表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/491

新たな陣立て

 その日の朝、まだ朝食も取らない時間に、シュレーブ国王ジソーは、後方に陣を敷いていたフローイ軍のイドラスの訪問を受けた。挨拶もそこそこにイドラスはジソーに詰め寄った。

「王よ、陣立てを変えられますのか?」

 イドラスがそう言ったのは、シュレーブ軍が陣を前進させつつあることである。

「おおっ。その通り」

「それでは、我が王ボルススとの約束が違いましょう。至急、シュレーブ軍の陣を下げていただきたい」

 イドラスも普段は温厚で礼儀をわきまえた男である。ただ、この緊急時に、言葉に腹立たしさが混じっていて、言葉が荒い。その荒っぽさに王ジソーは苛立ちを深めた。そもそも昨夜までの陣立てはボルススが指示したようなものだった。陣立てのみならず狼煙という言葉を繰り返し使って、戦を始める頃合いさえ指示していたような気がするのである。

 昨夜遅く、シュレーブ軍のナグマルを筆頭とする将軍どもが、王の陣を訪れて懇願した。もっと陣を前進させて積極的に戦うべきだという。シュレーブ軍随一の猛将で、王ジソーが他国にも自慢しているナグマルの言葉だけに、王の心に響いた。

 シュレーブ国の将軍たちは、ルージ軍三千という情報は聞き知っている。ただ、ここ数日、ルージ軍が出てくるはずのイドポワの門の前の広い空間を眺めていれば、三千という数字が、四千、五千と頭の中で膨れあがり、自軍を上回るルージ軍と戦わねばならぬかのような不安を煽ったのである。決して、臆病な者たちではないが、容易な勝利があればそれを選びたくもなるだろう。

 陣をもっと前進させ、ルージ軍が出てくる場所を縮めてやれば、彼らシュレーブ軍が一度に戦うルージ軍の数は減り、イドポワの門からこちらに出てくるルージ軍を少しづつ討ち取っていけばいい。こちらは全軍、敵のルージ軍はイドポワの門をくぐってくる僅かな兵である。シュレーブ軍にとって優勢な戦況が続き、そのうちルージ軍も前進を諦めて後退するだろう。

 この新たな思いつきは王ジソーを喜ばせた。何より今まで想定していた戦いは、ボルススに押しつけられたような不快感がある。しかし、配下の将軍たちの提案は、ジソーに独自の選択権を与えたのである。

 王ジソーは喜んで配下の武将の勇ましげな提案を受け入れた。ただ、門の内側のフローイ国王ボルススにそれを伝えなかった。陣を移動させたという既成事実を作ってから伝えれば良かろうと考えていたのである。


 今朝、王ジソーは配下の武将たちが陣を移動させる喧噪で目覚めた。今日の大勝利を予想させる音に、彼は機嫌が良かった。しかし、今、目の前にいるフローイ軍の武将が彼の計画に文句を言いぶち壊そうとする。

 王ジソーは怒鳴るようにイドラスに言った。

「我が軍の差配は儂がする。口出しは無用である。とっとと自分の陣に戻り温和しく眺めておれ」

 フローイ軍の一介の武将として、イドラスはシュレーブ王にそう言われると反論の余地はなく引き上げるしかない。イドラスはぬぐいきれない不満をにじませつつ、王ジソーに一礼し天幕を出た。入れ替わりに給仕の者たちが天幕に入っていった。温かなスープが芳しい香りはなってイドラスの鼻を刺激した。ジソーという王は、この戦場にも調理人を同行させているらしい。

(そんなことでは、そのうちに、墓の下で捧げ物の供物を食らうことになりますぞ)

 イドラスはこの戦場感覚の無い王に、心の中でそんな言葉を吐き捨てた。王ジソーの天幕の前で、イドラスを待っていた男に手短に命じた。

「お前は、急ぎこの事態を我が王に伝え、指示を仰げ」

 激変した状況を王ボルススに伝える必要があるだろう。彼自身は自分の陣に戻って変化に対応せねばならない。しかし、そう命じて送り出した使者がまもなく傷を負って帰陣した。前方に布陣するシュレーブ軍の将兵に阻まれて通ることができず、無理に通ろうとして兵士と小競り合いになったという。イドラスは驚愕した。確かに、シュレーブ軍四千の大軍はイドポワの門の近くに、蟻がはい出る隙間もないほどに布陣してその出口を塞いでいた。イドラスには、イドポワの門の内側に兵を伏せているボルススにこの状況を伝えるすべがないのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ