戦いの角笛鳴る2
王リダルが、前衛のアガルススからイドポワの門を抜ける位置にたどり着いたという申し送りを受けたのも、ずいぶん前のこと、今は王リダル自身がその門を、内側から眺める位置にいた。順調に見える行軍だったが、王の愛馬オスロケイアのみ、落ち着かぬ様子でたてがみが靡く強さで首を振り、時に立ち止まって、いなないていた。
「いましばらく我慢せよ。あの門を出れば街道は広くなる。また、お前に乗って……」
王リダルが愛馬にそう語りかけたとき、その門の方から、一人の男が駆け戻ってくるのが見えた。
「でんれぃー、伝令でございます」
大声でそう呼ばわりつつ門の外から駆けてきたのは、言うまでもなく、アガルススからの使者である。使者の様子は重大事を予想させ王の周囲に緊張が走った。
「いかがした」
リダルの短い問いかけに、使者が息を切らせながら答えた。
「進軍を停止の具申に参りました」
「アガルススがそう言うたのか」
「『前方にシュレーブ軍の陣。我らに敵意あり』と、お伝えせよとのことでございます」
「敵意だと?」
「奴らは旗を掲げるアガルスス殿に矢を射かけてまいりました」
思いもかけない状況だが、王リダルは即断して兵に命じた。
「後方部隊に申し送りせよ。行軍停止」
命令は狭い街道に沿って、兵士から兵士へと、王の命令が伝わっていった。ただ、ことは重大である。リダルは一人の従卒に命じた。
「お前は、駆け戻って後続のアゴースとバラスに伝えよ。門の出口でアガルススがシュレーブ軍四千と遭遇。我らに敵意があると。即刻、兵を下げよ。よいか。兵を下げよと念を押せ」
従卒は頷いて狭い街道を駆け戻った。狭い街道上の兵をかき分けながら進むために、たどり着くのに時間はかかるだろうが、後続のアゴースやバラスも熟練した武人である。使者の口上を聞けば状況を察するだろう。
後は、アガルススの部隊である。熟練の将士とはいえ僅か五百ばかり。敵意をむき出した数千の軍勢に晒して置くわけには行かないのである。王は地形を見回した。左に見える斜面はいま、街道上にいるリダル直卒の部隊三百を優に収容する場所に見えた。そして、街道上の空いた場所にアガルススの部隊を門のこちらに後退させる。そう考えたリダルだが、はたと思い当たった。敵意のある軍が門の出口で待ち伏せをしていた。もし、ルージ軍を襲うとすれば、この斜面ほど敵が兵を伏せるのに適した場所はない。
王リダルがそう気づいたとたん、彼の想像を裏付ける戦いの角笛が斜面の上から聞こえてきた。数百の敵が門の内側に内側を目指していた。
アガルスス隊との連絡が絶たれる危険がある。王リダルは一瞬にしてそう判断した。駆け下ってきたのは門の内側を押さえることを目的にした部隊である。そして兵の喧噪に気づいて左に目を転じてみれば、後続のアゴースやバラスへの連絡に送った従卒が狭い街道に入っていくや否や、森が途切れて地面や岩が露出する崖の上から、巨大な岩がいくつも転がり落ちていた。何者かが街道を封鎖するために落としたに違いなかった。王リダルの直卒の部隊はこの斜面の下に左右の行く手を遮られて孤立しているのである。
一刻の猶予も無かった。王リダルは愛馬オスロケイアにまたがって、声を張り上げた。
「静まれぇい。ルージの強者共よ。この儂と共に戦おうとする者はおるかぁ」
各所で王の言葉に応じる兵の声が響いた
「おおっ、我ら、常に王と共にありっ。王と共に戦わん」




