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レニグにて:不吉な予兆

 明くる日、アトラスが目覚めたのは夜明け前である。寝ぼけ眼の近習どもを叩き起こし、王都レニグ郊外に張った陣に戻ると宣言した。初陣の武功に逸っていたのはアトラスだけではなかった。近習のオウガヌ、テウススも自らの勇壮な姿を思い浮かべるように喜び勇んで寝床から起き出した。ただ、近習の中でもっとも年若いが思慮深いスタラススが、寝ぼけ眼と無邪気な笑顔、それに相反する大人びた口調で言った。

「皆さん、逸りめさるな。この時間にレイトス王を叩き起こすおつもりか?」

 スタラススにそう言われればその通りで、この王宮を離れようとするなら、甥と叔父の関係にしても、昨夜の歓待の礼をレイトス王にしなければ失礼に当たるだろう。夜も明けぬうちにその王を叩き起こすことはできない。スタラススは言葉を継いだ。

「それに、陣のこと。サレノス様にお任せあれ」

 サレノスは一人昨夜のうちに陣に戻っていた。今頃は出陣の準備をしているだろう。王都レニグを発ち、イドポワ渓谷の手前で、運搬する物資を兵士に分散して背負わせる。兵糧が先、最後に、戦いで傷ついた兵士のための医療品や武具の補修のための物資。様々な物資を効率よく輸送するための手順を指示するのである。

 そのサレノスが、アトラスたちに王宮に留まるようにと言い残していた。当然のこと。協力して兵を挙げるヴェスター国と出陣の打ち合わせをせねばならない。

「私は今しばらく眠りまする。事は、夜が明け、サレノス殿が戻って……」

 スタラススは最後まで言い終わる前に心地よい寝息を立てていた。その無邪気な寝顔を見れば幼子の可愛らしさがある。

 

 夜が明け、準備された朝食を取り終わった頃、サレノスが王宮のアトラスの元に戻ってきた。いつもと変わらぬ表情で、アトラスたちは彼が準備を滞りなく整えたことを知った。宮殿の王の間には既にヴェスター国の重臣や兵を率いて集まった領主たちが、その顔ぶれをそろえていた。蛮族に乗っ取られた聖都シリャードを奪還するという崇高な目的があり、集う人々の目から戦いに参加する喜びが溢れているようだった。

 そんな志気の高まりの中、王の間に急ぎ足で入って来た二人の武人の姿があった。

「メノトルにロイテルではないか。いかがした?」

 王レイトスの怪訝な表情ももっともなことで、この二人はそれぞれが1000人近いヴェスター軍兵士を引き連れて、ルージ軍の第一陣に加わっていた指揮官である。今頃はイドポワの門を抜けて進軍しているはずの者たちだった。


「出陣したヴェスター、ルージ軍がこの王都レニグへ帰還して参ります」

「馬鹿を申せ」

「シュレーブがイドポワの門で待ち伏せ。ルージ軍の先鋒が奇襲をうけたとのことでございました」

「どうして、シュレーブ軍が我らを襲うのだ」

「分かりませぬ」

「リダル王はいかがした?」

「何も聞いてはおりませぬ」

「分からぬ事ばかりではないか」

 王レイトスの言葉にメノトルにロイテルは頭を垂れるばかりだが、これもやむを得ない。隊列を整えて細いイドポワか移動に突入しようとしたら突然に前を行くルージ軍部隊が後退してきた。その後退してきたルージ軍部隊も王リダルから後退しろと命令を受けたのみで前線の状況は分からないのである。

「間もなく、ルージ軍将士たちも戻って参りましょう」

 メノトルとロイテルはそう返事をするしかなかった。


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