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戦いの角笛鳴る3

「儂の元へ集え、ルージの強者共。戦の女神パトロエよ、ご照覧あれ」

 リダルは兵たちに語りかけながらも周囲の状況に気を配ることを忘れては居ない。

「緑旗。裏切り者共はフローイか」

 リダルがそう呟いたのは、左右に駆け下ってくる部隊が掲げる旗を見たからである。斜面に向かって左側。大小の岩が転がし落とされ、街道は塞がれて兵を率いて戻ることはできない。右側のイドポワの門を見れば、門の向こうから戻ってきた小部隊が、門を内側から防ぐために駆け下ってきた、五百ばかりのフローイ兵と戦っていた。アガルススが王の加勢に向かわせた小領主の兵たちである。そして、王の元に集う兵士はざっと数えて二百数十、うち、戦えそうな者は二百に足らないだろう。


「でんれいっ、伝令でございます」

 そう呼ばわりながら、王の旗を求めて駆けてくる二人の兵士が居た。アガルススが王の加勢にとイドポワの門の後方に送った部隊が、斜面を駆け下ってきたフローイ軍左翼部隊と衝突し、その乱戦の中を駆け抜けてきたのである。ただ、二人の足下がふらつく様子があり、近づいてきた彼らの脚や腕が赤く染まっているのが見えた。

「アガルススさまから伝言でございます。『今しばらく、門を支えます故、王はお退き下さいますよう』にとのことです」

 本来は、右の拳を胸に当てて、言葉を伝えるのだが、伝言を伝えた男の肩から血が滲んでいて右腕がだらりと垂れていた。傍らの男は伝令のふらつく上半身を支えていたが、その男自身も腕や股から血を流していた。門の向こうのアガルススの凄絶な戦いを想像させる二人の姿である。

「伝令、大儀であった」

 王はねぎらいの言葉をかけ、意外なことを二人に聞いた。

「今、一人はどうした?」

 その言葉に一瞬戸惑った二人だが、顔を見合わせて意味を悟って、感激の表情を浮かべた。王が一兵卒に過ぎない自分たちを記憶していたと言うことである。出陣前にアガルススの陣でこの王に声をかけられたことがある。王はその時の兵士を記憶していて、あの時の三人組のもう一人はどうしたと尋ねているのである。

「リウズスはシュレーブの者どもと戦い果てました」

「左様か」

「王よ。我々はここで王と共に戦いまする」

「そのような姿では戦えまい」

 王の言葉にヂッグスが反論した。

「なんの。剣を持てなくとも足があります。敵を蹴り飛ばしてでも戦いとうございます」

 ふらつくヂッグスの体を支えるように傍らにいたリグロスも言った。

「足が不自由になれば、この口で敵の喉笛を食いちぎってリウズスの仇を討ってご覧に入れます」

「お前たちに大事な役割がある」

 王リダルはそう言いながら腰の剣を従卒に渡して命じた。

「その者に背負わせよ」

 腕の自由がきかないチッグスに、従卒は王の剣を背負わせ、ベルトで固定した。

「これは?」

「フローイの者どもにくれてやるのは惜しい。お前たちが、ルージまで持ち帰れ」

 戦に敗れて敗死したあと、敵に奪われるのは惜しいというのである。王は従卒が持っていた槍を手に、愛馬にまたがった。

「しかし、」

 リグロスは周囲を見回して、尋ねるようにそう言った。この王の命令は守らねばならないが、帰れと言われても戻る道は岩に阻まれ、その後に駆け下りてきたフローイの部隊に塞がれているのである。王は槍の穂先で斜面の上を指した。

「戻り口は塞がれた。我らが進む先は、この上のボルススのみ」

 リダルが言うのは、優勢な敵に囲まれた現在、勝機を見いだせるとしたら、敵の国王の首を挙げることのみ。その目標はこの斜面の上の森の上、今も器の合間から見えている王の紋の入った緑旗クラディクの下にいるというのである。王は言葉を継いだ。

「儂の傍らに控えおれ、儂が奴らの前衛に突入すれば、敵陣にも破れが生じる。お前たちはその破れ目を抜けて、崖の上の森を北へ、ヴェスターへと向え」

 リダルがそう命じたとたん、角笛の合図と共に正面の部隊が駆け下って来るのが見えた。ルージ軍の左右を塞いだフローイ軍が、いよいよその主力を動かしてルージ軍を殲滅しようというのである。時間に余裕はないのは分かっていた、ただヂックスには確認しておかねばならないことがあった。

「運良く戻りましたら、この剣はいかがしましょう」

 ヂッグスの問いに王は短く返答した。

王都バース近くのアワガン村にロユラスという者が居る。その者に託せ」

「ロユラス様」

 ヂッグスとリグロスの二人は顔を見合わせてその名を心に刻んだ。

 王は彼を囲む二百ばかりの兵に叫びかけた

「見よ。ルージの勇者共。裏切り者の正体はフローイぞ。裏切り者共を我らが審判のテツリスに代わって討ち取ろうぞ」

 王の言葉と共に、負傷して地に座り込んでいた兵士までが槍を杖代わりに立ち上がって叫んだ。

「裏切り者フローイを討ち取れぃ。裏切り者フローイにテツリスの審判を」

 アトランティスの人々の信仰にジメスという運命に基づいて裁定を下す神が居る。テツリスという神はそのジメスの息子で、この世界の正と邪について審判を下し、邪を罰する法の執行官のような役割を持っている

 王リダルを先頭に、ルージ軍部隊の突撃が開始された。王リダルに率いられた兵たちの表情に恐れはなく、テツリスの裁きを執行するかのような狂気のみ感じさせた。

 敵その裁きを受けるのはフローイ国王ボルススただ一人。しかし、その二百ばかりのルージ兵たちの前から駆け下ってくるフローイ兵は数倍。その固い殻を打ち破った先に、目指すボルススの本陣がある。


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