六神司院(ロゲルスリン)の使者2
正使を王宮に迎えたのは正午のことである。ただ、旅で汚れた衣装を改めると称して、正使に与えられた部屋に籠もった後、様々に思惑が乱れる人々の前に姿を表したのは、陽が中天から傾く頃だった。一介の正使だが、王を待たせることを意に介しない横暴な意識がにじみ出していた。
王の間に姿を見せた正使を王レイトスは玉座から降りて使者を迎えた。使者とはいえ、聖都の神帝からの使いは、王の身分を上回る地位を約束されているのである。
王レイトスと同じ血筋を持つとはいえ、他国のアトラスは席を外し、隣接する部屋にいた。王レイトスと使者のやりとりは、盗み聞きをせずともこの部屋にも漏れ聞こえてくる。レイトスはそう言う配慮をしてアトラスとサレノスにこの部屋を与えたのである。
正使は他者を見下し威張ることに慣れた人物である。ただ、六神司院という背後に控える権力者を背景にせねばならず、自身にはその実力がないことを自覚していて、どこかおどおどする小心者の本質がにじみ出していた。正使はそれが神帝の使いだと言うことを示す紫色の包みを解いて、中のスクナ板と呼ばれる薄い板に記した文言を掲げて見せた。
「ヴェスター国王レイトスよ。神々に列席し、この世で侵すべからざる神帝の使者として申し渡す。とくと聞きめされい」
「聞かせていただこう」
「去るマーゴの月。神帝が暗殺された」
「暗殺ですと? 神帝は重病とお聞きして心を痛めておったところ。六神司院は神帝の病回復の為と称して聖都を封鎖していたはずだが」
「それは誤りである。我ら六神司院は、神帝の喪に伏すと同時に、神帝暗殺の陰謀を暴くのがその理由である。」
「聖都の我が館の者どもはいかがか? まるで連絡がつかぬ」
「貴国の館に、神帝暗殺の詮議に赴いたところ、歯向かいおったので、我が僧兵団が鎮圧した」
各国の王が聖都に集い、議会が開かれる間、国王たちが寝泊まりする私邸がある。神帝を護衛する数百の僧兵を除けば、各国が聖都に兵を進駐させる事はできない決まりで、会議が行われていない期間は、各国の王の私邸には僅かな留守居役が居るのみである。
「僧兵が鎮圧とは?」
「古よりの習わしで、反逆者どもは死罪と決まっておる」
使者が言うのは、僧兵たちがヴェスター国王の私邸で数十名の留守居役を殺害したと言うことである。
「我が国が、暗殺の陰謀に荷担したと?」
そんなレイトスの疑問に答えもせず、正使は言葉を続けた。
「神帝の崩御後の喪が明けた。六神司院も、次の神帝を立てねばならぬ。しかし、その前に欠かせぬのは、このたびの暗殺の詮議である」
「我が国に参って、詮議とはいかなる事か。我が国が謀反を起こしたとでも?」
「おうっ、その通り。事実、貴国は謀反人のルージ国に荷担しておるではないか。その点に付き、シリャードに出向いて、各国の王の前で申し開きをされよ」
この使者の物言いは、いかに六神司院の使者とはいえ、一国の王に対して不遜過ぎた。王レイトスが怒りを見せて反駁しようとした時、隣室にいたアトラスが姿を見せた。




