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三つの砦

 明くる日も日が沈む頃、シュレーブ軍と共にネルギエの地にいるフローイ軍の本陣に、王ボルススが不満と不機嫌な様子を隠そうともせず戻ってきた。ボルススの孫でフローイ国王位継承者のグライスにはその祖父の不機嫌さが理解できる。シュレーブ国王ジソーは、フローイ軍に兵糧を提供すると約束したはずだが、その約束がまだ果たされていないのである。グライスは、王ジソーの意図も理解している。シュレーブ国はフローイ国の力を少しでも削いでおきたいのである。

 しかし、王ボルススの不機嫌な理由はそれだけではなかった。

「ジソーの阿呆めが。あんな砦など、作っても無駄だと教えてやったのに」

 王ボルススの腹立たしさの理由は、シュレーブ国王ジソーが、ボルススの提案を受け入れなかったと言うことである。そんな祖父の不満をグライスは理解しかねた。陣の北にシュレーブ軍が三つの砦を築いていることは知ってはいたが、フローイ軍はそこへ兵を裂いているわけではない。ただ、夜半、グライスが眠りについた頃、衛兵に叩き起こされた。北に異変があり、王が呼んでいると。


 王ボルススは陣の北の端で呟くように言った。

「始まりおったぞ」

 まだ夜明けには時間があるこの闇に、北の空の地平が明るく輝いていた。ボルススはいよいよルージ軍が本格的に戦端を開いたことを知ったのである。

「シュレーブ軍は大丈夫でしょうか」

「大丈夫なら、砦を明け渡し兵をまとめて引き上げてくる。大丈夫でなければ、使いをよこす間もあるまい。ジソーは砦に翻るルージの旗で味方の全滅を知ることになる」

「では、砦は奴らに奪われると?」

「目の前にあのような餌をぶら下げられて、食いつかぬ犬がいるものか。ましてや奴らは歴戦の勇将ぞろいぞ」

「数百ものシュレーブ兵がいる砦が、ただの餌ですか」

「シュレーブ軍が築いた三つの砦は単独で守るには兵が不足。攻められて加勢を求めるには砦が離れすぎて居る」

 グライスは気になる者の名を挙げた。

「アトラスは、牙狼王の息子はいるのでしょうか」

「おそらくな。気になるか」

「たとえ、一時とはいえ、姉上が嫁ぐかもしれないと決まった相手故に」

(そうではあるまい)

 ボルススはそう思ったが口にせず、孫の顔を眺めた。初戦でルージ国王リダルを討ち取って以来、孫の様子がおかしい。副官のロットラスの手助けで得た功績に後ろめたさがあるのだろうと考えていた。グライスの立場で言えば少し違う。牙狼王とも言われるリダルを討った勇者として栄誉を受けているが、自分は殺されるはずの立場だった。リダルを殺害したのは、槍を投げたロットラスであるかも知れず、仮にロットラスの槍が致命傷でなかったとしても、正々堂々の勝負から逃げて、傷ついたリダルを討ったのではないかと自分を責めているのである。王ボルススにも孫の心は読み切れてはおらず、この後の戦の孫の行動を予測できなかった。


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