ルージ軍第二陣:ヴェスター上陸
物語は一日さかのぼる。イドポワの門の戦いが始まろうとする頃、これから始まる戦に逸るアトラスは第二陣を率いてヴェスターの都レニグを目前に行軍していた。もちろん、間もなく始まるイドポワの門の戦いが、悲劇的な結果に終わったことをアトラスは知らない。
その、アトラスの表情は険しい。第二陣というのも形ばかり、補給物資とその輸送や警備に当たる補助兵力が中心である。ヴェスターに上陸したアトラスは、その港町で第一陣の出発の話を聞いてやや安堵した。父リダル王はレニグで兵を休め、発ったのは三日前だったという。急げば、聖都に到着するまでに追いつけるだろう。
アトラスに付き従うサレノスから見れば、王が意図するところは良く分かる。第一陣が携行している食料は二週間ばかりの分量に過ぎず、第二陣が運ぶ補給物資なしには長期間の戦いはできないのである。ただ、サレノスは別の言い方で、アトラスにそれを伝えた。
「お父上は、アトラス殿の到着を待っておいでだったのでしょう。アトラス殿を頼りにしておられるのです」
サレノスの言葉にアトラスは即座に反論した。
「もし、我が王が私を頼りにしているというなら、なぜ私を第一陣に加えぬのだ」
「それは、蛮族どものことをお考え下さい。奴らが戦に逸って聖都を討って出れば直ぐに片がつきましょう。しかし、ずる賢い奴らのこと、聖都に立てこもり、援軍を呼ぶでしょう。そうすれば戦は長引きます。我らが運ぶ兵糧が、第一陣の戦を支えることになるのです。これこそ戦に勝る重要な任務」
「そんなことは臆病者に任せておけばよい。私は戦いたいのだ」
出陣以来、アトラスはこのサレノスを警戒して本心を語ることが無く、老練なサレノスもアトラスの心を読み取れずにいた。
「隊列を見回る」
アトラスは短くそう言って、愛馬アレスケイアの手綱を曳いて馬首を後方に向けて駆けだした。戦いたい。それが何のためかといえば、母のためである。自分が父の歓心を買い、自分を通じて、あの蛮族の女から、父の母に対する愛情を取り戻すのである。
サレノスはため息をつくような思いでアトラスの背を振り返っていた。国の将来をあの若者に託して良いのかという疑問を打ち消したのかも知れない。




