戦いの後、二人の王
イドポワの門を挟んで同時に戦いを繰り広げた二人の王が、再び面会しようとしたのは陽が暮れかける頃である。王ボルススは孫のグライスを伴って、シュレーブ国王ジソーの陣へと歩んでいた。二人の後方に荷車が続いた。その上にのせられているのは毛布にくるまれたリダル王の死体である。
イドポワの門をくぐったルージ兵は五百ばかりだったはずだが、その兵がよほどの激戦をしたらしい。グライスが眺めるところ、そのルージ兵たちの死体が無造作さに地に転がっているばかりではない。四千を超える大部隊だったはずのシュレーブ軍は、明らかにその数を減らしていた。戦死したシュレーブ軍兵士の数は四百に足らないが、もはや戦えないほど負傷した兵はその倍に及ぶ。
「戦機を誤ればこういう事になる」
王ボルススが孫に言ったのは、シュレーブ軍の被害の大きさに違いなかった。
「しかし、これがルージ軍三千との戦いであったら」
グライスが問うのは、最初のボルススの想定である。イドポワの門をくぐったルージ軍全軍とシュレーブ軍の戦いという想定だった。五百ばかりのルージ軍との戦いでこれほどの犠牲を出したのなら、三千のルージ軍と戦えば、シュレーブ軍が敗れたのではないかというのである。それは、イドポワの門の内側の斜面に布陣したフローイ軍が孤立してしまうのでは無いかという危惧を言外に込めていた。
「その時は、その時のこと。ジソーの奴は兵を退けばいいのだ」
「それでは、我らフローイがあの陣で孤立しました」
グライスの疑問に、王ボルススは話題を転じるように言った。
「意外かな? 山の上に川があったろう」
ボルススが言ったとおり、高所からわき出る水が細い流れとなって集まり、南へと流れて、イドポワの門の東3ゲリア(約2400メートル)ばかりの位置にある崖から流れ落ちて滝を作っていた。斜面に陣を敷くフローイ軍は山を登って、その流れから水を得ていたのである。
「それが?」
「水があり、兵糧がある。我らはあの場所で今しばらく過ごせばよい。しかし、門を抜けたルージ軍はそうはいかぬ。」
「兵糧が尽きるというのですか」
その言葉で、王ボルススは孫の洞察力に満足したが、その意見をやや修正をした。
「第一陣の食料など数週間もてば良いだろう。しかし、リダルのこと、兵糧が尽きるまで、我らフローイが堅く守ったイドポワの門を通って戻ろうとはすまい」
「では、どうしたと?」
「知れたこと。シュレーブの領地で砦や町を襲って食料を得ようとするだろう」
ボルススは面白そうに続けた。
「考えても見よ。リダルめにあちこちの砦や町を襲われれば、逃げたジソーめも大あわてで防戦するだろう。どのみち、我らフローイを置いて、シュレーブとルージは戦わねばならぬ」
シュレーブ国から見ればひどい悪巧みだが、ボルススはそれを朗らかな笑顔で言ったのである。そんなボルススが、やおら生真面目な表情を作ったかと思うと、善良な好々爺を思わせる笑顔に変えた。前方に陣の前まで出迎えに出たフローイ国王ジソーの姿を見つけたのである。




