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ルージ軍第二陣:都レニグ到着

 第二陣の隊列は、第一陣の補充として戦闘に加わる兵士八百名が先頭を行軍し、食料や戦闘で消耗する矢など補給物資を積む荷駄隊、最後尾に荷駄を護衛するための兵士たちが百人ばかり続く。オウガヌ、テウスス、スタラススの三人の近習は、隊列を見回ると称して補充部隊の後方に居た。

「スタラススよ。見栄を張らぬで、甲冑は脱いで荷車に積め」

 そう笑ったのはオウガヌである。ヴェスターのセイチャスの港に上陸後、スタラススはその決意を秘めるように重い甲冑姿で行軍しているのである。年齢は僅か十四、この時代でも大人になりきれない子どもと言っていい。スタラススは子供じみた純粋さで、敬愛する王の指導を語った。

「我らが王が言われた。将たる者、兵と労苦を共にせよと。兵が甲冑で行軍するのに、どうして私が楽ができよう」

「しかし、将たる者が戦の前にそのように疲れ切っていては、兵を指揮できまい」

「なんと、私を若輩者と侮るか。私もカリルの月には十五歳。この戦から帰還する頃には立派な大人じゃ」

 カリルの月。夏の真っ盛りである。スタラススはアトランティスの暦であと二ヶ月もすれば、この戦で初陣の手柄を立てて帰れるだろうと言うのである。オウガヌが股間を指してスタラススをからかうように言った。

「お前のここは、まだ、つるつるではないか」

 陰毛の生えていないスタラススなど、子どもに間違い無いというのである。そういう指摘をされるとスタラススは反論の余地はなく、眉を顰めて不満げに頬を膨らませた。


 近習たちの会話に兵たちの明るい笑い声が混じる中、アトラスが姿を見せた。アトラスは愛馬アレスケイアを降り、轡を従者に取らせて、オオガヌら近習と共に歩いた。

「我らが王子も、あのジジイと気が合わぬと見える」

 テウススがアトラスをからかうようにそう言った。あのジジイ。もちろんサレノスのことを指している。近習たちも、若いながら王都で生活して、アトラスの母リネと蛮族の女プチネの確執は知っている。そして、あの老人が、ルージ国を密かに二つに分かつリネ派とプチネ派の一方、蛮族タレヴォーの女プチネとその息子ロユラスを擁しようとする派閥の長であろうとも推測していた。

 幸か不幸か、先ほどからかわれた興奮が収まらぬスタラススが話題を転じた。

「それにしても、今頃、ラヌガンは初陣を果たしているのであろうか」

 ラヌガンは出陣の直前まで近習仲間だった男である。今はその任を解かれて父と共に第一陣にいる。

「急いても詮なきこと。われらも間もなく初陣を迎えよう」

 テウススはそんなことをスタラススを通してアトラスに聞こえるよう語りかけた。初陣やその手柄に急くというなら、アトラス王子が最も焦りを感じているはずだった。近習としてその王子の心をかき乱すことは避けたかったのである。子どもながら利口なスタラススも、自分の失言に気づいて俯いた。アトラスはそんな近習の配慮に気づかぬふりをしながら更に話題を転じた。

「気がかりなのは聖都シリャードに残ったザイラスのこと。戦が始まればどうなることか」

「ほんに、戦いが始まれば無防備なまま、蛮族タレヴォーの攻撃に晒されましょう」

「戦いが始まる前に、聖都シリャードを抜け出す算段とか」

「うまく抜け出せればよいが」

「レニグにつけば、なにやら知らせもありましょう」

「そうだな」

王子と近習がそんな会話をしていると馬蹄の音が響き、サレノスが姿を見せた。

「我が王子よ。隊列の先頭に立たれませ。レニグではヴェスター王が出迎えに出て居られましょう」

 港を出立して二日の行軍でルージ軍第二陣は、ルーオの峠にさしかかったのである。その高みから前方にヴェスター国の都レニグが見えていた。

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