ルージにて6
「フローイ国のリーミル姫と、シュレーブ国のエリュティア姫。お二人のご様子はどうであった?」
リネの一番の関心事は、アトラスが嫁に迎えるという姫のことだった。アトラスが苦笑いをしたのは、その話題のことなのか、アトラスがシリャードで政略結婚の為に出会わされた姫の名を、既にこの館の女たちが知っていることなのか、どちらか自分でも分からなかった。この館で権力を振るうリネの歓心を買うために、リダル王やアトラスの身辺のことを事細かくリネに注進に及ぶ人々が居る。アトラスの身の回りの出来事は母に筒抜けだった。彼は母親の監視下で生きているようなものだった。アトラスは話題を避けるように、ありきたりな言葉で返事をした。
「どちらも、見目麗しい方々でした」
「それで、兄様としては、どちらを選ぶおつもりなの? リーミル様、それとも、エリュティア様?」
そんな言葉で口を挟んだのは、アトラスの妹ピレナである。ピレナはあっけらかんとした笑顔で言葉を継いだ。
「私の希望としてはエリュティア義姉様と言うところかしら。嫁いでこられれば私がいろいろな事を教えて差し上げられて仲良く出来そう。リーミル様は私と性格が合うか反駁するか2つに1つ。危険な賭ねになるわね」
ピレナはまだ出会ったこともない二人の女性の性格まで聞き知っていた。アトラスは身辺の情報が筒抜けになっている自分を笑うかのように、苦笑いで妹に言葉を返した。
「何、心配はいらぬ。私の結婚前に、お前など、ゲルト国の片田舎の貴族にでも嫁がせてやる」
「ひどいわ、厄介払いをするつもりなの」
普段は陽気なピレナがやや表情を曇らせた。アトラスは妹の表情にその心の底を探るように尋ねてみた。
「お前は、すでにこのルージに誰か思いを寄せる男でも?」
そんな兄の言葉にピレナはとまどうように口ごもったため、アトラスは話題を変えた。
「今の私にあるのは、目の前の戦のことのみ」
「おおっ、アトラス。よう言うた」
母のリネはそんな言葉で息子を褒めた。勇ましい言葉は何よりリダル王を喜ばせるだろう。アトラスは母に褒められたことを喜ぶふりしながら、内心は冷静に母親の姿を眺めていた。アトラスが父の歓心を買うほど、父の視線はその母のリネにも向く。リネは異境の女に奪われた夫の愛を奪い返すこともできるかも知れない。アトラスは母のため、父の歓心を買うべく努力して生きてきた。アトラスが自分の本当の姿をかいま見せるのは、愛馬アレスケイアとの遠乗りの時に、愛馬と交わす言葉の中だけである。何より妻を娶ると言っても、その相手を決めるのは父リダルかその判断に口出しする母リネ。アトラスは両親の嫁選びに従うしかないと諦めの微笑を浮かべていただけである。
王が蛮族を駆逐する兵を挙げるという通達はルージ島全域の領主たちに届いている頃で、まもなく各地の領主は兵を率いてこの王都に参集する。
次は、舞台はシュレーブから美しい姫フェミナを迎えて、次の王グライスの結婚でにぎわうフローイ国に移ります。




