レニグにて:王レイトス
都に到着したルージ軍をヴェスター国王レイトスは酒と肉を振る舞って歓待した。兵士どもの喚声を聞きつつ、アトラスと近習はサレノスに導かれるようにレイトスの王宮へと歩を進めた。後世の歴史に登場するどの王宮と比べても小さいかもしれない。ただ、間違いなく王が住み、王の権威を誇示するための建築物である。ルージ国でアトラスが住まう王の館に比べると目を見張りたくなる煌びやかさだった。
この王宮の中、王の謁見の間でレイトスはアトラスを待っていた。政略結婚を禁じたアトランティス議会の定めで、血縁関係を強調しがたい間柄だが、レイトスにとってアトラスは紛れもなく甥である。妹リネがルージ国王のリダル王子と偶然に出会い恋に落ちたという自由恋愛という体裁を取って、レイトスが妹をルージに輿入れをさせて二十年あまりになる。その間、リネは夫の愛を蛮族の女に奪われた不遇を、ヴェスターの兄に繰り返し使者を使わして訴えていた。もちろん、ただの愚痴に近いが、繰り返し聞かされれば、妹を嫁がせた兄としてその身が心配にもなるのである。夫婦関係のことをリダル王には聞き難いが、この甥ならば素直に実情を話して聞かせてくれるだろう。
「相変わらず元気な様子じゃのぉ」
「レイトス様もご健勝にて何よりです」
「そなたの母は元気にしておるか?」
「母も妹も病一つせず、ナナエラネのご加護かと」
アトラスは人の健康や病を司る女神ナナエラネの名を挙げて答えたが、レイトスが聞きたいのは妹リネと義弟リダルの夫婦関係のことである。レイトスは質問を変えた。
「家族は、皆、仲ようしておるか」
「ええっ、館に笑い声が絶えぬほど」
きわめて模範的な回答をする甥のアトラスだが、質問の本意に気づいて、寂しげに眉を顰めるのをレイトスは見逃さなかった。寂しげな表情。それで全ての実情がうかがい知れる。レイトスは話題を転じた。
「して、出陣はいつにする」
レイトスから国王と他国の王子という堅苦しさが消え、叔父が甥に語りかける親しみを感じさせる。
「できるだけ早く。できれば明日にでも」
「儂も同道する」
ヴェスター国王レイトスが、第一陣では麾下の将をリダルにつけて出陣させて都に残ったのは、義弟のリダルに思う存分戦をさせるためと、愛する妹の息子アトラスの後見人として、自らの軍を率いて同道する目的もあった。
「おおっ」
レイトスの言葉にアトラスの近習たちは顔を見合わせて喜びの声を上げた。傍らにいるサレノスを気遣ってそのあとの言葉を口にした者はなかった。しかし、この人物がアトラスの後見者として控えていれば、サレノスの影響力も失われるだろうと考えたのである。




