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リダル王帰還

 都から郊外に目を移せば、街道沿いのあちこちに、幾十もの領主の旗が立ち並び、兵が寝泊まりするテントが真新しく白く張られていた。そんな中、猛将との誉れ高いアガルススの陣を背景に三人の若い兵士が立ち並ぶ旗を眺め回していた。

「おおっ、あれは南のバチックの領主マレニル様の旗。先の戦で我らが王とともに戦った勇者じゃ」

「向こうには東の雄ライヴス殿が」

「これはいよいよ楽しみな戦になりそうだな」

「しかし、どのお方も我らが主のアガルスス様には及ぶまいよ」

 何気ない兵士たちの会話に、猛将と言われるアガルススが、兵士に慕われている様子がうかがえた。そして気さくな性格は領民たちからも敬愛を集めていたのである。ただ、兵士の年齢は若く、先の遠征を経験した者どころか、故郷を離れて参陣したこの地で、自分の領主アガルスス以外の貴族の顔を知っている者も居ないのである。

 そんな会話を交わす兵士の一人が、街道沿いに新たに姿を現した武人を見つけて指さした。先頭の乗馬姿の男と、それに付き従うわずか五名の従者の姿である。

「あの新たな剣士は?」

「旗持ちがおらぬ。どこぞの流浪の剣士が手柄を求めて来たんだろうよ」

 兵士が言うのは、領主ならその身分を示す旗を掲げる従者が付き従っている。新たに姿を現した者たちはその旗も掲げず、たった六人では兵力として役にも立たないというのである。

「しかし、なにやら勇者のような風格がある……」

「よし、あの男を我が陣に招いてやろう」

「なるほど。我が陣に勇者が増えれば、アガルスス様もお喜びになる」

 剣士一行が陣の前を通りかかったのを幸い、三人の兵士たちは一行の前方に手を広げて立ちふさがった。従者たちがやや緊張感を示して剣の束に手をかけたのを、馬上の男が制し、立ちふさがった者どもに声をかけた。

「何事か?」

 低いがよく通る声である。

「我らは、アガルスス様の配下である。名のある剣士とお見受けして、ご相談がある」

「相談?」

「我があるじ、アガルスス様の幕下に加わられてはいかがか」

「ほぅ。儂にアガルススの陣に加われと?」

 男は兵士たちが敬愛する領主を呼び捨てにしたのである。兵士は怒りを抑えつつ言葉を継いだ。

「左様。さすれば手柄を立てる機会もあろう。何かご不満か?」

 提案を受け入れる気配のない男に別の兵士が注釈を加えた。物わかりの悪い男に腹を立てていて、その声が思いの外大きい。

「アガルスス様は、ルージでも並ぶ者無き勇者にて」

 この時、天幕の中から、騒ぎを聞きつけたアガルススが顔を見せ、事の顛末を察すると同時に、三人の配下を怒鳴りつけた。

「馬鹿者ぉっ。そのお方は、我らが王じゃぁ」

 そんな怒鳴り声を上げるアガルススを馬上から眺め、リダルは旧友にでも声をかけるような気さくさで挨拶をした。

「おぅ。アガルススか。久しいの」

「我らが王もご壮健にて」

「お前の怒鳴り声は、相も変わらず腹に響くわ」

 先ほど声をかけた兵士たちは、王に不敬を働いてしまったことに気づいて、地にひれ伏していた。アガルススはそんな配下と王を見比べるように言った。

「我らが王のお人の悪さも、相変わらずですな」

 最初から身分を明かせばよいものを、このような若輩の兵士をからかっておもしろがるとはどうしたことかと文句を言うのである。

「まあ、許せ」

 王は笑いながらアガルススに許しを請い、兵士たちに声をかけた。

「お前たち、名は?」

「ヂッグスでございます」

「リウズスと申します」

「レグロスです。陛下」

 リダルはその者たちの名を一人も間違えずに口にして語りかけた。

「ヂッグス。リウズス。レグロス。次の戦で手柄を立てて、この儂を配下に加えてみるがよい」

 王はアガルススに向き直って命じた。

「アガルスス。明後日、戦の評定をする。館に出張って参れ。他の領主どもにも、そう伝えよ」

 リダルはそう言い残して笑いながら去った。兵士たちはただ唖然としながらも、領主を通じて従うべき指導者の人柄にふれた。アガルススは久しぶりに再会した王の後ろ姿を頼もしく見送りつつ、その背になにやらわずかに失望感を漂わせているのに気づいて首を傾げた。もし、アガルススがアトランティス議会から帰国したリダル王が、その直後に北の方へ姿を消していたことを知っていれば、リダルがその目的を果たし得ないで戻ってきたことに気づいたに違いない。


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