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イドポワ渓谷突入

 その歴史の中で、アトランティス大陸中央の肥沃な平原にシュレーブ国が急速に勢力を広げ、周辺の諸国がその肥沃地域の支配を求めて侵入し、繰り返し小競り合いを起こしていた。そのため、中原の覇者シュレーブ国と周辺諸国の関係は必ずしも良くはない。

 ただ、北東部に位置するヴェスター国のみ例外だった。その状況を作り出したのは、両国の境にあるイドポワ渓谷の地形である。東西両側は切り立った崖がそびえ、その渓谷の底の街道は、人が一列か二列でなければ通れないのである。

 大軍を動かすに向かず、どちらからも攻めがたい地形が、シュレーブ国とヴェスター国に平穏をもたらしてきたわけだった。

 今まで平和だった街道を、今、ルージ軍が進み始めている。前衛を行くアガルスス率いる一隊は、隊列を一列に整え直して渓谷へ突入した。王リダルは愛馬を降りた。街道は細いばかりではなく幾つものアップダウンがあって、馬に乗ったまま進むことができないのである。従卒が王の馬の轡を取ろうとした。王に代わって自分が王の愛馬を曳いていくというのである。

「よい。自分で曳く」

 王は短くそう言って、馬の轡を取って部隊を先導し始めた。

「見よ。オスロケイアも父に良く似て、勇敢な馬だ。これからの戦に逸っておるわ」

 アトラスの愛馬アレスケイアの兄に当たる馬だが、リダルが過去の遠征で利用した愛馬の名を引き継いでいる。その馬が、これからの主人の運命を察し、それを避けようとするかのように、轡を曳くをリダルに抗い、嘶きながら後ろ足で立ち上がる様子を見せたのである。王リダルは愛馬の首筋を叩き、たてがみを撫でて興奮を納めさせた。鼻面を撫でられた愛馬は王に抗うことはなく、主人に付き従った。この王は配下の者だけではなく、愛馬を信服させる気迫を持っていた。


 そんな地形が、渓谷の出口のイドポワの門と呼ばれる場所まで六ゲリア(約5km)は続くのである。兵は一列や二列になりながら、その道を押し合いへし合い歩む。ふと立ち止まった兵士に後ろの兵士がぶつかって、そんな混乱が次々と広がらぬように、兵士は腕を伸ばしても前の兵士の方に届かぬほどの間隔を置いている。

 前衛のアガルススの部隊がイドポワの門を抜けて隊列を整え直し、後続の兵士たちのために昼食を準備し終わる頃に、王リダルの部隊が到着する、残りの部隊、更に、その後に続くヴェスター軍をそこで待てば、夕刻になるだろう。そういう長い隊列である。今も昔も、側面を突かれたとしたら、これほど無防備な隊列はない。ルージ軍とヴェスター軍はイドポワの門を抜けたところで野営をする予定になっていた。

 ただ、そこには三日前からフロー軍とシュレーブ軍が布陣している。両軍にとってここで待っていれば、間違いなくルージ・ヴェスター連合軍と遭遇するという場所である。

 王リダルがふとその気配に気づいて見上げれば、東の崖の上に野生の山羊の群れが姿を見せて、じっとこちらを見下ろしていた。深い渓谷の底には風が吹かず、暑さのみたまっているようで、肌に幾筋かの汗が流れた。


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