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待ち受ける者たち1

 これからやってくるはずのルージ・ヴェスター連合軍を待ち受けるのは、街道が渓谷を抜けて、ようやく視界が広がるイドポワの門と呼ばれる場所である。

 シュレーブ軍がイドポワの門にたどり着いたのは、リダル王が渓谷に突入する三日前の夕刻だった。シュレーブ国王ジソーを腹立たしくさせたのは先に到着したフローイ軍の陣に翻る旗である。しかし、三千と聞いていたフローイ軍は、眺めてみれば五百にも足らない数である。ジソーが進軍を停止しフローイ軍の陣に使いを出すと、王ボルスス自身が僅かな配下を伴ってシュレーブの陣を訪れた。王ボルススは王ジソーの姿を見つけるや人の良い笑顔を浮かべて後から来たジソーを歓迎した。

「よく見えられましたな。ジソー王の到着を今か今かとお待ち申しておりましたぞ」

「お早いお着きですな」

 王ジソーはやや皮肉を込めてそう言った。ジソーはそう言うがフローイ軍はこの地に着くどころか既に布陣を終えていた。一部の兵士をここに残したのは、南から進軍してくるシュレーブ軍をこの辺りで足止めし布陣させるためである。ボルススは皮肉に気づく様子も見せずに言った。

「今回は、シュレーブ国とジゾー王のために趣向を凝らしております」

「趣向?」

「左様。シュレーブ軍が主力としてルージの奴らめを壊滅する。そういう趣向ですわい。お聞きになりたいかな」

 なにやら利をもたらしそうなボルススの提案に、ジソーは機嫌を直して、ボルススの説明を促した。

「是非」

「奴らはここで隊列を整えましょう。全てのルージ軍が門をくぐり隊列を整えて、未だに戦いの準備も整わぬところを、精強なシュレーブ軍が一気に奇襲をかけてこれを包囲殲滅するのです」

「して、ボルスス殿は?」

「我らフローイ軍は門を少し入った辺りで、奴らの退路を断つお手伝いをいたしましょう」

「なるほど」

「既に、我が兵は門の内側に伏せてありますわい」

 そんなボルススの言葉に、ジソーはようやく理解して頷いた。フローイ軍の主力はイドポワの門の向こうに隠されているのである。ボルススは思わせぶりに言葉を継いだ。

「いかがかな。あのリダルめを討てば、ジソー王の勇猛さはアトランティス全土に鳴り響きましょうぞ」

 ボルススはジソーの表情に心の内を読み取りながら、更に彼の虚栄心を煽った。

「男どもは敬服し、吟遊詩人は各地でジソー王を讃える歌を歌い、女子供はそれを口ずさんでジソー王の偉業を心に刻むのです」

 王ボルススは人の良い笑顔で王ジソーの肩をたたくような親しさを込めながら言った。ただ、腹の底では、王ジソーの心を煽る言葉がこれほどすらすらと口をついて流れ出す自分の弁舌に満足している。事実、この時の王ジソーは戦いの結果の名誉のみで心が満たされていた。

「あい分かった。我らシュレーブの奮戦ぶり、とくとご覧いただこう」

 ジソーの言葉に、ボルススは新たな提案を持ちかけた。

「では、貴軍の陣立てを。ルージの奴らめは、このイドポワの門を出て一ゲリア半(約1200メートル)の辺りで隊列を整えましょう。貴殿の軍は、この辺り、二ゲリア半の距離を置いて隊列を整えるルージの奴らの目に入らぬところに陣を敷くのがよろしかろう。ルージの奴らめが門をくぐり終えた頃合いに、我らが合図の狼煙を上げまする」

「狼煙ですと?」

「よろしいか? リダルめを討ち取るのはジソー殿ですぞ。くれぐれも、リダルめがあの門を出、奴の部隊がこちらで無防備な姿を晒すまでお待ちなされ」

「なるほど、門のこちらに姿を見せたリダルめを討ち取れと? 手柄は儂のものだな」

「その通り。ジソー殿がリダルめを討つ勇壮な姿が目に浮かぶようですわい」

 王ボルススは腹の底で別のことを考えている。ルージ軍、とりわけ、王リダルが直卒する部隊と直接にぶつかって兵を損耗するなどまっぴらである。そういう役割は、このジソーに押しつけねばならない。しかし、それと悟らせぬよう、ボルススは気前良く申し出た。

「ここに残した我が軍の精兵五百、ジソー王の配下として存分にお使いくだされ」

 この辺りの地形は、あらかじめ様々な情報収集で知っていた。ただ、実際に現地を見聞してみると、予定した場所には、二千五百の兵を隠すことしかできなかった。残された兵はイドポワの門の外に布陣させたが、その兵を使えという。ただ、勝利の名誉にとりつかれた王ジソーは提案を一蹴した。

「いや、フローイ軍部隊など無用。貴軍の五百には、後方で我らの戦ぶりをとくと見ていただこう」

 王ジソーのそんな言葉に、王ボルススは手を打って褒め称えた。

「おおっ、ジソー殿の何という勇猛さか」

 ボルススは精兵五百と大げさに吹聴したが、実数は三百足らずである。しかも、物資の運搬やそれを守るための補助的な兵士にすぎない。その兵を精強なルージ軍との戦の前衛で使われて消耗させられてはかなわないのである。ボルススの予想通り、ジソーは提案を蹴り、ボルススは予備兵力は一兵も損なわずにすむのである。もちろん、王ジソーがボルススの予備兵力を使うと言えば、別の手段を講じてそれを避けただろう。

 ボルススは早速傍らの兵士に、補助部隊の指揮官イドラスの名を挙げて命じた。

「お前は、イドラスに後方に移動せよと伝えよ。猶予はならぬ、即刻移動せよとな。ジソー王の邪魔になってならぬ」

 ボルススの命令に呼応するように、ジソーもまた配下に命を下した。

「おぉっ。我らも布陣するぞ。各将軍に伝えよ。イドポワの門から二ゲリア半の距離を置き、林に兵を伏せて次の命を待て」

「では、儂も我が軍の陣を見回ります故、戻らせていただこう。我らが上げる狼煙を楽しみにお待ちくだされ。よろしいか? 狼煙を待って一気に叩きつぶすのですぞ」

 先ほどからボルススは繰り返し狼煙ということを言った。ボルススにとって大事なことだが、王ジソーにとって繰り返し聞かされて、そのしつこさにやや腹立たしさを感じていた。

「ああっ。愉快、愉快。これで勝利と、シュレーブの栄誉は間違いなしですわい」

 王ボルススは陽気に笑いながら、ジソーの元を去った。彼も忙しい。今からフローイ軍の布陣状態を確認せねばならず、ヴェスター国に忍ばせてある密偵からの情報も検討せねばならないのである。

 今までの情報によれば、ルージ・ヴェスター連合軍はルージ軍を先頭にやってくる。ボルススは開戦は二日か三日後になるだろうと考えていた。


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