前哨戦。アガルススの戦い
敵味方の距離は、1フェスゲリア半(約三百メートル)を少し超える距離だろうか。シュレーブ兵たちは、一斉に剣と盾を構え、かけ声をかけながら足並みをそろえて前進した。この時代のアトランティス軍の標準的な戦い方だった。敵を威嚇しつつ前進し、弓や投石の射程距離に入れば、後衛の一部が敵に矢を射かけ、投石機で石を投げる。この間も主力は前進しつつ距離が半ゲリア辺りに迫ったところで、指揮官の合図と共に一斉に駆け足で敵に襲いかかるのである。
そして、シュレーブ軍は弓を主な武器とする長距離攻撃専用の部隊を持っていた。この時代そんな部隊を持っているのは、兵力や資金が潤沢なシュレーブ国のみで、王ジソーの自慢の兵力でもあった。自慢であるだけに王直属の指揮下で動く。この時は王を守るように王の本営に取り残されていた。
前進するシュレーブ軍の部隊の横の間隔が縮まった。兵を指揮する将軍が怒鳴り声を上げれば、隣の部隊の将軍に届くという距離である。
将軍エムススが苛立たしげに怒鳴った。
「ユキヌスよ。ここは儂の領分ぞ。出しゃばるではない、兵を下げよ」
「何を言うか。敵の正面にいる我らにこそ、先鋒の任が与えられて当然。兵を下げるのは、エムスス、お前じゃ」
将軍たちが怒鳴り合いを繰り広げる中、兵は前進を続け、ルージ軍の小さな陣を目指して三方から前進している。本来は指揮の混乱を避けるために距離を置く部隊の兵士たちは、隣の部隊の兵士と接触せんばかりである。
「儂の一番手柄を盗むつもりか、さすがは薄汚い盗人の小倅じゃのう」
盗人というのはユキヌスの父親の蔑称である。隣の領主との些細な領土争いを起こし、幾ばくかの領地を奪った。王に取り入るのが旨いために、特に咎められずに自分の物とした。恥ずべき一家。王へのおべっか使い。ユキヌスの一家には、他の貴族たちからそういう蔑視を受けていた。父を侮辱する言葉をユキヌスは腹に据えかねた。彼は部隊に命令を下した。
「手柄を横取りされてなるものか。ユキヌス隊、全軍突撃! 敵を踏みつぶせぃ」
ユキヌスの命令に、エムススもまた命令を下した。
「我が隊も突撃だ。手柄は我々のものぞ」
二つの部隊の両側の部隊にも命令は広がり、ゆっくりと行進していたシュレーブ軍兵士たちは一斉にかけ始めた。




