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レニグにて:アトラスの孤独

「妙な人物でありましたな」

 サレノスが発した呟きに、アトラスの返事はなかった。つかの間だったが、彼の心の隙間を埋めていた者が居なくなり、再び、彼の心は荒れ狂う混乱に突入しつつあった。ただ、この青年の悲劇の一つは、こういう時でさえ、どういう表情を浮かべるべきか分からないということかもしれない。心の混乱とは裏腹に、アトラスのやや眉を顰めただけの表情には感情が感じ取れなかった。

(やっかいなことだ)

 サレノスは心の中で眉をひそめる思いだった。アトランティスの大地は、これから戦で大いに荒れるだろう。そのときにルージ国を率いるのは、アトランティスどころかルージ一国の行く末すらおぼつかぬこの青年アトラスである。この時、サレノスがロユラスのことを考えないわけでは無かったが、その意図は心に秘めて表には出さなかった。

「では、私は一足先に陣に戻り、兵どもに陣替えの準備をさせておきましょう。我らが王子は、ルージご帰還に備えてお休みなされませ」

 サレノスはそう言い残して夜の闇に姿を消した。イドポワ街道から戻ってきた残兵と、レニグ郊外に陣を張る第二陣を、まとめて東へ向ける準備をせねばならないというのである。ただし、それは名目上のこと。敗戦やリダル王戦死の報は、兵士たちにも伝わって広がっているだろう。その士気の低下をできるだけ防ぐ手だてを講じねばならない。アトラスはサレノスの言葉の隠れたそんな意図を察する知恵は持っていた。ただ、どうすれば兵士たちの士気低下を防ぐことができるのか。そんな経験は持ってはいない。アトラスは月に照らされる庭園に一人取り残されていた。普段ならアトラスを支えるべきオウガヌら近習たちは、何かと理由をつけて郊外の陣に引き払ってしまっている。


 敗戦の報や父の死、そして突然に背負うことになった大きな責任で混乱するアトラスの心を、議場での緊迫感とその後のデルタスとの思いもかけない月下の会見が、アトラスの外見の平常をもたらしていた。しかし、たった一人になってみると、アトラス自身が律してきた己の心の枠組みが、一つづつ外れて心に隙間が生じ、その隙間で荒れ狂う様々な怒りや不安が収まらない。

 明日は帰国の途につかねばならないと己の義務を考えて、寝床に横になってみたが、悶々として寝返りを打つのみで、目は冴えるのみだった。妙な話だが、父を失った衝撃は悲しみより、喪失感と不安のみ大きかった。

 アトラスは眠るという無駄な努力を諦めたように起き出して、外出のための身支度を調えた。この青年は衝動的と言っていいほど決断が早い。ただ、人々が彼を眺めて、何処へ向かおうとするのかを判断するのは難しい。


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