シュレーブ兵たち
一方、シュレーブ軍の陣営では、シュレーブ軍随一の猛将ナグマルが討ち取られた衝撃は大きく、指揮官たちの動揺が隠せない。そして、王の怒りは亡くなったナグマルに向けられている。
「なんという愚か者よ。儂の裁可も得ず勝手に出向いたばかりか、討ち取られ、我が軍の士気を乱しおって」
この時、シュレーブ王ジソーは、ルージ軍の方からなにやら声が響いているのに気づいた。言葉を聞き取ろうと天幕の外に出てみると、シュレーブ軍の兵たちは、敵の陣から聞こえる言葉に動揺し、互いに顔を見合わせ合い、説明を仰ぐように指揮官を眺めた。指揮官もまた投げかけられる言葉に、混乱を隠せないでいた。
出陣の時は、聖都に巣喰う蛮族の軍を討つのだと命令を受けていた。ところが、聖都にたどり着いてみると、そこでは蛮族を討つどころか、神帝が殺害されていたという信じられない話を聞かされた。更に、その犯人であり、アトランティスに覇を唱えようという野望をむき出しに軍を進める反逆者どもを討つという名目で軍は二つに分けられ、一部は南から来るグラト軍を迎撃に向けられた。彼ら自身は王と共に、ルージ、ヴェスター軍を迎え撃つために北上し、数日前にこの地に陣を敷いた。そして、今、反逆者であるはずのルージ兵どもから、裏切り者呼ばわりされているのである。状況が飲み込めない兵たちの混乱が収まる様子がなかった。
王の傍らに控えていた将軍の一人エムススが言った。
「ルージ軍とはいえ、イドポワの門のこちらにいるアガルススの手勢など僅かなもの。我らの軍を進めて一揉みすれば容易に捻りつぶせましょう」
「おおっ、エムススよ、よぉ言うた」
同輩のみが王の賞賛を浴びるのは面白くはない。この時、王の前に進み出たのは、シュレーブ軍の中でもナグマルと並んで勇猛さを讃えられる将軍ユキヌスだった。
「ルージの奴らなど、我が部隊のみで充分。我が王よ、私に先鋒をお命じ下さい」
その言葉に呼応するように、王の前に居並ぶ将軍たちは口々に先鋒を申し出た。何しろ、エムススやユキヌス手勢は一千人近い。アガルススが率いる兵を遙かに上回る。それ以外の将軍たちが直卒するそれぞれの兵力も門の前に陣取るルージ軍を上回っていた。自分の手勢で挑みかかれば目の前のルージ軍など踏みつぶしてしまえると考えているのである。手柄を他の将軍に奪われてはならない。この時のシュレーブ軍将軍どもの憎しみに似た競争心は、敵であるルージ軍より、味方の将軍へと向けられているようだった。
「おおっ、なんという頼もしい者たちじゃ。では、あのアガルススを討った者を一番手柄といたそうぞ。どうじゃ?」
「王よ承知申しました」
王の提案に、将軍たちは一斉に同意の言葉を叫んだかと思うと、一番手柄を挙げるのは自分だと言わんばかりに自陣へ駆け戻って行った。
「手柄を立てて参れ。奴らを葬れば、名誉も褒美も、そなたたちの望むままぞ」
王ジソーは勝利を確信して、そんな言葉を将軍たちの背に投げかけた。
やがて、それぞれの将軍の陣で勝手気ままに突撃の合図の角笛が鳴り響き始めた。シュレーブ軍の本陣で王ジソーが勢いよく前進し始めた主力を頼もしげに眺めて、ルージ軍をあっという間に壊滅させる様子を想像し、周囲の家臣に機嫌良く言った。
「見よ。ナグマルなど居らぬでも、我が軍の勝利は間違いないわい」




