などくれいてやるものを」
ロユラスは苛立たしげにそう呟いた。旧都ランロイはフローイ国の物資と富の集積地である。食料や織物や銀細工など数え切れないほどの多様な物資が、荷車に牽かれたり、行商人たちに担がれて、ランロイに集められ、再びフローイ各地へと分配されていく。それを狙った山賊共も、街道に数多く出没するはずだった。
出会いたいと思っても山賊共につてがあるわけではなく、ロユラスは裕福な銀細工商人の一人旅を装って、ランロイと北の港町セイタルを結ぶ街道を行き来して襲われるのを待っていたのである。
ロユラスは早く奪いに来いとでも言うように、手にした髪飾りをちらちらと振って見せた。リーミルを抱き上げて王の館に送る時に、密かに彼女の髪から抜き取ったのである。怪我をした王女を王宮に届けた当然の報酬だと考えていた。フローイ王家の紋章がついた髪飾りである。何かの役に立つかも知れない。
山岳地帯を南北に真っ直ぐ抜けるマキツキ街道の道幅は広いが、急な斜面で東西の視界が利かず、単調な景色が続く。景色の変化といえば街道の途中に建設された関所があることか。今、街道を行くロユラスの目の前に、街道の最も北の関所が見えてきた。街道の名を冠してマキツキの砦と言われている。あの関所を抜ければ港町セイタルである。
以前、この国に来た時、山岳地帯にいる逃亡奴隷どもを集めて、このフローイ国を攻めても面白いと考えたことがある。もちろん現実的な計画に基づいたものではなく、ロユラスの妄想である。
(なるほど)
ロユラスは観察眼があり、素直に状況を受け入れる素直さがあった。関所には百名ほどの兵が駐屯しており、冷静に見れば不審人物の取り締まりだけが目的ではないだろう。フローイ国の北からの侵入者を、この砦と言っても良いほどの頑丈な関所で防ぐのである。
「数千の兵を持ってしても、フローイとは攻めがたい国のようだ」
ロユラスはそう呟いた。関所の兵は百ばかりで、敵が数千の兵を街道沿いに南下させれば容易に関所を打ち破って、フローイの都カイーキになだれ込む事が出来るようにも見える。しかし、百ばかりの兵たちでこの関所を一日は守ることが出来るだろう。その間に、後方のボングスの関所、その東西の関所などから兵が駆けつけて、数日でこの関所に千を超えるフローイ兵が集まる。敵は砦を攻めるという出血を強いられ苦戦する。仮にこのマキツキの関所が落ちても、その後方に次の関所があり、後方に退いて敵に出血を強いる戦いをすればいい。一見すれば、関所の兵は僅かだが、街道沿いの各所に互いに増援に赴ける関所を設置することで、フローイ国は少数の兵を効果的に配置して堅く国を守っていたのである。
ロユラスはランロイからここまで、四つの関所を、背に背負った銀細工のアクセサリーと、商業の神の神殿が発行する商人の身分証明書を見せるだけで怪しまれることなく通り抜けた。東部のシュレーブ国内で始まった戦の雰囲気もこのあたりには届いていない。この関所もまだ穏やかな雰囲気に満ちていた。




