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シュレーブ国出陣2

 昼を待たずに、ドリクスは王ジソーの呼び出しを受けた。二人目の使者の来訪があったのである。使者は語った。

「パロドトス様の使者でございます。本日、フローイ軍三千が領内を通過いたしましたのでご報告にと」

「早いな」

 ドリクスがそんな疑問を呈した。順序から言えば、ボルススが出陣を了解したという連絡があり、出陣の準備をし、フローイ領地を行軍してシュレーブにたどり着いた段階でパロドトスからの使者が来るはずだ。その二つの連絡かほぼ同時だったというのは、ボルススは出陣を了解したのとほぼ同時に軍を進めていたと言うことである。

「まぁ、良い。早いに越したことはない。して、パトローサにつくのはいつ頃か?」

「それが……」

 使者が語ったのは、フローイ軍がこのパトローサを避けるように北東への街道を取ったことである。

 第二の使者からほとんど間をおかず、三人目の使者が到着した。王ジソーが待ちわびていたフローイ国からの使者である。

「我が王ボルススからの口上を申し述べます。戦場はイドボワの門。我々は全力で向かいます故、貴軍も急ぎ出陣されますよう」

「あい分かった。ボルスス王には、よくぞ出陣を決意くださったと礼を伝えてくだされ」

 王ジソーは満面の笑顔で使者を追い返したが、使者が姿を消すのと同時に、別人のように笑顔を怒りの表情に変え、床を踏みならした。

「ボルススのずる賢さよ」

 国王ジソーが憎々しげに言葉を吐き捨てた。今までフローイ国に出陣を急かしてシュレーブ国が戦の主導権を握っているつもりだったが、逆に出陣を急かされたことで主導権を奪われたような気になったこと。そして、フローイ軍を二手に分けようという計画が崩れたことである。

「フローイ軍が三千。では、我々が差し向ける兵力は……」

「南東から来るグラト軍の軍勢は多くとも二千五百といったところ。四千も兵を差し向ければ事足りましょう」

「では、残りの四千を」

「それが宜しいかと」

「将軍どもに命ずる。即刻、パトローサを出陣せよ」

「では、その手配をし、明日の朝の出陣を……」

「いかん。今日出陣するのだ。ボルススに遅れを取ってなるものか」

 その王の決断に、出陣は未だ先だと考えていた将士は混乱し、優美な王都パトローサの雰囲気は荒々しく変貌した。


 ドリクスは生徒であるエリュティアの傍らで、窓からそんな雰囲気を味わっていた。エリュティアにもそんな混乱が乗り移ったように不安な様子で疑問をぶつけた。

「父上の軍はアトラス様のルージ国と戦うのですか」

「その件は今は内密に」

 ドリクスのその一言でエリュティアから周囲へ秘密が漏れる心配はない。素直な少女は秘密にしておかなくてはならないという意識をすり込めば素直にそれを守るだろう。ただ、確かに混乱する事態に違いない。聖都シリャードに巣くうアテナイ軍を討伐する。そう言う名目を掲げてシュレーブ王は参陣のふれを出し、この都に八千以上もの大軍を集めた。もちろん、本来の敵はルージ国王リダルを首魁とする反乱軍である。しかし、リダル王の勇猛さとルージ軍の精強さはこのシュレーブにも響き渡っていて、相手がルージ軍と聞けば将士の士気もくじけるかも知れないという不安をもっていたのである。

 この王都パトローサを出陣した八千二百の大軍は、ルードン河沿いに東に進み、聖都シリャードで方向を転じて、一部は南から侵入するグラト軍、王ジソー率いる主力はフローイ軍と合流して、北から来る、ルージ・ヴェスター合同軍を迎え撃つ手はずである。


 エリュティアは聖都シリャードでのアトラスとの別れを思い出した。アトラスはエリュティアに「女神リカケーの涙」と呼ばれる真珠を与え、彼女は今でも肌身離さず持っていた。取り出して眺めてみれば、彼女がとまどう心を写すように輝きは薄れたが涙の形は保っていた。

 彼女は別れ際に言った言葉を思い出した。

「願いますれば、貴方様が救国の英雄レトラスとして、私の元にお戻りくださいますように」

 今、その自分の言葉は、彼女の心の中で滑稽さや迷いをもたらしている。では、どんな言葉、どんな関係なら良かったのか。彼女はそれを見いだせずにいた。彼女にできるのは祈ることだけだった。

「あの方に、真理の女神ルミリアの導きがありますように」

 彼女はアトラスから与えられた「女神リカケーの涙」と呼ばれる真珠を握りしめたまま遙か遠くに視線をやった。


 もう一方、海を隔て離れたルージ国の王の館で、アトラスがエリュティアから与えられたクレアヌスの胸板を眺めていたと知ったら何を語っただろう。

 事実、同じ時、アトラスはクレアヌスの胸板の表面に彫り上げられた真理の女神ルミリアにエリュティアの面影を重ねて思いにふけっていたのである。やや滑稽なのは、そのアトラスがその左腕にはリーミルから与えられた銀の腕輪をしていたことかもしれない。聖都シリャードにおけるリーミルやエリュティアとの出会いは、この無垢な若者の心の中で恋愛にまで至らないと言うことだろうか。


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