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レニグにて:王リダル戦死の報

 会話の主役は王レイトスからアトラスに移ったが、レイトスはそれを静止せず黙って二人の王子の会話を聞いた。興奮したアトラスが叫んだ。

「デルタスよ。どうしてそなたがこのような物を持参した?」

 アトラスの質問に、デルタスは趣旨をややそらして答えた。

「シュレーブ国のジソー王は、リダル王の亡骸なきがら聖都シリャードの門に晒し、反逆者の末路を喧伝すると」

「デルタス! そなたは我らルージを侮辱するために来たのか」

「いいえ」

 デルタスはきっぱりとそう言い、アトラスが一息つくのを待って言葉を継いだ。

「あなた方のために来たのです」

「我らのため?」

「シュレーブ・フローイ軍が凱旋するまでにもう一戦し、王の遺体を取り戻すのがよろしいかと」

「もう一戦? 望むところだ」

 アトラスの言葉の後、サレノスが口を挟んだ。

「しかし、イドポワの門の外では敵が待ち受けておりましょう」

 サレノスの言葉に、デルタスはフローイ国王ボルススに教えられた誘いの言葉の一つを口にした。

「彼らも精強なルージ軍と戦い、大きな被害を出しております。シュレーブ軍など、先鋒のアガルスス殿に名のある将が三名も討ち取られました。彼らも勝利どころか敗残の身の上同様」

「それで?」

「門の外には守備兵を残し、残りはネルギエに移動しました」

「ネルギエだと」

「シュレーブ国の都パトローサからルーソム街道を北へ、我がレネン国との国境の地です。都からの増援が容易。彼らはそこで増援を待つとのこと。兵が整えばレネン国を通り、ヴェスター国を西から攻めることになりましょう」

 隣国の王子の言葉に王レイトスが不愉快そうに言った。

「貴国は、我らを攻めるための為の他国の軍の通過を許すと言われるのか」

「既に、我が王はシュレーブ国の申し入れを受け入れて、通行の許可を出しました。小国故、シュレーブ国やフローイ国の申し入れには逆らえませぬ」

「では、我が国はシュレーブ軍とフローイ軍を待って居れば良いということか」

 王レイトスが放った問いかけに、アトラスが反駁した。

「それでは、我れらが王、我が父の遺体を取り戻せませぬ」

 デルタスはアトラスに同意した。

「たしかに、シュレーブ軍がここまで進軍するときには、リダル王の遺体は邪魔になります。聖都シリャードに送られて辱められることは必定」

「では、どのようにせよと」

「我が国は、シュレーブの申し入れを受け入れて、街道沿いの関所は開放し、兵士たちもおりませぬ。通る事ができるのはヴェスター・ルージ軍も同じ」

「我らが先に貴国を通ってシュレーブに出よと?」

「偉大な王の遺体を取り戻すために、貴国が勝手に押し通るだけ。我が国のあずかり知らぬ事です」

 デルタスは悪巧みが表情に漏れ出したかのように含み笑いをして言葉を続けた。

「今なら、痛手を負ったフローイ軍は国も遠く増援は望めますまい。多くの将軍と兵を失ったシュレーブ軍は南ではグラト国とも戦い、素早い増援も難しいかと。一方、ルージ軍は精鋭が残っており、ヴェスター軍は未だ無傷。有利に戦うことができましょう」

 アトラスは王レイトス顔を見合わせて頷いた。確かにその機会はあると。しかし、王レイトスは疑問も口にした。

「しかし、どうして我らに荷担される?」

「いいえ、どちらにも荷担しない。それが我がレネン国が生き残る道かと。そして我らのような小国が大国の狭間で生き延び続けるためには、両者に恩を売っておく必要がありましょう」

「なるほど。皆の者、使者殿の言葉、聞いたとおりだ」

 王レイトスは頷いて、使者に向き合い、その手を取って言った。

「デルタス殿。貴国の申し入れ、このレイトス、心にしみた。ありがたく考えさせていただこう。今日は間もなく日が暮れる。明日までこの宮殿でごゆるりと休まれよ」

「ほっといたしました。これで私も任務を無事に全うできたというもの。リダル王への弔問の使者は改めて参りましょう」

 デルタスは、レイトスが一夜の宿を提供するという言葉でこの会議の場から自分を追い払う意図に気づいていた。王レイトスは自分の言葉を鵜呑みにはしていまい。デルタスが姿を消した後、デルタスの情報の真偽を巡って議論するつもりなのだろう。ただ、デルタスはヴェスター国とルージ国が自分の提案を受け入れざるを得ないだろうと考えている。

 そんなデルタスは少し立ち止まり、振り返って広間に集う人々の顔を眺めた。

(あの中に、我が思いを託す者は……)

 レネン国が戦火に巻き込まれるのを避けた今、気にかかるのは自分自身の安全のことである。デルタスの視線は、一瞬、アトラスの上に止まり、そして、何事もなかったように再び歩き始めた。


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